令和の貫通型車両:近畿日本鉄道8A系シリーズ

近年登場した貫通型車両を中心に、乗務員室内の限りあるスペースに凝らされた創意工夫を紹介する「令和の貫通型車両」シリーズ。第3回は2024年にデビューした近畿日本鉄道8A系および共通設計である1A系・6A系を紹介します。
目次
1 車両の概要

車外から見た先頭車間連結部

車外から見た先頭車間連結部
近畿日本鉄道(以下:近鉄)8A系電車は、老朽化が進む昭和40年代製造の一般型車両を置き換える目的で開発され、同社の一般型車両としては2000年にデビューした「シリーズ21」以来24年ぶりとなる新型車両です。近鉄伝統の赤色基調に回帰した塗装・子育て世代やシニア世代の乗客に考慮した内装・先頭車間転落防止幌などデザインは刷新された一方、シリーズ21と同じく従来車両との連結に対応した貫通型構造およびブレーキシステム[1] … Continue readingによって、幅広い活躍を可能としています。
8A系は奈良線・京都線系統向けの4両編成ですが、2026年1月には大阪線・名古屋線系統向けに仕様を一部変更した4両編成の1A系電車、2026年5月には線路幅の異なる南大阪線系統向けに6A系も導入されました。1A系は路線のラインカラーに合わせて従来車両と一線を画す青色基調の塗装が特徴で、2026年度には3両編成の1B系も導入予定となっています。
なお、本系列の乗務員室・貫通路構造は細かな違いを除いてほぼ共通のため、当記事では各形式を区別せずに紹介します。
2 貫通路の構造
2.1 乗務員室背面

乗務員室背面の仕切り扉は引き戸式です。中央に配置されており、助士席側に開きます。中間車の貫通扉と同じく取手にはアシストレバーが備わっており、てこの原理を用いて少ない力で開けることができます。
シリーズ21は仕切り扉を助士席側いっぱいにまで寄せて、乗務員室を斜めに横切るように貫通路を形成する特殊な構造でしたが、本系列はそれ以前の形式と同じく一直線状に貫通路を形成する構造に回帰しました。一方、仕切りの運転席側には非常はしごを収納しているほか、乗務員室背面にも多くの機器類が配置されているため、従来車両と異なり扉部分以外に窓は設けられていません。
2.2 乗務員室全体


連結時は運転席側・助士席側ともに閉鎖することで貫通路を構成します。シリーズ21は前述のとおり特殊な貫通路構造であるため助士席側が通路の一部となっており、それ以前の形式は助士席側に物理的な仕切り扉が無くロープで閉鎖していたのに対して、本系列は助士席側にも仕切り扉が設けられた点が大きな違いです。
運転席側・助士席側どちらの仕切り扉も先頭時は客室側に開いた状態で固定しており、連結時はそれぞれ180度回転する形でスペースを閉鎖します。扉部分および客室寄りの固定仕切り部分に窓は設けられておらず、やや閉塞感があります。
運転席側の背面にはスイッチ類がぎっしりと設置されています。画像では反射で見えにくくなってしまいましたが、助士席側には車内放送などを行うタブレット端末が備え付けられているのも本系列の特徴です[2]従来車両では車掌が携帯するタブレット端末を接続する。。また、本系列は小柄な乗務員の操作性を考慮し、乗務員室機器の最大高さを従来車両より低い1,650mm以下としたり、運転席の背もたれの位置・角度を調整可能とするなどの改善が図られているそうです。
連結時は前面貫通扉を運転席側に開いて固定することで、客室寄りの仕切り扉と合わせて運転席側スペースの仕切りに変身します。最小限の部品で貫通路を構成できる機能性や、隙間や凸凹の少ないデザイン性が、貫通型車両としての完成度の高さを感じるポイントです。

なお、本系列の床面高さは従来の一般型車両より低い1,140mmとなっていますが[3]従来車両の床面高さはシリーズ21が1,150mm、それ以前の車両は1,180mmが基本。、貫通扉部分の床面高さは従来車両と揃えられているため間に数cm程度の段差が生じており、その部分には注意喚起として黄色の警告テープが貼付されています。
2.3 運転台


本系列は同社初のグラスコックピットを採用しており、2画面のうち左側は計器類・ブレーキ段数・ATS関連など、右側はシリーズ21などと同様に各種機器の状態を表示するモニタ画面となっています。運転中に必要な情報のほとんどをこれらの液晶ディスプレイに集約したことで、従来車両より大幅にシンプルな運転台構成となり、視界も良好な印象です。一方で、前述のとおり運転台背面に窓は設けられていないため、客室側から運転操作や計器類を観察することは難しくなりました。
なお、8A系は現時点で阪神電気鉄道への直通運転に対応していないため、阪神線内用の機器類は搭載されていません。一方、8A系は2026年度製造車よりワンマン運転に対応しており[4]2025年度までに製造された車両でもワンマン対応改造が始まっている模様。、運転台にワンマン用ドアスイッチが設置されているようです。同じく設置された車体側面カメラの映像を表示する専用モニタは見当たらないため、正面モニタに表示するのかもしれません。
3 おわりに
以上のように、本系列は外観・内装だけでなく乗務員室・貫通路の構造もシリーズ21世代から大幅にアップデートし、同社24年ぶりの最新一般型車両としてふさわしい洗練されたデザインとオールマイティさを兼ね揃えた車両となりました。前述したワンマン対応車の登場や、まもなくデビューする1B系など、今後のさらなるバリエーション展開とそれに伴う乗務員室の変化も注目されます。
なお、次回の「令和の貫通型車両」シリーズは番外編として「シリーズ21」を取り上げ、24年後に登場した8A系シリーズとの違いを紹介する予定です。
出典・参考文献
- 新型一般車両「8A系」について|一般社団法人日本アルミニウム協会 鉄道車両の部屋
- 「近畿日本鉄道8A系」『鉄道ファン』2024年11月号、交友社、p44~50
- 「近畿日本鉄道1A系」『鉄道ファン』2026年2月号、交友社、p46~54







