南海電鉄のホームドア:地上完結型連携システムによる開閉制御
南海電気鉄道では、2018年度に難波駅1番線乗車ホームで同社初のホームドアが整備され、2023年度には中百舌鳥駅4番線でも整備されました。また、グループ子会社の泉北高速鉄道(2025年度に南海と経営統合予定)でも2024年度に和泉中央駅で整備されています。
南海で2024年時点までに整備されているホームドアは、車両側との通信を必要とせず、地上側設備のみでホームドア開閉を自動化できる「地上完結型連携システム」により制御されています。
目次
1 システムの仕組み
1.1 各種センサの概要
この方式は、地上側に設置された3種類のセンサによって列車の車種・編成両数やドア開閉を検知し、それに追従してホームドアを自動開閉させます。南海ではホームごとにセンサや開閉制御の仕様が一部異なりますが、当記事ではシステムの基本的な仕組みを紹介します。
(1)停止位置検知センサ
原則として各ホーム1か所に設けられおり、車両の移動量を測定することで列車が定位置範囲内に停止したか否かを判定します。最初に設置された難波駅1番線は車両前面を測定する方式でしたが、それ以降の設置駅では車両連結部を測定する方式となりました。
(2)在線検知センサ
センサが設置された箇所ごとに車両が在線しているか否かを検知し、その検知結果を組み合わせることで列車が在線している範囲=編成両数を判別します。設置箇所および数はホームごとに異なります。
これと前述の停止位置検知センサの組み合わせによって、編成両数に対応した範囲のみのホームドアを自動開扉することができます[1]難波駅1番線は後述の車両ドア開閉検知センサが車両ドア開扉を検知してからホームドアを自動開扉する。。
(3)車両ドア開閉検知センサ
車掌が車両ドア閉扉操作を行い車両ドアが閉まり始めると、3Dセンサがその動きを読み取ることでホームドアを追従して自動閉扉(または再開扉)します[2]難波駅1番線は列車到着時もこのセンサが車両ドア開扉を検知してからホームドアを自動開扉する。。設置箇所および数はホームごとに異なりますが、どの編成両数でも3箇所以上のドアを測定できるように配置することで冗長性が確保されています。
1.2 各種センサの配置
各種センサの配置例として、現時点で最も構成がシンプルな難波駅1番線の配置図を示します。
前述の通り、停止位置検知センサが車両前面を測定する方式なのは難波駅1番線のみで、これ以降の設置駅は車両連結部検知方式となっています。また、在線検知センサは発着する編成両数の種類が多いホームほど設置数も増えます。
2 停止位置範囲表示灯・ホームドア状態表示灯
運転士向け・車掌向けそれぞれに、定位置停止の可否を伝達する「停止位置範囲表示灯」およびホームドアの開閉状態などを表示する「ホームドア状態表示灯」が設けられています。これらの表示灯は別々に設けられている箇所もあれば、一体型となっている箇所もあります[3]和泉中央駅の一部では旅客の乗降を知らせる表示灯とも一体になっている。。
列車到着時の表示内容の推移は以下の通りです。
- 列車が定位置範囲内に入ると停止位置範囲表示灯に緑[□]が点滅→停止検知で編成両数が点灯
- ホームドア開扉でホームドア状態表示灯に赤[●]が点灯
- ホームドア閉扉でホームドア状態表示灯に白[○]が点灯
- 列車が定位置範囲内を離れると停止位置範囲表示灯が消灯
なお、停止位置範囲表示灯はショート停車なら[前]、オーバー停車なら[過]と表示されるほか、和泉中央駅での特急「泉北ライナー」到着時は[L]と表示されます。
3 6000系の海側ドア上部に貼られたステッカーについて
難波駅1番線ホームドアの整備とほぼ同じ時期から、高野線で運用されている6000系の海側2番ドア上部に白っぽいステッカ―のようなものが貼付され始めました。その箇所は車両ドア開閉検知センサの設置箇所とピッタリ合致しているため、検知精度を高めるための処置であることはほぼ明らかでした。
他の車種にはこのシールが貼られていないことから、6000系の車体構造が車両ドア開閉検知に何らかの問題を与えたのだと思われます。6000系は南海の一般型車両で唯一の片開きドアであること、戸袋窓があることなどが理由として考えられますが、具体的な理由は分かっていません。
しかしその後、山側にホームがある中百舌鳥駅4番線や和泉中央駅でホームドアが稼働開始しても、山側ドアにこのステッカーは貼付されていません。つまり、現在はセンサ側の改良によって6000系でも問題なく検知できるようになったようです。なお、2024年10月時点で海側のステッカーは撤去されていません。
4 おわりに
本システムのように地上側のセンサのみでホームドアの自動開閉を行うシステムは多数の鉄道事業者で採用されていますが、2024年度稼働開始の和泉中央駅では特急「泉北ライナー」として乗り入れる11000系の折戸式ドアの開閉検知にも対応しており、これは全国でも初めてだと思われます。
南海は車両ドア位置の大きく異なる車両が混在している線区も多く、今後それらの線区にホームドアが整備される際には、ホームドア本体の仕様だけでなく制御システムがどのようになるかも注目されます。
出典・参考文献
- 木谷 僚介「難波駅1番ホームドア設置について」『鉄道と電気技術』Vol.30-No.7、日本鉄道電気技術協会、p14-18