京急電鉄のホームドア:金沢文庫駅 連結・切り離し作業作業時の取り扱い
京急電鉄の金沢文庫駅では、2023年度に1番線から4番線のすべてのホームでホームドアが整備されました。同駅では朝夕ラッシュ時を中心として増結・解結が頻繁に行われるため、ホームドア制御システムも連結・切り離し作業に対応しています。
京急線内のホームドア設置駅で切り離し作業が行われるのは京急川崎駅で前例があるものの[1]2022年2月改正以降は設定なし。連結作業も行う駅への設置は金沢文庫駅が初めてでした。ただし、京急川崎駅とは切り離し作業時の取り扱いに一部異なる点があります。
目次
1 上りホームの連結作業
現行ダイヤにおいて行われる連結作業は、3番線で進行方向後ろ側に増結する列車と、4番線で進行方向前側に増結する列車の2パターンがあります。どちらの場合でも、先に横須賀方面から営業列車の8両編成が入線し、後から4両編成の増結車が入線するという流れは同じです。
まず8両編成が停車してドアが開くと、通常と同じくQRコード式制御システムによって8両分のホームドアが自動開扉します。4番線の場合は通常の8両停止位置より4両分手前に停車しますが、その取り扱いにも問題なく対応していました[2]平日朝ラッシュ時はホーム上の混雑緩和のためか、増結を行わない8両編成も4両分手前に停車する。。
連結作業を行う運転主任はホームドアの非常脱出ドアを開けて乗務員室に入り、連結作業の準備を行います。余談ですが、ホームドアが開くと隣接する開口部の扉が非常脱出口まで半分ほど突き出るように収納されるので、出入りの時は気を付ける必要がありそうです。
続いて4両編成が入線。連結が完了して4両側の車両ドアが開けられると、こちらもQRコードによる連動で4両分のホームドアが自動開扉します。そしてこのタイミングで、システムは停車中の列車を12両編成として認識し直すことにより、発車時は12両分が一斉に開閉するように制御されるそうです。
普段行われない3番線での前増結・4番線での後増結にまで対応しているかは不明ですが、少なくとも日常的に行われる連結パターンについてはすべてQRコードにより自動開閉されるため、ホームドア設置に伴う業務負担の増加はほとんどなさそうです。
2 下りホームの切り離し作業
前述の通り、以前は京急川崎駅でもホームドア設置駅での切り離し作業が行われていたため、金沢文庫駅は2例目となります。京急川崎駅や上りホームでの連結と同じく、QRコード式システムによって車両ドアが開閉した範囲のみホームドアも自動開閉します。
一方、金沢文庫駅での切り離しは京急川崎駅と異なる点が2つあり、1つは後部編成側のホームドアが開いたまま前部編成が出発すること、もう一つは前4両を切り離す運用もあることです。
(1)後部編成側のホームドアが開いたまま前部編成が出発する
以前の京急川崎駅での切り離し作業は、先に当駅止まりの後4両が降車確認を終えてドアを閉め、それから前8両がドアを閉めて出発するという流れでした。それに対して金沢文庫駅での後4両切り離しは停車時間が短いためか、先に前8両がドアを閉めて出発し、それから当駅止まりの後4両が降車確認を終えてドアを閉めます。
この取り扱いを行う上で考慮しなくてはならないのがATSとの連動です。京急のホームドアは運転保安装置「C-ATS」と連動しており、通常はすべてのホームドアが閉まるまで車両の力行回路をカットすることにより列車の誤出発を防いでいます[3]その間は運転台のATS表示器に「NC」と表示される。。そこで同駅においては、後部編成側のホームドアが開いていても前部編成が出発できる “特例”を設けることでこの取り扱いに対応しているようです。
その特例を表しているのがホームドア表示灯の黄色い[〇]です。乗務員向けに設置されているホームドア表示灯は、通常すべてのホームドアが閉まると緑色の[〇]が表示されます。一方、前部編成側だけが閉扉・後部編成側は開扉状態のままという場合には黄色の[〇]が表示され、C-ATSの力行回路カットも解除されます。
また、通常の緑〇は列車が停止許容範囲を離れるとすぐに消灯しますが、黄色〇は列車(前部編成)の先頭部分が出発信号機を超えてから消灯するという違いがありました。そして大抵の場合は前部編成がホームを抜け切る前に後部編成もドアが閉められ、このタイミングで緑〇が点灯します。
(2)前4両を切り離す運用もある
同駅で行われる切り離し作業のほとんどは前8両が横須賀方面の営業列車、後4両が当駅止まりの回送列車となるパターンですが、平日朝には前4両が当駅止まりとなるパターンもあります。それでもQRコード式システムは(1)と変わらず自動開扉に対応していました。
この場合は先に前4両がドアを閉めて車庫へと引き上げ、それから後8両がドアを閉めて出発するという流れで、前4両のホームドアが閉まった時に黄色〇が表示されます。この後の表示灯の推移は十分に確認することができなかったので、分かり次第追記します。
3 おわりに
このように、あらゆる増解結パターンに対応した制御システムのおかげで、ホームドア設置前と変わらない迅速な連結・切り離し作業を実現しています。
ちなみに、京急川崎駅ホームドアが稼働開始される直前の動作試験(2020年6月)でも黄色○らしき表示が目撃されていました。つまり京急川崎駅もシステム的には後部編成側のホームドアが開いたまま出発する取り扱いに対応していたと思われますが、実際にそれが使用されることはなかったため、約4年の歳月を経てようやく日の目を見ることになりました。
出典・参考文献
- 山口 泰幸「京急川崎駅における列車分割・併合運用に対応した可動式ホーム柵の制御」『鉄道と電気技術』Vol.32-No.10、日本鉄道電気技術協会、2021年、p37-40