【QRコードだけじゃない!】ホームドアのさまざまな開閉方式まとめ

近年、QRコードをホームドアの制御に用いるシステムがメディアに取り上げられて話題となりました。しかし、ホームドアの開閉方式はそれだけじゃありません。長年使われているシステムから低コストな次世代のシステムまで、さまざまな方式が存在しています。

1 はじめに

鉄道駅の安全対策として絶大な効果を持つホームドア。近年はさらなる普及を目指すべく、設置に掛かるコストや時間を削減した軽量タイプ、ドア位置が異なる車種にも対応した大開口タイプや昇降ロープ式など、路線ごとの課題や条件に応じてさまざまな進化を遂げています。

一方、進化しているのはホームドア本体だけにとどまりません。ホームドアの開閉を制御する仕組みも、メディアに取り上げられて話題となったQRコードによる連動方式をはじめ、より早く・より低コストに整備可能な新しいシステムが次々と登場しています。

この記事では、2025年9月末時点における国内の主なホームドア開閉方式の仕組みと、それぞれのメリット・デメリットを紹介します。

2 主な開閉方式の概要

①トランスポンダによる連携

トランスポンダ装置の車上子と地上子が重なった様子
JR東日本 中央・総武線各駅停車 代々木駅にて

現代のホームドアにおいて最も標準的と言えるのがこの方式です。

トランスポンダとは無線通信技術の一つで、鉄道においてはATS(自動列車停止装置)やATO(自動列車運転装置)の制御に必要な情報を地上側-車両側で送受信する方式としてもよく用いられます。

車両側の床下には「車上子」が、線路側には「地上子」が設けられており、列車が駅の停止許容範囲内に止まると2つがピッタリ重なり電磁的に結合します。これによって情報の送受信が可能になり、乗務員が車両ドアの開閉操作を行うとホームドアも連携して開閉します。

この方式は、1981年に世界初の無人運転や国内初のフルスクリーンホームドアを導入した神戸新交通ポートライナーなど、ホームドアが普及し始めた黎明期から全国のあらゆる路線で採用されてきました。そして、後述する次世代の開閉方式が登場した現代でも、新規に採用する路線はまだまだ多数あり、まさしく「標準的」な方式です。

メリット

主なメリットは、車両ドアとホームドアが一つのシステムとして連携するという本方式の仕組み自体にあります。後述する手動操作方式や車両と直接通信しない方式よりも、誤動作・誤操作のリスクが低い、開閉のタイムロスが少ない、車両とホームドアの両方が閉まらないと列車が出発できないといった点から、安全性・信頼性は特に高い方式と言えるでしょう。

また、システム次第では車両側からの情報に応じてホームドア側の開閉する範囲・箇所を変えることも可能なため、編成両数の違いや座席指定制列車で一部のドアのみを開閉する取り扱い[1]東武東上線の「TJライナー」や東急大井町線の「Qシート」などが該当。などにも対応しやすくなります。

デメリット

一方のデメリットは、対象となるすべての編成にトランスポンダ装置(および関連機器)を搭載しなければならない点です。改造には1編成あたり数億円と言われる莫大なコストと時間が掛かり、他社との直通運転を行っている路線では、乗り入れてくる相手の車両にも改造をお願いしなければなりません。

もちろん、原則としては全編成の改造が完了しないとホームドアを設置できないわけですから、ホームドア本体の設置に掛かるコストや時間と並び、これらがホームドアの普及を妨げる要因の一つにもなっています。

主な採用路線

JR東日本では、2010年度にJRグループの在来線としては初めてホームドアを導入した山手線のほか、京浜東北線・中央・総武線各駅停車などで採用されています。一方、今後新たにホームドアを整備する路線では、後ほど紹介する無線式連携が標準となる見込みです。

福岡市地下鉄は空港線・箱崎線・七隈線の3路線すべてが本方式です。ただし、かつて空港線に乗り入れていたJR九州の103系はトランスポンダ装置を搭載していなかったため、次に紹介する車掌による手動操作で開閉を行っていました。

この他にも

  • JR東日本 常磐線各駅停車
  • 都営地下鉄 三田線・新宿線
  • 東京メトロ 銀座線・丸ノ内線・南北線など
  • 東急電鉄 東横線・目黒線・大井町線など
  • Osaka Metro 四つ橋線・中央線・今里筋線など
  • 東京モノレール
  • 神戸新交通ポートライナー

