東京メトロ 千代田線のホームドア:北綾瀬支線タイプ

タイプ 腰高式
メーカー 京三製作所
開閉方式 トランスポンダ式連携
停止位置許容範囲 ±450mm(ATO)
開口部幅 2,300mm
非常脱出ドア なし
支障物検知センサ 光電センサ→3Dセンサに更新

東京メトロ千代田線の綾瀬駅と北綾瀬駅を結ぶ支線(通称:北綾瀬支線)では、営団地下鉄時代の2002年3月よりワンマン運転が実施されており、そのための安全対策として綾瀬駅0番線と北綾瀬駅にホームドアが導入されました。稼働開始日は両駅ともに2002年2月15日です。

営団としては1991年開業の南北線でフルスクリーン式ホームドアを導入していますが、北綾瀬支線においては営業運転を行いながらの設置工事となるため、施工性・経済性の観点から腰高式(ハーフハイトタイプ)が採用されました[1]そもそも南北線開業当時は20m4ドア車に対応する腰高式ホームドアの開発が技術的に困難だった。。そしてここでの知見が他路線へのホームドア整備に活かされていきます。

なお、約16年後の2018年度からは代々木上原駅~綾瀬駅間(本線)でもホームドア整備が始まり、北綾瀬駅のホームドアは2019年3月の10両編成乗り入れ対応化に伴い本線と同型のタイプへと更新されました。よって3両編成用の本タイプが現存しているのは北綾瀬支線折り返し列車専用ホームの綾瀬駅0番線のみとなっています。

1 ホームドアの仕様

ホームドアのメーカーは京三製作所で、扉部分が千代田線のラインカラーである緑色に塗装されています。

同区間ではワンマン運転開始にあわせてATO(自動列車運転装置)も導入されました。しかし、当時運用されていた1960~70年代製造の5000系・6000系ハイフン車は電磁直通ブレーキのため、現代車両の標準である電気指令式ブレーキに比べて応答性が劣ります。そのため開口幅は南北線タイプよりも300mm広い2,300mmとすることで停止許容範囲を広げています。

筐体の断面形状
扉は一直線上に収納される
車両ドア間の筐体
車両連結部の筐体
光電センサ時代の2020年11月撮影
ホーム端部(写真左)にあるのが光電センサBOX
3Dセンサに更新後の2024年6月撮影
端部のセンサBOXも撤去され、侵入防止板が追設された

当初、各開口部の線路側に設けられている支障部検知センサは2点の光電センサ式で、ホーム両端の乗務員出入りスペース確保のため筐体が斜めに配置されている箇所は、別途複数の光電センサを内蔵したBOXが設けられていました。

メトロ他路線の光電センサ・2Dセンサを採用しているホームドアでは、2010年代中頃よりさらに安全性の高い3Dセンサへの更新が進められます。一方、本タイプは2020年以降になっても設置当初からの光電センサを残し続けていましたが、2023年度末ごろにようやく3Dセンサへと更新されました。

2 ホームドアの開閉方式

2.1 現在の開閉方式

右:停止位置直下に設けられた有電源地上子
左:停止位置までの距離を送信する距離補正用地上子

2014年から同区間で運用されている05系のホームドア開閉方式は、トランスポンダ装置を用いた情報伝送によって車両ドアと同期する一般的なシステムです。3号車(北綾瀬方先頭車)床下の車上子と線路側の地上子がピッタリ重なることで開閉連携が可能になります。また、この車上子はATO運転に必要な距離情報などを受信する役割も担っています。

2018年度以降に整備された代々木上原駅~綾瀬駅間(本線)のホームドアも同じトランスポンダ式連携を採用しており、地上子・車上子の位置も揃えられています。次に紹介する5000系・6000系ハイフン車時代の簡易的なシステムからトランスポンダ式連携に変更されたのは、本線へのホームドア導入および本線~北綾瀬支線の直通運転に向けた前準備だったとも言えるでしょう。

2.2 5000系・6000系ハイフン車の簡易的な列車検知・開閉システム

一方、ホームドアが設置された2002年当時運用されていた5000系・6000系ハイフン車(ともに2014年引退)は、2駅間のみの折り返し運転という環境に適した他路線よりも簡易的なシステムでホームドア対応およびATO運転を行っていました。

(1)定位置停止検知は車軸検知装置で

5000系・6000系ハイフン車のATOはトランスポンダ地上子・車上子を用いない独自の方式でした[2]運転保安装置ATCの過走防護信号 (ORP) を地上子の代わりとして残存距離の補正を行っていた。。そのため駅での定位置停止検知も地上子―車上子の結合ではなく、レール脇に設置した車軸検知装置を用いて列車の位置を判定していたそうです。

過去の画像や前面展望動画を見ると、5000系・6000系ハイフン車が引退した2014年ごろまでは両駅に車軸検知装置らしき物体が確認できます。

(2)ホームドア開閉は赤外線通信で

6000系ハイフン車の綾瀬方先頭車にあった赤外線の送受信部?(営団6000系電車 – Wikipediaより引用)
著作者:根川孝太郎様 CC 表示-継承 4.0 リンクによる

車両ドアとホームドアの開閉連携は光伝送(赤外線)による通信で行っていたそうです。開閉動作自体はトランスポンダ式連携と変わらず、運転士が運転台のドア開閉ボタンを押すと車両ドアとホームドアが同時に開閉していました。

5000系・6000系ハイフン車の綾瀬方先頭車には千代田線本線の車両にはなかった小さな機器が埋め込まれており、これが赤外線通信の送受信部だったのかもしれません。

3 おわりに

本ホームドアは営団地下鉄初のハーフハイトタイプとしてだけでなく、2010年代以降に普及する低コストなホームドア開閉システムの概念を先取りした、地味ながらも大きな功績を持つ存在だったと感じます。

冒頭でも述べた通り、北綾瀬駅のホームドアは10両編成対応の本線タイプへと更新されたため、本タイプが現存しているのは綾瀬駅0番線のみとなっています。その0番線を使用する北綾瀬支線折り返し列車も減少傾向にあり、将来的には0番線自体が廃止になる可能性も否定できません。支障物センサが更新されたばかりの本タイプも安泰とは限らないでしょう。

出典・参考文献

脚注

References
1 そもそも南北線開業当時は20m4ドア車に対応する腰高式ホームドアの開発が技術的に困難だった。
2 運転保安装置ATCの過走防護信号 (ORP) を地上子の代わりとして残存距離の補正を行っていた。

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