令和の貫通型車両:京成電鉄3200形

近年登場した貫通型車両を中心に、乗務員室内の限りあるスペースに凝らされた創意工夫を紹介する「令和の貫通型車両」シリーズ。第2回となる今回は、まさしく令和生まれの貫通型車両を代表する形式の一つ、2025年にデビューした京成電鉄3200形を紹介します。

1 車両の概要

車外から見た中間車-先頭車連結部
4両編成の片割れ2両(左)を4両編成(右)に連結して6両編成を組成
参考:3500形の先頭車-中間車連結部

京成電鉄3200形電車は、2019年デビューの3100形をベースとしながら、需要の変化に対応できる “フレキシブルな車両” をコンセプトに開発された一般型車両です。2両単位で編成両数を組み替えられるシステム構成により、現在同社で運用される4両編成・6両編成・8両編成の3種類すべてに対応することで、輸送需要に合わせた運用の効率化や環境負荷の低減を図っています。2026年4月時点では6両編成として京成線内のみで運用されていますが、構造上は都営地下鉄浅草線・京急線への直通にも対応しています[1]実際、総合車両製作所(J-TREC)横浜事業所製の編成は京急線金沢八景駅から自力走行で回送されている。

なお、本形式の導入によって順次置き換えが進んでいる3500形(1972年デビュー)も2両単位での組み換えが可能で、定期検査や故障等の車両状況に応じてその都度必要な編成両数に変身する “便利屋” としての役目を担ってきました。そんな3500形の用途を受け継ぐ3200形は53年越しの正統な後継車と言えます。

2 貫通路の構造

2.1 乗務員室背面

乗務員室仕切り

乗務員室背面の仕切り扉は引き戸式です。中央やや助士席側に配置されており、運転席側に開きます。運転席側には仕切り扉の戸袋窓が、助士席側には開閉可能な窓が設けられており、従来形式と同じように車掌が車内放送の音量をチェックすることが可能です。本形式は搭載機器の増加により乗務員室の奥行きが拡大された影響で、従来形式と異なり乗務員室背後に座席は設けられていませんが、代わりに立席利用者に配慮した腰当てが設置されています。

仕切り扉の上部には先頭時かつ非常事態発生時に避難経路として使用できることを示す「通行可」ランプが設置されています[2]2024年度製造車は準備工事状態で出場。2025年度製造車から本設。。これは、本形式がワンマン運転に対応(準備工事)していることと関係した設備だと思われます。

2.2 乗務員室全体

先頭時の乗務員室内
連結時の乗務員室内
運転席側の仕切り扉
先頭時は運転席背後側に収納される
助士席側の仕切り扉
先頭時は壁面のくぼんだ部分に収納される
連結部側から客室側を見る

連結時は運転席側・助士席側ともに閉鎖することで貫通路を構成します。その点は直通先の京急電鉄1000形1800番台(貫通型仕様)と同様ですが、仕切り扉の配置や展開方法などは大きく異なります。

運転席側スペースは運転席右側背面(背面仕切り扉の戸袋窓がある場所)に折りたたんでいた折り戸を展開する形で閉鎖されます。一方、助士席側スペースは客室寄りの固定仕切り部分に折りたたんでいた折り戸を、まずは180度回転、さらに子扉を180度回転する形で閉鎖されます。子扉は親扉より少しだけ小さく、折りたたんだ時に壁面のくぼんだ部分にピッタリ収まるのが面白いポイントです。

助士席側の前面寄りは固定された仕切りが設けられており、下方には非常時の避難方法が掲示されています。

扉の取手を考慮したくぼみ
運転席横のスペースが折り戸の収納場所
背面上部にあるのがワンマン・ツーマン切換スイッチ
助士席側客室寄りの各種機器
下方には消火器を設置
助士席側前面寄りに連結操作スイッチを設置
下方には非常はしごを収納

乗務員扉横のドアスイッチは3100形および3500形・3600形ワンマン対応改造車と同じく間接制御式です。運転席背面上部にはワンマン・ツーマン切換スイッチが設けられており、その下にも何らかの機器を設置するためと思われる区画が2つ準備されています。

助士席側客室寄りには放送機器・行路表立て・タブレット端末立てなどがコンパクトにまとめられています。前述した開閉可能な窓は従来形式よりも少し遠い位置になったため、下方に踏み台として小さなへこみを設けることで、小柄な乗務員でも手が届きやすくしたそうです。

運転席側スペースの仕切りを兼ねる前面貫通扉
連結相手側から連結部を見る

連結時は前面貫通扉を運転席側に開いて固定することで、客室寄りの折り戸と合わせて運転席側スペースの仕切りに変身します。最小限の部品で貫通路を構成できる機能性はもちろん、隙間や凸凹がとても少ないデザイン性も非常に優れており、貫通型車両としての完成度の高さを感じるポイントです。

2.3 運転台

連結時の運転台
中間連結時はモニタ装置が消灯

運転台は3100形の基本レイアウトをベースとしながら、列車無線受話器やスイッチ類などの配置を変更することでコンパクト化を図り、ゆとりある運転台構造と貫通路スペースの両立を図っています。正面右側に設置されたモニタ画面は従来形式より大型化され、各種機器の状態や次駅情報、また従来形式は個別の表示灯だったノッチ・ブレーキ段数表示などもまとめて表示されます。モニタ画面の上部にあるのは行路表立て、スイッチ類の右側にあるのはタブレット端末立てです。

運転台上部に設置された2台のモニタは、車内の非常通話装置が使用された際に防犯カメラ映像をリアルタイムで確認できます[3]同社としては初の機能。。また、車外カメラ(現時点では準備工事状態)の映像もこのモニタで確認できるようで、将来的なワンマン運転実施時に設置・使用されるものと思われます。

3500形など従来の貫通型車両と比べて遮蔽物が減少したため、特に右方向の視界が大幅に良くなったように見えます。一方、先頭時に客室から運転台を見るには、背面仕切り扉の戸袋窓および折りたたんだ折り戸の窓、すなわち合計4枚のガラス越しとなってしまうため、クリアに観察することは難しくなりました。

3 おわりに

以上のように、本形式は3500形の設計思想・用途を継承しながら、より洗練された乗務員室・貫通路構造構造、ワンマン運転への対応や非常時における安全性向上など、「もしも令和に3500形が製造されたら」をそのまま実現したような車両となりました。空港アクセス鉄道として、新型コロナウイルス感染症拡大による影響、その後のインバウンド需要増加による盛り返しを経験した京成だからこそ生まれた車両、逆に言えばそれらの事象が無ければ生まれなかった車両かもしれません。

2026年3月期の中間期決算説明会資料によると、中期経営企画「D2プラン」期間中(2025年度〜2027年度)に本形式を88両導入するとされています[4]「D2」プラン策定当初の導入予定数は90両だった。。また、各種メディアによると、将来的には松戸線(旧・新京成電鉄)の老朽車両も本形式によって置き換えられることが示唆されており、都営地下鉄浅草線・京急線への直通も含めてさらなる「フレキシブル」な活躍に期待です。

出典・参考文献

脚注

References
1 実際、総合車両製作所(J-TREC)横浜事業所製の編成は京急線金沢八景駅から自力走行で回送されている。
2 2024年度製造車は準備工事状態で出場。2025年度製造車から本設。
3 同社としては初の機能。
4 「D2」プラン策定当初の導入予定数は90両だった。

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