JR東日本のホームドア:今後の標準となるRFIDタグを用いた無線式連携システム

JR東日本は、2031年度末ごろまでに東京圏の主要路線330駅758ホームにホームドアを整備することを目指しています。ホームドア本体の軽量化や基礎工事の工法見直しなど、整備促進のためのさまざまな取り組みが行われている中で、ホームドアの開閉方式も従来より低コスト・短期間で整備できる新たな方式が開発されました。それが「RFID方式無線連携システム」です。
無線式ホームドア連携システム自体は既に総武快速線新小岩駅などで導入されていますが、本稿で紹介する「RFID方式」は、さらなる低コスト化に加え、車種や路線環境に関わらず幅広い線区に導入可能な汎用性を兼ね揃えています。2021年度の南武線武蔵小杉駅を皮切りに導入が始まっており、JR東日本が今後ホームドアを整備する路線におけるスタンダードな開閉方式となっていく見込みです。
目次
1 従来方式の課題
日本信号により開発された無線式ホームドア連携システムは、ホームドアと車両ドアの開閉連携方式として長年主流だったトランスポンダを用いた情報伝送を、簡易的な無線通信に置き換えることで導入費用や車両改造に要する時間を削減したものです。2011年に都営地下鉄大江戸線で初採用された後、JR東日本では人身事故の多発を受けて2018年度に前倒しでホームドアを整備した総武快速線新小岩駅にて初採用されました。
従来の無線連携式はLF帯(長波)とUHF帯(極超短波)という2種類の電波を使い分けている点が特徴でした。これは、ドア開閉情報などの基本情報を送受信するUHF帯無線とは別に、ごく狭い範囲のみに伝搬する特性があるLF帯無線により車両とホームドアの関係を確実に結びつけることで、隣接するホーム同士で無線が混信してしまうのを防ぐためでした。
この方式の課題として、伝搬距離が狭いLF帯無線の特性上、地上側と車上側それぞれのアンテナを極力近接する場所に設置しなければならない点が挙げられます。これにより高運転台の特急型車両などはアンテナ設置箇所の制約があることから、他線区に展開することができませんでした。
一方、2019年度に昇降ロープ式ホーム柵が整備された成田空港駅・空港第2ビル駅は、単線区間であることから2つの列車が同時に発着することはあり得ないため、LF帯無線を使用せずにUHF帯無線のみで混信を防ぐことを可能としました。しかしながら、この方式は複線区間だと使用できません。
2 RFID方式無線連携システムの仕組み
2.1 概要
上記のような従来方式の課題を解決するため、LF帯無線の代わりにRFID技術を用いて車両とホームドアのペアリングを行う方式が開発されました。さまざまな分野で活用されているRFIDは、鉄道分野において検査用装置で車両番号を識別する目的などで使われており、汎用技術を応用できることからさらなる低コスト化にも繋がっています。
RFID方式の最初の導入路線に選ばれたのは南武線です。南武線で使用されるE233系8000番台には2020年ごろから無線連携システム用の機器およびRFIDタグが新設され、2022年3月に同線初のホームドアとして稼働開始された武蔵小杉駅で初採用となりました。
以下、本稿では南武線における現行仕様をもとに、RFID方式の仕組みを紹介します。
2.2 RFIDの役割とペアリングまでの流れ

既設のステップに台座を追加して設置されている

冗長性確保のため2基1組で設置されている
RFIDタグは両先頭車の左右の床下に設置されており、すなわち1編成あたりの設置数は4つです。この小さな装置に書き込まれている “車両ごとの固有ID” を地上側のRFIDリーダで読み取ることが、車両とホームドアのペアリングに重要なカギとなります。
列車進入時におけるシステムの基本動作は以下の通りです。
- RFIDリーダがRFIDタグから車両ごとの固有IDを読み取り
- 地上無線機から固有IDの車上無線機宛てに「ch.0-FC[1]FC=platform codeの略。」電文を送信
- 車上無線機が受信した「ch.0-FC」電文に自車両の固有IDが含まれていれば、同電文内で指定されたホーム別の固有チャンネルに切り替え
- 固有チャンネルで地上無線機~車上無線機の通信を開始する
このように、RFIDタグから読み取った車両ごとの固有IDを地上無線機と車上無線機の紐付けに用いることで、隣接するホームに列車が在線していても互いの混信を防ぐことができます。そして以降は従来方式と同じく、後述する定位置停止検知などの条件が揃えばホームドアと車両ドアの開閉連携が可能となります。
2.3 地上無線機・車上無線機

