2024年 ホームドア関連のトピックスを振り返る

あけましておめでとうございます…と言うには日数が経ちすぎてしまいましたが、2025年も当Webサイトをよろしくお願いいたします。

2024年も当サイトのメインコンテンツ・鉄道駅のホームドアに関するさまざまな出来事がありました。今回はその中でも個人的にインパクトを感じた話題を振り返ってみたいと思います。

1 2024年に新設された注目のホームドア

1.1 京急電鉄 金沢文庫駅1・2番線

京急金沢文庫駅1・2番線の大開口ホームドア

まずは2024年内に新設されたホームドアの中から、技術的・趣味的に注目したい4駅を紹介します。

京急電鉄の金沢文庫駅では、2024年3月23日に下りホーム1・2番線でホームドアの稼働が開始されました。2023年11月に整備された上りホーム3・4番線と異なるのは、ホーム全体のうち半分(12両分のうち6両分)が二重引き戸式大開口タイプとなっている点です。

その理由として有力なのが、1つのホームに2編成を縦並びで停車させる「縦列停車」を行っていることです。銃列停車を行うと必然的に一方の編成はホームドア中心から少しずれた状態になるため、その状態でもドアを開けられるように開口幅を広げたのだと思われます。また、同社が採用しているQRコード式ホームドア制御システムもこれに対応しており、銃列停車が可能なホームドアの構造・制御というのは世界初ではないでしょうか。

1.2 JR西日本 大阪環状線西九条駅など

JR西九条駅の改良型可動式ホーム柵

大阪環状線の西九条駅・弁天町駅は「2025年大阪・関西万博」の開催地・夢洲への乗換結節点として多くの利用客が予想されます。そのため2024年度にホームドアの整備が行われ、JR西日本がかねてより開発を進めていた「改良型可動式ホーム柵」が初めて採用されました。

JR東日本の「スマートホームドア」と同じように、風が通り抜けやすい構造としたことで重量および受風面積を従来型の約3分の2に削減し、ホーム補強工事に掛かる費用・期間の圧縮に繋げています。今後同社が整備する可動式ホーム柵はこの「改良型」が基本となる方針で、今回西九条駅などに設置されたのは3ドア車用の一重引き戸タイプでしたが、戸袋スペースが少ない4ドア車用の二重引き戸タイプも近い将来設置される見込みです。

1.3 泉北高速鉄道 和泉中央駅

泉北高速鉄道和泉中央駅の大開口ホームドア

南海電気鉄道のグループ子会社である泉北高速鉄道(2025年4月1日に南海と合併予定)では、2024年度に和泉中央駅で同社初のホームドアが整備されました。一般型車両とドア位置が異なる特急「泉北ライナー」にも対応するため、最大約4.7mの大開口部分が設けられています。

このような特急車対応の大開口ホームドアも近年では珍しくなくなってきました。しかし同駅のホームドアは、限界まで開口幅を広げてもなお一部の車両ドアとホームドア筐体が重なってしまうため、筐体を通常よりもホーム内側にセットバックして車両とのすき間を広げることで乗降を可能としています。やや強引な解決策ですが、車両ドア位置の課題でホームドア導入が進まない他の鉄道事業者にとってヒントになるかもしれません。

1.4 東京メトロ東西線 茅場町駅など

東京メトロ東西線 茅場町駅4番線のホームドア

東京メトロ東西線では、車種によるドア位置の違いに対応可能な二重引き戸式大開口ホームドアが採用されてきましたが、2024年度に整備された茅場町駅4番線(B線:中野方面ホーム)からはこれまでより開口幅を狭めた標準的な一重引き戸タイプに仕様変更されました。

その理由は、同線においてATO(自動列車運転装置)が順次導入されており、停止精度の向上によってホームドアと車両ドアのずれが少なくなるためです[1]ただし、現時点でまだATO非対応の編成は運転士の手動ブレーキングでこれまで以上の停止精度を求められている。。見た目はごく普通のホームドアですが、東西線ホームドア整備の第2章、そして東京メトロ全体におけるホームドア整備のラストスパートが始まったことを実感する大きな出来事でした。

2 ピックアップ:グリーン車導入ようやく見えてきた中央線快速ホームドア設置

首都圏屈指の混雑路線、そして同時に人身事故多発路線でもあるJR中央線快速には、2024年末時点でまだ1駅もホームドアが設置されていません。それに大きく関わっている要因が、2025年3月15日ダイヤ改正からサービス開始を予定しているグリーン車です。

中央線快速系統のグリーン車導入および10両編成から12両編成への増結が発表されたのは約10年前の2015年2月。当初の予定では2020年度のグリーン車サービス開始を予定していました。しかし、12両化に向けたホーム延伸工事の遅れや世界的な半導体不足などの影響で2度にわたって延期されます。そしてこの遅れは、ホームドア整備において重要な課題である “車両ドア位置の統一” にも直結します。

2階建てグリーン車と普通車ではドア位置が異なるほか、構造上車体長も普通車より僅かに長いため、連結すると編成全体のドア位置も少しずつずれます[2]普通車は1両20m、グリーン車は1両20.5m。。つまり、ホームドアの設置はグリーン車導入後(=ドア位置が統一された後)に行うのが得策であり、逆に言えばグリーン車導入が遅れるほどホームドア設置も始められない悪循環に陥っていました。

