京阪電気鉄道のホームドア:さまざまな車両ドア数に対応した地上完結型連携システム

京阪電気鉄道では、2021年度の京橋駅1・2番線で同社初のホームドアが整備され、その後も利用客数の多い主要駅から優先的に整備が進んでいます。

同社の車両は編成両数の違いに加え、車両ドア数も3ドア車・2ドア車・1ドア車が混在しているため、発着する車種に応じてホームドアの開閉箇所を変更しなければなりません。そこで、地上側の各種センサが編成両数・ドア数の判別や車両ドア開閉を検知する「地上完結型連携システム」によって、車両側の改修を不要しながら全自動での開閉連動を可能としています。

1 システムの仕組み

1.1 各種センサの概要

この方式は、地上側に設置された3種類のセンサによって列車の車種・編成両数やドア開閉を検知し、それに追従してホームドアを自動開閉するものです。既に多くの鉄道事業者で採用実績がありますが、京阪のシステムで特徴的なのは、車両ドア数の判別もこのシステムが行っているという点です。

停止位置検知センサと車両ドア開閉検知センサ
在線検知センサ

(1)停止位置検知センサ

原則として各ホーム2か所に設けられており、車両連結部の位置を測定することで列車が定位置範囲内に停止したか否かを判定します。これと次に紹介する在線検知センサの組み合わせによって、編成両数に対応した範囲のみのホームドアを自動開扉することができます。

(2)在線検知センサ

センサが設置された箇所ごとに車両が在線しているか否かを検知し、その検知結果を組み合わせることで列車が在線している範囲、すなわち編成両数を判別します。設置箇所および数はホームごとに異なります。

(3)車両ドア開閉検知センサ

車掌が車両ドア閉扉操作を行い車両ドアが閉まり始めると、センサがその動きを読み取ることでホームドアを追従して自動閉扉(または再開扉)します。さらにこのセンサは、検知対象となる車両ドア自体が存在するか否かを判別し、車両ドア数に対応した箇所のみのホームドアを自動開扉する役目も担っています(詳しくは1.2項で解説)。

1.2 車両ドア開閉検知センサによるドア数・プレミアムカーの判別

6号車3番ドアに設置された車両ドア開閉検知センサ
この箇所にドアが無ければプレミアムカーと判別する
2ドア車の場合は各号車2番ドアを締め切る

京阪の車両は片側3ドア車を標準としていますが、2ドア車の特急型車両8000系、さらに一部列車の6号車に連結されているプレミアムカー(1ドア車)と3種類の車両ドア数が混在しています。これらを判別するために、車両ドア開閉検知センサがドア自体の有無も検知しているのが京阪のシステム最大の特徴です[1] … Continue reading

車両ドア開閉検知センサは各ホームあたり5か所にあり、そのうち3基はどの車種でも必ずドアがある箇所に、残る2基のうち1基はプレミアムカ―の場合ドアが無い箇所(6号車3番ドア)、もう1基は2ドア車の場合ドアが無い箇所(いずれかの号車の2番ドア)に設置されています。こうすることで車両ドア数を正確に判別し、車両ドア数に対応するホームドアのみを自動開扉できるのです。

1.3 各種センサの配置

京橋駅1・2番線の各種センサ配置
守口市駅2・3番線の各種センサ配置

例として、京橋駅1・2番線と守口市駅2・3番線における各種センサの配置を示します。

車両ドア開閉検知センサの配置は駅構造等の兼ね合いで一部異なりますが、うち1か所はプレミアムカー判別用のため、必ずプレミアムカ―の場合ドアが無い6号車3番ドアに設置されているのが分かりります。

在線検知センサはホーム上だけでなくホーム外に設置されている箇所もあります。これは、例えば8両編成が誤って7両停止位置に停止したような場合、後部にはみ出た車両を検知することで自動開扉してしまうのを防ぐためです。なお、6両編成の運用は2024年6月ごろに廃止されたため、それ以降に設置された守口市駅などの在線検知センサは6両を考慮していない配置となっていました[2]ホームドア本体の構造や乗務員操作盤は引き続き対応。

