近畿日本鉄道のホームドア:昇降式ホーム柵 鶴橋駅1・2番線のタイプ

タイプ 昇降ロープ式(支柱固定型)
メーカー 日本信号
開閉方式 開扉(上昇) 自動(定位置停止検知・両数検知)
閉扉(下降) 車掌手動操作
停止位置許容範囲 ±750mm(TASCなし)
開口部幅 不明
ロープ素材 カーボンストランド
安全装置 ロープ近接検知
居残り検知
2Dセンサ

近畿日本鉄道(近鉄)の大阪線と奈良線が乗り入れる鶴橋駅では、2025年3月30日に2番線(大阪線下りホーム)、約1年後の2026年3月15日に1番線(奈良線下りホーム)で、さまざまな車両ドア位置に対応できる「昇降ロープ式ホームドア」(以下:昇降式ホーム柵)の稼働が開始されました。なお、本格導入を前に、2024年5月ごろから2番線の後部約2両分で先行運用が行われていました。

近鉄におけるホームドアの導入は、南大阪線の大阪阿部野橋駅3・4番線乗車ホームで昇降式ホーム柵が整備(2018年度本格導入)されて以来2例目で、大阪線系統としては初のホームドアです。阿部野橋駅タイプとは仕様・デザインが大きく変わっており、2025年度のグッドデザイン賞も受賞しました。

1 昇降式ホーム柵導入の経緯

2024年11月撮影
2番線の後部約2両分で先行運用が行われていた頃

近鉄はドア位置・ドア数の異なるさまざまな車種が入り乱れており、特に鶴橋駅の奈良線ホームは直通運転を行う阪神電気鉄道の車両や大阪難波駅発着の特急列車も乗り入れることから…

  • 自社の一般型車両(1両あたりの長さ約21m・4ドア)
  • 阪神電気鉄道の車両(1両あたりの長さ約19m・3ドア)
  • 多種多様な特急型車両

が発着し、全国でも有数と言えるほど車両ドア位置が統一されていません。

以前は “通常のホームドアはおろか昇降式ホーム柵ですら設置が困難” と言われていたこのような条件に対応するため、近鉄は昇降式の発展形として柵がホームの下へ沈むように格納される新型ホームドアの研究・開発に着手。2018年時点では主要駅において数年後の実用化を目指すと報じられていました。

しかし、鶴橋駅2・3番線で実際に採用されたのは昇降式ホーム柵でした。既に昇降式ホーム柵が採用されていた大阪阿部野橋駅や他社における実績などから、鶴橋駅においても昇降式ホーム柵ですべての車両ドア位置パターンに対応できる目処がついたのだと思われますが、その具体的な経緯は今のところ明らかになっていません。

一方、上りホームの3・4番線は駅構造の関係で昇降式ホーム柵を設置できないことから、通常のホームドアを車両から離して設置することでドア位置の違いに関係なく乗降を可能としました。このような理由によって、鶴橋駅は上下線で異なるタイプのホームドアが採用されているのです。

2 ホームドアの仕様

線路側から見た1ユニット分のホーム柵
原則としてメインポストとサブポストが交互に配置

同駅で採用された昇降式ホーム柵は、大阪阿部野橋駅や阪神の神戸三宮駅で実績のある「支柱固定型」と呼ばれるタイプです。ロープを昇降する駆動機構を内蔵したメインポストと、ロープのたわみを抑えるサブポストの組み合わせで1ユニットが構成されています。同駅のホーム有効長は10両分ですが、大阪線における10両編成の運行は2024年3月のダイヤ改正で廃止されたため、2番線側は8両分のみの設置となりました。

ロープは軽量かつ引張力に強いカーボンストランド製です。阿部野橋駅タイプや他社の昇降式ホーム柵はロープに赤色や黄色の警戒色を多用しているのに対して、本タイプは最低限の黄色部分を除いて[1]2番線における先行運用当初は黄色も使われておらず、のちに追加された。無彩色のコントラストを利用することにより、駅空間との調和と機能性の両立を図っています。

なお、阿部野橋駅タイプは8本のロープが等間隔に配置されていたのに対して、本タイプは上下2本ずつを隣接させ、上は白色、下は黄色のカバーでまとめることにより実質1本としています。この仕様変更によって、下部隙間(ロープ最下部~ホーム床面)が阿部野橋駅タイプよりも広がり、防護性の面ではやや劣っています。

