東急電鉄 池上線のホームドア:五反田駅のタイプ

タイプ 腰高式
メーカー 京三製作所
開閉方式 開扉 自動(定位置停止検知)
閉扉 トランスポンダ式連携
停止位置許容範囲 ±350mm(TASCあり)
開口部幅 【推定】2,000mm
非常脱出ドア 開き戸式(車両連結部)
支障物検知センサ 【推定】3Dセンサ

東急電鉄の池上線では、1998年3月のワンマン運転開始に伴う安全対策の一つとして、全駅でセンサー付固定式ホーム柵が整備されました。固定柵はホームドアと比べて転落・接触事故を防げる確率は低いものの、導入コストが低く一定の安全性を確保できることから、編成両数が3両編成と短い池上線には最適といえる方式でした[1]その後、2000年8月の旧・目蒲線の運行系統変更に伴いワンマン運転を開始した東急多摩川線の各駅にも設置された。

しかし、それから四半世紀以上が経過した2024年度、さらなるホーム上の安全対策を推進するため、池上線で最も乗降客数が多い五反田駅にて固定柵からホームドアへの更新が行われることになりました。2025年3月20日に1・2番線ともに稼働が開始され、直前の3月15日ダイヤ改正ではホームドアの開閉時間を考慮した一部列車の時刻変更も行われています。

1 ホームドアの仕様

池上線(および東急多摩川線)は同社の他路線より一回り小さな18m3ドア車で運行されており[2]東横線などの多路線は20m4ドア車。、この車両規格に合わせたホームドアの導入も同社では初めてでした。タイプは一般的な腰高式で、メーカーは外観の特徴から目黒線と同じく京三製作所と推測されます。

固定柵の開口幅は2,500mmでしたが、ホームドアの開口幅は少し狭まって推定2,000mmとなりました。なお、池上線はワンマン運転開始当初からTASC(定位置停止支援装置)を導入しているため、±350mmの高い停止制度が確保されています。

近年整備された田園都市線や大井町線のホームドアと同じく、扉や筐体にラインカラーなどの装飾は施されませんでした。

筐体の断面形状
車両ドア間の筐体
車両連結部の筐体

開口幅が狭いことから戸袋スペースを十分確保できるため、筐体部分は左右の戸袋が独立した構造となっています。車両連結部は筐体同士の間に開き戸式の非常脱出ドアが設けられています。

各開口部の片側には3D式と思われる支障物検知センサと非常開ボタンが1基ずつ設けられています。

旅客を検知している間は表示灯が点滅する

各開口部の支障物センサが旅客の乗り降りを検知すると、当該開口部の筐体上部にある表示灯が点滅します。この仕様は東横線や新横浜線のホームドアと同じです。

2 ホームドアの開閉方式

同駅のホームドア開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉:自動(トランスポンダによる定位置停止検知)
  • 閉扉:トランスポンダ式連携

池上線は以前からTASCおよびホームセンサの制御に用いるためのトランスポンダ装置が導入されており、今回整備された五反田駅ホームドアもこれを活用したシステムとなっている模様です。ただし、東横線や目黒線などの一般的なトランスポンダ式連携とは異なる独特な仕組みで開閉が行われています。

車上子と地上子が重なった様子
既存のホームセンサ設置駅でも用いられている

(1)開扉は連携ではなく自動開扉

一般的なトランスポンダ式連携の場合、車両側に搭載された「車上子」と停止位置直下に設置された「地上子」がピッタリ重なることで情報伝送が可能になり、車両ドアとホームドアの開閉を同期させます。つまり、列車が定位置に停止しても、車両ドアの開扉操作が行われるまではホームドアも開きません。

それに対して五反田駅のホームドアは、列車が定位置範囲内に停止すると、運転士が車両ドア開扉操作を行うよりも前にホームドアが自動開扉していました。地上側のセンサで列車の定位置停止を検知してホームドアを自動開扉するシステムは他の鉄道事業者で多く採用されていますが、同駅の場合はそのようなセンサも見当たらないため、車上子と地上子が重なり通信可能状態になった(これをトランスポンダ結合という)ことを自動開扉の条件としているのだと思われます。

このような方式となった理由として考えられるのが、既存の固定柵設置駅におけるシステムを流用した可能性です。固定柵設置駅でもトランスポンダ結合によって定位置停止を検知し、その場合のみ車両ドア開扉操作を可能としていました。これを五反田駅のホームドアに当てはめ、定位置停止検知をホームドア自動開扉のトリガーとすれば、新たに車両ドア開扉操作を地上側へ伝送する制御を加える必要がありません。

(2)閉扉は車両ドアが完全に閉まりきってから

一方の閉扉についても動作は独特で、一般的なトランスポンダ式連携なら車両ドアとホームドアがほぼ同時に閉まるのに対して、五反田駅は車両ドアが完全に閉まってからホームドアが閉扉動作を開始していました

これも開扉と同じく、固定柵設置駅におけるシステムを流用したためではないかと推測しています。ホームセンサシステムは以下のような流れで列車出発時の安全を確保していました。

  1. 車両ドアがすべて閉扉したことを地上側に伝送
  2. ホームセンサの支障物検知状態を車両側へ伝送
  3. 支障物を検知していない場合のみ列車を起動可能とする

これを五反田駅のホームドアに当てはめると、1の信号をトリガーとしてホームドアを閉扉すれば、新たに車両ドア閉扉操作を地上側へ伝送する制御を加える必要がなく、実際のホームドアの挙動とも辻褄が合います。

3 運転士用表示灯

表示内容の推移
ホームドア閉扉で再び②になり、列車が定位置を離れると①に戻る

ホーム前後には運転士向けにホームドアの開閉状態などを伝達する表示灯が設置されました。表示内容は東横線や大井町線と概ね同じで、ホームドア開扉中は前述した支障物センサによる乗降検知機能が働くと中段にが点滅します。

4 おわりに

既存のセンサー付固定式ホーム柵(旗の台駅にて)

五反田駅は終着駅のため進入速度こそ遅いものの、ホームに人が溢れ返るほど混雑することも多いことから、固定柵からホームドアへの更新によって安全性が大幅に向上しています。

東急は2019年度末までに目黒線・東横線・田園都市線・大井町線の4路線でホームドア全駅整備を達成した一方、池上線では既存ホームセンサの光電式から3D式への更新が行われたに留まり、五反田駅を除く各駅におけるホームドア整備計画は今のところ発表されていません。今回の整備がさらなる整備拡大の布石となるのでしょうか?

出典・参考文献

脚注

References
1 その後、2000年8月の旧・目蒲線の運行系統変更に伴いワンマン運転を開始した東急多摩川線の各駅にも設置された。
2 東横線などの多路線は20m4ドア車。

コメントする