2 停止位置範囲表示灯・ホームドア状態表示灯

表示内容の推移(一般車7両編成の場合)
列車出発後は①へと戻る
8000系(2ドア車・プレミアムカーあり)の場合
3000系(3ドア車・プレミアムカーあり)の場合
右は戸閉合図表示

運転士用・車掌用それぞれに、ホームドアの開閉状態などを示す表示器が設けられています。駅係員の立ち合いがあるホームでは、もともと別の場所にあった戸閉合図表示器も一体化されました。

表示灯の表示推移は以下の通りです。

  1. 列車が定位置範囲内に入線すると停止位置範囲表示灯の[]が点滅
  2. 列車が定位置範囲内に停止すると停止位置範囲表示灯に車種情報が点灯
  3. ホームドアが開扉するとホームドア状態表示灯に[]が点灯
  4. ホームドアが閉扉するとホームドア状態表示灯に[]が点灯

停止位置範囲表示灯には各種センサで判別した車種情報が、8000系(2ドア車・プレミアムカーあり)なら[2P]、3000系(3ドア車・プレミアムカーあり)なら[3P]、一般車なら編成両数のみが[8][7]という形で表示されます。

3 K-ATSとの連動

列車が定位置に停止している状態かつホームドアが開扉状態の間は、運転保安装置K-ATSから常用最大ブレーキをかけることで列車の誤出発を防止しています。この際、運転台のATS表示器には「NB」と表示されます。

4 回送列車などへの対策

京橋駅2番線の7・8両停止位置目標
手前が新設された回送用停目

回送列車や試運転列車などが停車する場合は、あえて停止位置をずらすことでホームドアが自動開扉してしまうのを防いでいます。ホームドア設置駅では、所定停止位置から約2m手前に「回送」と書かれた停止位置目標が新設されました。

5 RFIDによるライナー識別信号(廃止)

8000系に搭載されたライナー識別信号の送信器と思われる装置
京橋駅のライナー識別信号受信用アンテナ

京橋駅1・2番線にホームドアが設置された当時、平日ラッシュ時に運行されている8000系を用いた全車両座席指定の「ライナー」列車は偶数号車のドアだけを開閉していました[3]ライナー券が不要な区間は全号車のドアが開く。。しかし本システムだけだと列車種別までは判断できないことから、RFIDによってライナー列車を識別するシステムが別途設けられました。

8000系大阪方先頭車の乗務員室にはライナー運用時のみ識別信号を送信する装置が搭載され、この信号を下りホーム大阪方にあるアンテナが受信しホームドア制御盤に送ることで、乗務員や駅係員が特別な操作をしなくても奇数号車は締め切り・偶数号車のみを自動開扉する仕組みでした。なお、「ライナー」到着時の停止位置範囲表示には[L]と表示されていました。

しかし、2023年5月15日より「ライナー」もすべてのドアを開ける運用に変更となったため、現在このシステムは使われていません。

6 おわりに

実績があるシステムを基本としつつ、それ応用して車両ドア数の判別も行うことで、京阪ならではのバラエティー豊かさな列車運行に対応できるホームドア制御が実現しました。車両側にRFIDやQRコードを設置して車両ドア数を判別する方式もありますが、編成組み換えを比較的頻繁に行う京阪では地上側だけで完結するこのシステムの方が適しているのかもしれません。

出典・参考文献

脚注

References
1 かつて京急電鉄三浦海岸駅で行われたマルチドア対応型ホームドア「どこでもドア®」実証実験時にも使用されたシステムで、本格的に採用されたのは全国でも初めてだと思われる。
2 ホームドア本体の構造や乗務員操作盤は引き続き対応。
3 ライナー券が不要な区間は全号車のドアが開く。

コメントする