ホーム側から見たメインポスト
ホーム側から見たサブポスト
線路側から見たメインポスト
線路側から見たサブポスト
サブポスト上部の2Dセンサ
足元に設けられた注意書き

筐体(ポスト)はグレーとブラックを基調としたシックなデザインで、ポスト同士を繋ぐ梁(ダクト)との一体感を高めたY字状の造形が特徴。ケーブル類をダクト内に収納することで景観の向上にも寄与しています。

阿部野橋駅タイプと同じく、サブポストの上方と下方には支障物検知用の2Dセンサが[2]一部箇所はメインポストにも設置。、メインポストのホーム側とサブポストの線路側には非常開ボタンがそれぞれ設けられています。一方、阿部野橋駅タイプはサブポスト上部のホーム側にも近接検知用の2Dセンサがありましたが、本タイプはメインポストの非常開ボタンの下にある小さな穴が近接検知センサのようです。

左:標準のサブポスト
右:奈良線ホームの一部のサブポスト

細かいポイントとして、標準のサブポストの線路方向サイズは300mm(点状ブロック1枚分)とされていますが、奈良線ホーム2番線の一部箇所に限り線路方向サイズがわずかに小さいサブポストが存在していました。後述のように、発着する車種の多さは大阪線ホームより奈良線ホームの方がはるかに上なので、これも複雑な車両ドア位置の違いに対応するための工夫なのでしょうか。

特急列車の号車案内表示(デザイン変更前)
デザイン変更後の特急号車表示
ロープ昇降時はLEDランプが緑色に点滅

本タイプの大きな特徴として、上部ダクトのスペース有効活用し、特急列車のドア位置付近に号車案内を表示するディスプレイが内蔵されています。また、阿部野橋駅タイプと同じく、ロープ昇降時に点滅するLEDランプも一定間隔で設置されています。なお、当初の特急号車表示は先発列車のみの表示でしたが、1番線側の整備と前後してデザインが変更され、先発・次発の2列車分が表示されるようになりました。

3 車両ドアとの位置関係

3.1 2番線(大阪線ホーム)

大阪線ホーム2番線には4ドアまたは3ドアの一般型車両に加えて、特急型車両の「伊勢志摩ライナー」「ビスタEX」や複数の汎用特急車も発着します。ただし、大阪線ホームに発着する特急列車は朝夕の一部列車のみであることから[3]大阪線系統の特急列車でも、大阪難波駅発着の列車は奈良線ホーム、大阪上本町駅発着の列車は大阪線ホームに発着する。、後述する奈良線ホーム1番線に比べると発着する車種のレパートリーは少ない方となっています。

2番線の筐体配置は上図の通りです。

最大約13mの開口幅で上記すべての車種に対応しています。特急型車両と一般型車両の停止位置が少しずれている関係でホーム前後の配置がやや特殊ですが、それ以外はメインポストを一般型車両の連結部分に、サブポストを3ドア車・4ドア車のどちらのドアとも重ならない箇所に配置する規則的なパターンとなっています。

筐体配置の都合上、ホーム柵のユニット区分と列車の全長が揃わない場合があるため、一部の特急型車両の前部・後部は余分に開いてしまう箇所があります。

2番線の停止許容範囲を示すマーカー

各車種・編成両数の停止位置には線路面およびホーム床面に停止許容範囲を示すマーカーが設けられており、2番線側の許容範囲は阿部野橋駅と同じく±750mmのようです。

3.2 1番線(奈良線ホーム)

1番線に停車する阪神1000系

一方、奈良線ホーム1番線には自社の一般型3ドア車は発着しない反面、1両あたりの長さもドア数も異なる阪神車、さらに特急型車両では「ひのとり」「しまかぜ」「アーバンライナー」なども発着します[4]大阪線系統の特急列車でも、大阪難波駅発着の列車は奈良線ホーム、大阪上本町駅発着の列車は大阪線ホームに発着する。。そのため1番線は2番線をはるかに上回るほど車両ドア位置がバラバラとなっており、本当に対応できるのか最後まで疑問に思われていました。