など多数の採用事例があります。

②駅係員・乗務員による手動操作

車掌がリモコンでホームドアを開閉する様子
東京メトロ東西線茅場町駅にて
※現在はトランスポンダ式連携に変更

ホームドアの開閉方式で最も単純かつ原始的と言えるのがこの方式です。

1974年に国内の常設駅としては初めてホームドアが設置された東海道新幹線熱海駅[2]常設駅以外を含めると、1970年大阪万博の会場内で運行された万国博モノレールが国内初のホームドア導入路線。をはじめ、新幹線のホームドアは現在も駅係員による手動操作が主流となっています。、東海道新幹線品川駅やJR東日本エリアの新幹線各駅など、列車が止まる前に開扉・動き出してから閉扉を行っている事例もあります。

一方、2000年代に入り都市部の私鉄や地下鉄でホームドアの導入が始まると、乗務員が車両ドアとホームドアの両方を操作する方式も増加しました。主な操作方法は、操作盤のスイッチに直接触れる方法と、リモコンを使って操作する方法の2通りがあります。

メリット

最大のメリットは、車両側の改造工事が不要なため、それに必要なコストや時間を削減でき、ホームドアの早期設置にも繋がることです。トランスポンダ方式の項で述べた福岡市地下鉄空港線のように一部車種のみ手動操作とした事例や、東京メトロ東西線の一部駅のように車両改造が完了するまでの暫定措置として手動操作を採用した事例もあります。

デメリット

一方のデメリットは、駅係員が操作する場合、駅の規模にかかわらず人員が必要になるため人件費の問題などが発生します。また、乗務員による手動操作の場合は、車両ドアとホームドアの両方を操作することに伴う業務負担の増加や開閉のタイムロスが大きくなる点が問題です。

そしてどちらの場合も、人間が操作する以上、ヒューマンエラーの可能性を否定できません。ただし、すべての操作が手動というわけではなく、地上側に設置した各種センサで列車の定位置停止や編成両数を判定し、誤操作を防ぐシステムを導入している事例もあります。そしてこのシステムが、次に紹介する各種センサを用いた自動開閉システムへと進化してゆくのです。

主な採用路線

九州新幹線はもともと全駅が駅係員による手動操作でしたが、現在は主要駅を除いて車掌による手動操作へと変更されています。変更当初は操作盤のスイッチを直接押す方式でタイムロスが大きかったため、後にリモコンを導入することで迅速化を図りました。

Osaka Metroはほとんどの路線がトランスポンダ方式ですが、堺筋線は阪急電鉄と直通している関係か、車両改造を避けて乗務員による手動操作を採用しています。また、谷町線・四つ橋線は暫定措置として手動操作を採用し、既に四つ橋線は車両改造が完了したことからトランスポンダ方式への変更が行われました。

この他にも

  • 駅係員が操作
    • JR東日本 東北新幹線・上越新幹線など
    • JR東海 東海道新幹線
    • JR西日本 北陸新幹線
  • 乗務員が操作
    • JR九州 西九州新幹線
    • 京王電鉄
    • 京都市営地下鉄 烏丸線

などで採用されています。

③センサによる連動

地上完結型システムを構成する3種類のセンサ
京成電鉄空港第2ビル駅にて
※センサの呼称はメーカー等によって異なる

車両改造を行うことなくホームドアの開閉を自動化したのがこの方式です。

2010年代に入りホームドアの導入が進むにつれて、一部の手動操作方式で導入されていた列車検知システムを応用し、ホームドアを自動的に開扉する方式が登場しました。車両の先頭部分または連結部分で列車が正しい位置に止まったかを測定する「定位置停止検知センサ」と、複数個所で車両自体の有無を測定する「両数検知センサ(在線検知センサ)」の判定結果を組み合わせることで、編成両数に応じた範囲のみのホームドアを自動開扉することができます。

ただし、上記の方式が自動化できるのは開扉のみで、閉扉は手動操作のままでした。そのため2010年代後半になると、これに車両ドアの動きを測定する「車両ドア開閉検知センサ」を加えたシステムも登場。すべての開閉動作を地上側のセンサのみで自動化できるようになりました。このようなシステムは「地上完結型」とも呼ばれています。

メリット

最大のメリットは、車両側と通信を行うことなく自動開扉・自動閉扉を実現したことです。トランスポンダ方式の課題だった導入に掛かるコスト・時間を大幅に抑制し、手動操作方式の課題だった乗務員の負担や開閉のタイムロスを低減しました。

デメリット

一方のデメリットは、車種による車体の形状・材質・塗装といった違い、さらに太陽光の反射などによる外的要因を受けやすいことです。誤検知を防ぐためには、高い検知精度と運用開始前の念入りな調整が必要になります。また、信頼性確保の観点や編成両数のバリエーションなどによって各種センサは複数設ける必要があり、数が多いほどコスト面での優位性も劣ってしまいます。

