阪急電鉄のホームドア:さまざまな列車運行に対応した制御システム
阪急電鉄では、現時点までに十三駅[1]3・4・5号線ホームのみ。と神戸三宮駅に可動式ホーム柵(以下:ホームドア)が設置されました。車両側の改造を不要としながら従来通りの列車運行を実現するために、地上側のセンサや関連設備が列車の編成両数・種別・ドア数などを判別する制御システムが構築されています。
目次
1 制御システムの仕組み
1.1 各種センサの概要
阪急の基本的なホームドア開閉の仕組みは、開扉はシステムにより自動化し、閉扉は車掌が手動操作で行います。これは他の事業者でも多く採用されている方式で、「定位置停止検知センサ」と「両数判定センサ」の組み合わせにより、列車の編成両数に対応した範囲のみのホームドアを自動開扉します。
(1)定位置停止検知センサ
測域センサ(2D-LiDAR)が車両前面を測定して列車が定位置範囲内に停止したかを検知します。設置場所はおもに各編成両数の停止位置前方で、冗長性確保のため2基のセンサがBOX内に収められています。
(2)両数判定センサ
ホームの複数個所に設けられたセンサが車両の有無を検知して、その判定結果の組み合わせにより編成両数を判別します。こちらも冗長性確保のため2基1組となっており、設置場所はおもにホームドア筐体の下部です。
1.2 既存設備を活用した列車の判別
一般的な列車であれば上記の列車検知システムだけでも運用可能ですが、列車種別や車種に応じた制御が必要になる場合もあるため、既存の設備との連動によってその条件を判別しています。
(1)列車種別の判別
次に入線する列車の種別情報を継電連動装置から取得することで、通過列車や回送列車の場合は定位置に停止してもホームドアが開かないように制御します。
車両ドア位置の違いでホームドアに対応できない6300系「京とれいん」が十三駅に運転停車する場合や、左右両側にホームがある神戸三宮駅の中線でどちらのホームドアを自動開扉するかといった判別もこれで制御されているのだと思われます。
(2)車両ドア数の判別

※これが確実にホームドア向けのものかは不明
元々3ドア一般型車両だった7000系を2ドアに改造した「京とれいん 雅洛」は、6300系「京とれいん」とは違いホームドアのある十三駅にも停車が可能です。しかし各号車1・3番ドアのみを自動開扉する必要があるため、ドア数をどう判別するかが検討された結果、従来から別の用途で使われていたIDタグから車両番号を読み取るシステムがホームドア制御に流用されました。
2 乗降検知機能

特徴的なのが、ホームドア各開口部の3Dセンサを活用した「乗降検知機能」です。一般的にホームドアの支障物検知センサは閉動作中や全閉後に機能するものですが、ホームドア開状態の時も旅客の乗り降りを常時検知することで、車掌が閉扉操作を行うタイミングをアシストして安全性を高めています。
乗降検知機能は列車の出発進路が開通してから動作を開始し、乗務員表示灯(車掌用)の点滅およびチャイム鳴動[2]乗降検知チャイムはホームドア閉扉チャイムと同じ音色。で車掌に旅客の乗り降りを知らせています。センサ検知から表示灯の点滅までのタイムラグをいかに小さくできるかがシステム開発の重要なポイントだったそうです。
3 乗務員表示灯
乗務員表示灯のうち左側は運転士用と車掌用で表示内容が異なっており、前述の乗降検知は車掌用にだけ表示されます。表示推移は以下の通りでした。
(1)運転士用
- 列車が定位置に停止すると左側が青色■に点灯
- ホームドアが自動開扉すると右側が赤色■に点灯
- ホームドアが閉まると右側が緑色■に点灯
- 列車が定位置を離れると左右とも消灯
(2)車掌用
- ホームドアが自動開扉すると左側が黄色■・右側が赤色■に点灯
- 旅客の乗降を検知している間は左側の黄色■が点滅
- ホームドアを閉めると左右両方が緑色■に点灯
- 列車が定位置を離れると左右とも消灯
4 ATSとの連動
ホームドアが開状態のあいだや全閉後に異常を検知している場合はATS(自動列車停止装置)の信号電流をカットし、いわば前方の信号が停止現示なのと同じ状態にすることで列車の出発を防止しています。この際、運転台のATS表示器にはATS無信号を表す「N」が表示されます。
5 おわりに
他社で実績のある列車検知システムと既存設備の活用による自動開制御、そして独自の乗降検知機能などで乗務員への負担をおさえた点がシステムの特徴と言えます。今後の設置駅拡大でシステム面がどのように拡張されていくかにも注目です。
出典・参考文献
- 山口 英樹、有岡 謙介「十三駅への可動式ホーム柵導入について」『鉄道サイバネ・シンポジウム論文集』Vol.56、日本鉄道サイバネティクス協議会、2019年