1番線の筐体配置は上図の通りです。

以前は「ホームドアなんて無理」と思われていた複雑すぎる車両ドア位置の違いを見事に克服しています。2番線よりは不規則な配置が目立ち、あくまで目測ですが、最大開口幅は2番線よりもさらに広く14m近い箇所もあるように見えました。

ちなみに、80000系「ひのとり」のみ他の特急型車両と異なり一般型車両と同じ停止位置なのは、設計段階からホームドアを考慮し一般型車両とドア位置を近づけているためです。

1番線の停止許容範囲を示すマーカー

ただし、すべての車両ドア位置に対応したことの代償か、停止許容範囲は2番線の±750mmより狭い推定±500mmとなっていました。新旧さまざまな車種が乗り入れ、他車種同士の連結も日常茶飯事の近鉄において、常にこの停止精度を求められるのは運転士の負担が大きそうです。

4 ホームドアの開閉方式

鶴橋駅1・2番線のホームドア開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉(上昇):自動(定位置停止検知・両数検知)
  • 閉扉(下降):車掌手動操作

阿部野橋駅と同じく、開扉は地上側のセンサで列車の定位置停止と編成両数を検知して自動開扉、閉扉は車掌による手動操作で行われています。ただし、閉扉操作にリモコンを用いる点が阿部野橋駅と異なります。

定位置停止検知センサ
運転士向けの定位置表示灯

各編成両数の停止位置前方には3Dセンサが2基ずつ設けられており、このセンサが車両前面までの距離を測定することで列車の定位置停止を検知します。一方、編成両数を判別するためのセンサ等は見当たらなかったため、サブポスト下方に設置されている支障物検知センサが両数検知も兼任しているものと思われます。

阿部野橋駅と同じく、開状態では赤色で、閉状態では青色でが点灯する「開閉表示灯」が運転士側と車掌側それぞれに設けられています。一方、列車が停止許容範囲内に入ると青色に点灯する「定位置表示灯」は、阿部野橋駅と異なり運転士側のみに設けられています。

2番線側のリモコン受光部
最後部の表示灯とITVモニタ
左側:乗降表示灯
右側:開閉表示灯

阿部野橋駅では車掌が車両ドア→ホーム柵の順に閉扉操作を行っていましたが、鶴橋駅は逆でホーム柵→車両ドアの順に閉扉操作を行っています。また、鶴橋駅では車掌が携帯するリモコンを用いて操作する方式が採用され[5]2番線における先行運用当初は「ホームドア係」と呼ばれる専属の駅係員がリモコン操作を担当していた。、2番線側は各編成両数の最後部上方にリモコン受光部を収めたBOXが設けられていますが、1番線側には見当たらなかったため、ホーム柵線路側のいずれかの場所に内蔵されているものと思われます。

物体を検知している間は各編成両数の最後部付近に設けられた紫色の「乗降表示灯」が消灯し、車掌に旅客の乗り降りを知らせている点や、ホーム柵の閉扉操作を行うと「○番のりばのロープが下がります。」という音声が流れてからロープが下降を開始する点は阿部野橋駅と同じです。

5 おわりに

奥:特殊配置ホームドアが採用された3番線
手前:昇降式ホーム柵が設置された2番線

以上のように、鶴橋駅タイプの昇降式ホーム柵は、さまざまな車両ドア位置に対応できる昇降式本来の機能性を有しながら、仮設設備感を払拭した高いデザイン性が大きな特徴となりました。特にこれだけ多くの車種が発着する奈良線ホームへの設置はよく実現できたものだと感心してしまいます。

一方、前述の通り、同駅上りホームの3・4番線は駅構造の関係で昇降式ホーム柵を設置できないという理由により、通常のホームドアを車両から離して設置する方法が採られました。その筐体配置や構造は、もはやこれまでのホームドアの常識を覆すような代物となっています。

出典・参考文献

脚注

References
1 2番線における先行運用当初は黄色も使われておらず、のちに追加された。
2 一部箇所はメインポストにも設置。
3, 4 大阪線系統の特急列車でも、大阪難波駅発着の列車は奈良線ホーム、大阪上本町駅発着の列車は大阪線ホームに発着する。
5 2番線における先行運用当初は「ホームドア係」と呼ばれる専属の駅係員がリモコン操作を担当していた。

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