地上無線機は列車の前部付近および後部付近にあり、ホーム上屋または地上伝送制御盤に内蔵する形で設けられています。RFIDタグから読み取った固有IDの車両へ「ch.0-FC」を送信する機能と、指定チャンネルで車両とホームドア開閉連携を行う機能は、それぞれ個別のUHF無線機が担っています。
南武線は通常6両編成のみで運行されるため、無線機の設置数はホームの前後2か所です。今後さらに多くの編成両数が発着するホームに導入される際は、必要に応じて機器を増やすことで対応するとしています。

一方、車両側の乗務員室内にある車上無線機(UHF送受信部)や、継電器部・電源部といった無線連携システムの各種機器は従来方式と特に変わっていません。ちなみに、従来方式の車両についても、大規模なハードウェアの追加・交換は必要とせずにRFID方式への対応が可能だそうです。
3 在線検知・定位置停止検知システム
2項で紹介したシステムはあくまでも車両とホームドアのペアリング・開閉連携を行うための仕組みで、列車の在線検知や定位置停止検知は地上側の各種センサが行うことにより、列車が定位置範囲内に停止している場合のみ開閉連携を有効とします。
従来方式と比較して、信頼性や汎用性のさらなる向上のため検知方式に改良が加えられています。また、以下に紹介する各種センサは、他の鉄道事業者で多くの採用事例がある “地上完結型” の制御システム[2] … Continue readingでよく用いられる方式です。他のシステムで実績のある仕組みを活用することも低コスト化に繋がっているのだと推測されます。
(1)停止位置検知センサ


測域センサ(2D-LiDAR)が車両連結部の位置を測定することで列車の定位置停止を検知します。新小岩駅では車両前面を測定する方式でしたが、太陽光の反射等により誤動作を起こす事象があったことから、そのような影響を受けにくい車両連結部を測定する方式に変更したそうです。
南武線においては原則として1ホームにつき1か所に設けられています[3]6両編成のうちいずれかの車両連結部。。
(2)在線検知センサ

ホームの複数箇所に設置されたセンサが車体の有無を検知し、その検知結果を組み合わせることで列車がホーム内に在線しているか否かを判定します。
南武線においては原則としてホーム両端付近(1号車と6号車)の2か所に設けられており、両方で車体を検知していればホーム内に車両が収まっていると判定することができます。複数の編成両数が発着するホームでは、センサの数をさらに増やし、検知結果の組み合わせで編成両数の判別も担うものと思われます。
4 今後の展開
2025年4月末時点で本システムが運用されているのは南武線のみですが、2024年度末までに川崎駅~立川駅の全26駅で本システムを使用したホームドアが整備されました。一方、中央線快速系統や湘南新宿ライン・上野東京ライン系統など、これからホームドア整備が本格的に始まる路線の車両にも本システムの機器を搭載する工事が続々と進んでいるため、本システムが今後のスタンダードになることは明らかと言えます。
今後の導入線区拡大に向けては、多くの編成両数が発着するホームで地上無線機をどれだけ減らせるか、連結・切り離しを行うホームではどのように制御するかといった検討が行われているそうです。
5 おわりに
以上のように、従来のLF帯無線方式における課題を解決するため、他のシステムで実績のあるRFID技術や列車検知方式を取り入れたことで、汎用性と低コスト化を両立する新たなシステムが実現しました。冒頭でも述べた通り、JR東日本は2031年度末ごろまでに東京圏の主要路線全駅にホームドアを整備する計画です。今後はこれまで以上の整備ペース加速が求められる中で、本システムはそれを陰で支える重要な存在となるでしょう。
出典・参考文献
- 根本 卓、飯塚 暁、長沼 聡、池永 真英、大和田 晃揮、山上 正規「RFIDを活用したホームドア連携システムの開発」『鉄道サイバネ・シンポジウム論文集』Vol.59、日本鉄道サイバネティクス協議会、2022年
- 千葉 正志、榊原 直輝「JR東日本におけるホームドア整備の推進に向けて」『JREA』Vol.64-No.10、日本鉄道技術協会、2021年、p45462-45485
- 根本 卓、千葉 正志、布施 毅、横山 啓之、笠井 貴之、山上 正規「総武快速線新小岩駅ホームドア連携システム導入に向けた開発と今後の展開」『鉄道サイバネ・シンポジウム論文集』Vol.56、日本鉄道サイバネティクス協議会、2019年