主な採用路線

東武鉄道野田線(東武アーバンパークライン)の船橋駅・柏駅では、全国に先駆けて定位置停止検知による自動開扉を実現しました。以前はすべての一般列車が6両編成でしたが、2025年からは5両編成の運行も開始されたため両数検知センサが追設されています。

京阪電気鉄道は編成両数の違いだけでなく、1両あたりのドア数も車種によって異なるため、車両ドア開閉検知センサがドアの動きだけでなくドア自体の有無も検知することで、車両ドア数に応じてホームドアを自動開閉するシステムを採用しています。

この他にも

  • 開扉のみ自動
    • JR西日本 山陽新幹線・在来線の各線
    • 西武鉄道(一部駅を除く)
    • 阪急電鉄
  • 開閉ともに自動
    • 東京メトロ東西線・半蔵門線(一部駅を除く)
    • 京成電鉄
    • 神戸市営地下鉄 西神・山手線

などで採用されています。

④QRコードによる連動

車両ドアに貼付された「tQR」
神戸市営地下鉄西神・山手線の車両にて
※現在はセンサ式連動に変更

新たな発想でさらなるコスト削減を目指したのがこの方式です。

一般的なQRコードよりも信頼性に優れた新型QRコード「tQR」を一部の車両ドア(両開きドアの左右)に貼り付け、地上側に設置されたカメラは、QRコードが列車が走行中なら同じ方向に移動車両ドアが開閉すれば別々の方向に移動するという動きを読み取ることで、列車の定位置停止やドア開閉を検知します。

さらに、QRコードには編成両数・ドア数などの車種情報が格納されています。これらの情報をもとに、車種に応じた箇所のみのホームドアを、車両ドアの動きに追従して自動開閉することができます。

メリット

最大のメリットは、センサ方式よりもさらに簡単な仕組みで検知が可能なこと、そして車両側の改修はQRコードを貼るだけで済むことです。これにより、地上側・車両側ともに導入コストを大幅に抑えられます。そして、QRコードの車種情報をもとに柔軟な制御が可能なため、ドア数が異なる車種同士の連結など、複雑な条件にも対応しやすくなります。

デメリット

一方のデメリットは、センサ方式と同じく、太陽光による影響を受けたり、QRコードに大きな汚れや破損があった場合の懸念です。tQRは50%が欠損していても読み取れる性能を有していますが、それでも信頼性確保のためにはQRコードとカメラと複数設ける必要があるほか、列車が停止していることを確実に検知するため定位置停止検知センサを併用するのが基本です。

また、本方式の基本仕様としては、車両ドアの開扉をQRコードの動きで読み取ってからホームドアを開扉する仕組みのため、開き始めるまでに多少のタイムラグが発生してしまします。実際、2019年度に本方式を導入した神戸市営地下鉄西神・山手線の三宮駅では、わずか2年でよりタイムラグの少ないセンサ方式に変更されました。

採用路線

本方式は東京都交通局が浅草線へのホームドア導入に際して、編成両数やドア数の違いにも簡単に対応できる方法として考案されたものです。その浅草線と直通運転を行う京急電鉄も本方式を採用し、複雑な条件に対応できるメリットを大いに発揮しています。

小田急電鉄は2020年度に整備された登戸駅から本方式を採用し、開扉のみ自動のセンサ方式を採用していた既存駅でもQRコード読み取りカメラの追設が進んでいます。ただし、特急型車両のロマンスカーは “QRコードを貼ると車両デザインを損なう” という理由で採用が見送られ、車掌によるリモコン操作で対応しています。

JR東海は名古屋エリアの在来線において本方式を採用しています。2025年5月上旬からは、左右2枚のQRコードのうち1枚をドアではなく車体に貼付することで、片開きドアの特急型車両でも検知可能とする方式の実証試験も行っています。

※以下の記事は2020年に行われていたホームドア導入前の実証試験

現時点で採用されているのは上記の4社局です。前述の通り、かつては神戸市営地下鉄西神・山手線の三宮駅でも採用されていました。

⑤無線通信による連携

車両側の車上無線機
JR東日本 中央線快速の車両にて

トランスポンダによる連携方式の後継として注目されているのがこの方式です。

前述の通り、トランスポンダ装置も無線通信技術の一つでしたが、本方式は簡易的な汎用無線機を活用することでコスト削減を図っています。

「車上無線機」は乗務員室の天井に、「地上無線機」はホームドア本体またはホームの屋根などに設置し、通信範囲内に入るとトランスポンダ方式と同じように車両ドアとホームドアの連携が可能になります。ただし、これだけでは隣り合うホームと混信してしまうため、伝搬距離の狭い別の周波数帯無線を併用したり、車両床下に取り付けたRFIDタグから車両番号を読み取ることで、車両とホームドアの関係を確実に結びつけています。