中央線快速系統のE233系0番台
乗務員室に設置された無線式ホームドア連携システムの車上無線機

現在の技術なら「グリーン車なし10両編成」と「グリーン車あり12両編成」のどちらにも対応できる特殊なホームドアも実現可能かもしれませんが、全列車のドア位置が統一されてから通常のホームドアを設置した方が圧倒的に楽なのもまた事実。しかし、利用者にそのような事情を理解してもらうのは難しく、何年間も事故やトラブルが起こるたびにホームドア設置を求める強い圧力を受けてきました。

そんな状況にようやく終わりの光が見えてきたのが2024年10月13日。この日から2階建てグリーン車を連結した編成が順次営業運転に入り、グリーン券なしで乗車できる「お試し期間」が開始されました。一方、駅側ではホームドアを設置するための基礎工事が進んでおり、車両側にも無線式ホームドア連携システムの搭載がほぼ完了しています。このまま予定通り3月までにグリーン車導入が完了すれば、ついにホームドア設置を開始できる条件が揃います。

JR東日本は2031年度末ごろまでに東京圏の主要路線330駅にホームドアを整備する計画です。現時点で中央線快速系統における具体的な整備スケジュールは発表されていませんが、1日でも早い設置に期待がかかります。一方で、特急列車停車駅では引き続き車両ドア位置の問題が残るため、どのようなタイプのホームドアになるのかも注目されます。

3 その他の主な話題

3.1 2024年にホームドア全駅設置を達成した路線

東京メトロ日比谷線で最後に設置された南千住駅のホームドア

2024年にホームドア全駅整備を達成したのは、大阪万博のメインアクセスルートとなるOsaka Metro中央線など以下の4路線です。特筆すべき点として、常磐線各駅停車はJR初の同一線区におけるホームドア全駅整備完了、Osaka Metro中央線は3月~9月の約半年間で全14駅設置というかなりのハイスピード整備でした。

  • JR東日本 常磐線各駅停車
  • 東京メトロ日比谷線
  • 都営地下鉄浅草線[3]京成電鉄が管轄する押上駅で2024年2月に整備。都営地下鉄の管轄駅は2023年11月までに整備済み。
  • Osaka Metro中央線

また、相模鉄道は大規模改良工事中の海老名駅を除いてホームドア整備が完了し、大手私鉄では初となる全駅整備に王手をかけています。

3.2 ホームドア設置路線の廃線も

スカイレールみどり坂線のホームドア

一方で、ホームドアを完備していながら廃止となってしまった路線もありました。

広島市東部のJR山陽本線瀬野駅から駅北方の傾斜地に広がるニュータウンを結ぶ「スカイレールみどり坂線」は、懸垂式モノレールとロープウェイの技術を組み合わせた世界で唯一の短距離交通システムとして1998年に開業。全3駅にフルスクリーン式ホームドアが導入されました。

しかし、特殊な構造ゆえの維持コストからEVバスへの転換が決まり、2024年4月30日の正午をもって運行を終了しました。鉄道事業法の対象かつホームドアが完備されている路線の廃止は、2006年に廃止された愛知県の桃花台新交通桃花台線「ピーチライナー」以来でした。

3.3 「ホームドアなんて無理」だった路線でも実証開始

近鉄 鶴橋駅2番線の一部に試験設置された昇降ロープ式ホーム柵

ピックアップでも触れたように、ホームドア整備において車両ドア位置の違いは大きな課題です。しかし近年は技術の進化によって、大開口ホームドアや昇降ロープ式ホーム柵、JR大阪駅うめきたホームで採用された可変式フルスクリーンホームドアなど、さまざまな車両ドア位置に対応できる新型ホームドアが登場しています。

そんな中、ホームドア本格導入へのハードルが特に高い2つの大手私鉄でも動きがありました。一つは近畿日本鉄道(近鉄)の鶴橋駅2番線(大阪線ホーム)。後方約2両分に昇降ロープ式ホーム柵を設置し、2024年5月ごろから試験的な運用が行われています。もう一つは名古屋鉄道(名鉄)の金山駅3番線。前方の1開口分のみですが大開口ホームドアを設置し、2024年10月から実証試験が開始されました。

どちらも特急型車両も含めたさまざまな車種が発着する路線。一昔前なら「ホームドアなんて無理」と言われていたでしょうが、技術革新と他社で蓄積されたノウハウによって、ようやくホームドア本格導入に向けた第一歩を踏み出しました。

4 おわりに

2024年はこのほかにも、Osaka Metro谷町線でホームドア本格導入が開始されたり、JR東日本が新型ホームドア「スリットフレームホームドア」を初導入するといった話題がありました。スリットフレームホームドアについては登場が年末だったため、1年後の2025年振り返りで紹介できたらと思っています。

そして今年の注目は、やはり中央線快速のグリーン車導入でしょうか。果たして今年中にホームドア設置は始まるのか、設置第1号はどの駅になるのかなど、気になる点は沢山です。また、JR東海が運営する名古屋エリアの中央本線でもホームドア整備が開始されたり、3月末までに近鉄鶴橋駅2番線の昇降ロープ式ホーム柵が完成を予定していたりと、首都圏以外でも着々と整備が拡大していきます。

当サイトは引き続き低頻度の更新になると思いますが、ホームドア以外のジャンルも含めて、世間的にはあまり注目されないニッチな内容を記事にしていきたいです。

改めまして、2025年も当サイトをよろしくお願いいたします。

出典・参考文献

脚注

References
1 ただし、現時点でまだATO非対応の編成は運転士の手動ブレーキングでこれまで以上の停止精度を求められている。
2 普通車は1両20m、グリーン車は1両20.5m。
3 京成電鉄が管轄する押上駅で2024年2月に整備。都営地下鉄の管轄駅は2023年11月までに整備済み。

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