北大阪急行のホームドア:車側灯検知によるホームドア制御システム
北大阪急行電鉄のホームドアは、2017年度に当時の全管轄駅(千里中央駅・桃山台駅・緑地公園駅)で整備され、2024年3月に開業した延伸区間の箕面船場阪大前駅・箕面萱野駅にも当初から設置済みです。
同線のホームドアが特徴的なのは、車両ドアの開閉状態を示す「車側灯」をカメラで検知するという珍しい方法により制御を行っている点です。2024年3月時点でこのシステムをホームドア制御に用いているのは同線が全国唯一の事例だと思われます。
なお、直通運転を行うOsaka Metro御堂筋線との境界である江坂駅は、ホームドアも御堂筋線のタイプ・開閉方式に準じており、本システムによる制御ではありません。
目次
1 システムの仕組み
1.1 概要
車両側の改造を必要とせずにホームドアを自動開閉するさまざまな技術が開発・実用化されている中、北大阪急行線でも開扉については多くの導入事例がある定位置停止検知による自動開扉を採用しています。一方で、閉扉を自動化するために採用されたのが車側灯の点灯状態を用いる本システムでした。
車側灯は各号車の側面に1か所ずつ設けられており、その号車のドアが1箇所でも開いていれば点灯、全てのドアが閉まれば消灯します。本システムはこの表示灯の点灯状態を検知し、点灯していない状態、つまり車両ドアが閉扉したと判定すればホームドアを自動閉扉します。これによりトランスポンダ装置を用いた地上~車上間の情報伝送を不要として、地上設備だけのシンプルなシステムで自動開閉が可能になりました。
なお、本システムは2016年3月に稼働開始された東京メトロ銀座線上野駅1番線のホームドアで「可動ステップ[1]ホームの下から張り出して列車とホームの隙間を縮小する。」を安全に動作させるための手段として運用されていました。しかしこちらはトランスポンダによる情報伝送で車両ドア・ホームドア・可動ステップの3者が連携できるようになったため、約1年後に運用を終了しています。
1.2 定位置停止検知センサによる自動開扉
前述の通り、開扉については他路線でも導入事例がある定位置停止検知による自動開扉が採用されています。列車が入線すると、停止位置前方に設置されている測域センサ(2D-LiDER)が車両前面を測定し、許容範囲内に停止したことを検知すればホームドアに開扉指令を出力します。車掌はホームドアが開いたのを確認してから車両ドア開扉操作を行います。
なお、この方式では回送列車などでも自動開扉してしまうため、通常の停止位置目標(無地の標識)から少しずらした位置(十字マークの標識)で停止することにより自動開扉を防いでいます。
1.3 車側灯検知カメラによる自動閉扉
ホーム上屋から吊り下げられているカメラが車側灯を撮影し、制御装置がその画像を解析することで点灯状態を判定しています。出発時は先に車掌が車両ドア閉扉操作を行い、車両ドアが完全に閉まると車側灯が消灯するので、これを検知したらホームドアに閉扉指令を出力します[2]誤動作防止のため、列車が在線していること・出発進路が構成されていることを条件に機能する。。
冗長性確保のため、カメラは10両編成のうち3両の車側灯に対して設けられています。自然光などの影響を考慮したのか、以前は1つの車側灯を異なる角度から2基のカメラで撮影している場所もありましたが、現在はどの駅も車側灯1つにつきカメラ1基(=1ホームあたり3基)となっていました。
2 各種機器の配置
2017年度に設置された3駅における現在の定位置停止検知センサ・車側灯検知カメラの配置は上図の通りです。
2024年延伸区間の2駅の配置図は省略しますが、カメラの台数はどの駅も1ホームあたり3基で統一されています。配置は駅構造や自然光の影響などを考慮したのかホームによってバラバラで、例えば、ホームが吹き抜け構造となっている千里中央駅では天井が低く設置しやすい場所が選ばれているようでした。
3 ホームドア状態表示灯
運転士向け・車掌向けそれぞれにホームドア開閉状態などを示す表示灯が設けられています。表示内容の推移は上図の通りで、閉扉後列車が動き出すと①に戻り、定位置範囲を離れると消灯します。
一方、ホーム中ほどには乗務員向けとは別に駅係員用の表示灯も設けられており、こちらは車両ドアが開くと「車」という表示が出ていました。そして車両ドアが閉まると②に、列車が動き出すと①に戻り、定位置範囲を離れると消灯します。
また、この表示灯とは別に、車掌が閉扉操作を行うタイミングをアシストする乗降検知表示灯(乗降検知中はチャイム鳴動・黄色[■]が消灯)が別途設けられています。
4 おわりに
2017年当時、御堂筋線のホームドアは車掌による手動操作方式だったため、北大阪急行のホームドアはそれに先んじて自動開閉を実現しました。しかしながら、車側灯の消灯をトリガーとする仕組みである以上、車両ドア閉扉からホームドア閉扉までに大きなタイムラグが発生してしまう欠点もあります。
一方、御堂筋線のホームドアはタイムロス削減のため段階的に開閉が自動化され、2022年8月からはトランスポンダによる車両ドアとの連携が始まっています[3]トランスポンダ式連携は閉扉のみで、開扉は北大阪急行と同じく定位置停止検知による自動開扉。[4]江坂駅における北大阪急行線方面への出発時もトランスポンダ式連携で閉扉する。。それでも2024年延伸区間に引き続き本システムを採用したのですから、当面は現状維持となるのでしょうか。
出典・参考文献
- 北大阪急行電鉄 千里中央駅の可動式ホーム柵を受注いたしました | 株式会社 京三製作所
- 「北大阪急行電鉄株式会社 延伸開業 信号通信設備・ホーム安全設備新設」『Kyosan circular : technical journal』Vol.75-No.2、京三製作所、2024年、p10-18