メリット

最大のメリットは、線路内と車両床下に機器を設置する必要があったトランスポンダ方式と比べて、改造工事に掛かるコストや期間を大幅に削減することができます。これにより設置後のメンテナンスや故障時の対応もしやすく、線路保守工事の邪魔になることもありません。

デメリット

一方、地上子と車上子の重なりで定位置停止を検知できたトランスポンダ方式と違い、本方式は地上側の各種センサでそれらを判定しています。つまり、センサ式連動と同じく外的要因を受けやすい等のデメリットを伴います。また、車上無線機をはじめ関連機器すべてを乗務員室内に設置するため、車種によっては設置スペースの問題が生じる可能性もあります。

採用路線

JR東日本は総武快速線新小岩駅で初めて本方式を採用し、山手線ホームドア導入時と比較して車両改造の期間・コストを半分以上低減しました。トランスポンダ式連携の項でも述べたように、今後新たにホームドアを整備する路線では無線式連携が標準になる見込みです。

上記を含め、現時点での採用路線は

  • 都営地下鉄大江戸線
  • JR東日本 総武線快速 新小岩駅
  • JR東日本 成田線 成田空港駅・空港第2ビル駅
  • JR東日本 相鉄・JR直通線 羽沢横浜国大駅(JR側の発着時のみ)
  • JR東日本 南武線

の計5路線です。

⑥その他の方式

最後に、採用事例は少ないものの特徴的な開閉方式を2つ紹介します。

東急電鉄の田園都市線では、停止位置直前に設置した2つのセンサで列車の平均速度を算出し、それが一定以下ならホームドアを自動開扉するシステムを導入しています。一方、閉扉は車掌による手動操作ですが、以前は列車が出発したことを検知して(=列車が動き出してから)自動閉扉する駅もありました[3]開閉のタイムロスを極力抑えることが本方式の目的だったと思われる。

北大阪急行電鉄では、開扉は定位置停止による自動なのに対して、閉扉は車両側面に設けられたドアの開閉状態を示す「車側灯」の点灯状態を判定することでホームドアを自動閉扉しています。この方式は、かつてトランスポンダ方式になる前の東京メトロ銀座線上野駅にて、安全にホームドアおよび可動ステップを制御するための方法としても使用されていました。

3 同じ路線でも開閉方式は異なる

ここまで主なホームドア開閉方式を紹介してきました。しかし、同じ会社・同じ路線なら開閉方式も1つだけとは限りません。例えば、開扉と閉扉で別の方式を採用している事例があります。

Osaka Metro御堂筋線はかつて開扉のみ自動のセンサ方式でしたが[4]最初期の先行導入駅では開閉ともに車掌手動操作。、その後すべての車両にトランスポンダ装置が搭載されました。しかし、連携化されたのは閉扉のみで、開扉はセンサ方式のままとなっています。

また、車種や列車種別によって開閉方式が異なる事例もあります。

小田急電鉄はもともと導入時期などによって開閉方式が混在しており、例えば新宿駅の地上急行ホームは開扉のみ自動のセンサ方式、地下各停ホームはQRコード方式と異なっています。さらにQRコード方式の項でも述べましたが、特急型車両ロマンスカーはデザイン性を重視してQRコード方式を採用せず車掌手動操作とするなど、取り扱いはかなりバラバラです。

4 おわりに

以上のように、開閉方式のレパートリーはもはや説明しきれないほど複雑です。しかし、普段何気なく利用している駅のホームドアがどうやって動いているのか、当記事をきっかけに興味を持っていただけると嬉しいです。

そして今後も、ホームドアのさらなる普及とともに、QRコード方式すら凌駕する予測不可能な開閉方式が登場するかもしれません。「より早く・より低コスト」を目指すため、鉄道事業者や交通機器メーカーによる新たなシステムの研究は続いていくことでしょう。

出典・参考文献

脚注

References
1 東武東上線の「TJライナー」や東急大井町線の「Qシート」などが該当。
2 常設駅以外を含めると、1970年大阪万博の会場内で運行された万国博モノレールが国内初のホームドア導入路線。
3 開閉のタイムロスを極力抑えることが本方式の目的だったと思われる。
4 最初期の先行導入駅では開閉ともに車掌手動操作。

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