阪急電鉄のホームドア:さまざまな列車運行に対応した制御システム
阪急電鉄では、2018年度に関西の大手私鉄としては初の可動式ホーム柵(以下:ホームドア)が十三駅3・4・5号線で整備されました。その後も神戸三宮駅・桂駅などの主要駅を中心に整備が進んでいます。
阪急のホームドア開閉方式は、地上側の各種センサにより列車の定位置停止と編成両数を検知して自動開扉する一方、閉扉は車掌による手動操作で行われます。それに加えて、既存の設備との連動によって列車種別や車種に応じた制御を行うことで、車両側の改造を不要としながら従来通りの列車運行を実現しています。
目次
1 制御システムの仕組み
1.1 各種センサの概要
阪急の基本的なホームドア開閉の仕組みは、開扉のみシステムによる自動、閉扉は車掌による手動操作です。これは他の事業者でも多く採用されている方式で、「定位置停止検知センサ」と「両数判定センサ」の組み合わせにより、列車の編成両数に対応した範囲のみのホームドアを自動開扉します。
(1)定位置停止検知センサ

測域センサ(2D-LiDAR)が車両前面を測定して列車が定位置範囲内に停止したかを検知します。設置場所はおもに各編成両数の停止位置前方で、冗長性確保のため2基のセンサがBOX内に収められています。このセンサと後述の両数判定センサとの組み合わせによって、編成両数に対応する範囲のみのホームドアを自動開扉することができます。
(2)両数判定センサ

1つの筐体に2基設置されてている仕様
異なる編成両数が発着するホームの場合、ホームの複数個所に設けられたセンサが車両の有無を検知して、その判定結果の組み合わせにより編成両数を判別します。こちらも冗長性確保のため2基1組となっており、設置場所はおもにホームドア筐体の下部です。
1.2 既存設備を活用した列車の判別
一般的な列車であれば上記の列車検知システムだけでも運用可能ですが、列車種別や車種に応じた制御が必要になる場合もあるため、既存の設備との連動によってその条件を判別しています。
(1)列車種別の判別
次に入線する列車の種別情報を継電連動装置から取得することで、通過列車や回送列車の場合は定位置に停止してもホームドアが開かないように制御します。この機能は、京都本線で2022年12月まで運行されていた6300系「京とれいん」が、車両ドア位置の違いでホームドアに対応できない十三駅に運転停車[1]「京とれいん」はホームドア設置に伴い十三駅を通過駅に変更したものの、信号システムの関係で停車する必要があった。する際などにも活用されていました。
(2)車両ドア数の判別

※これが確実にホームドア向けのものかは不明

従来から別の用途で使われていたIDタグから車両番号を読み取るシステムを活用し、ドア数が異なる車両の場合は特定の箇所のみを自動開扉する制御を行っています。この機能は、元々3ドア一般型車両だった7000系を2ドアに改造した「京とれいん 雅洛」[2]各号車1・3番ドアのみを開扉。や、京都本線で2024年7月から一部列車に連結されている座席指定車両「PRiVACE」[3]4号車は2番ドアのみを開扉。の判別に用いられています。
2 乗降検知機能

一般的にホームドアの支障物検知センサは閉動作中や全閉後に機能するものですが、阪急ではホームドア開状態の間も旅客の乗り降りを常時検知し、車掌が閉扉操作を行うタイミングをアシストする「乗降検知機能」を設けることで安全性を高めています。
乗降検知機能は列車の出発進路が開通してから動作を開始し、乗務員表示灯(車掌用)の点滅およびチャイム鳴動[4]乗降検知チャイムはホームドア閉扉チャイムと同じ音色。で車掌に旅客の乗り降りを知らせています。センサ検知から表示灯の点滅までのタイムラグをいかに小さくできるかがシステム開発の重要なポイントだったそうです。
3 乗務員表示灯
運転士向け・車掌向けそれぞれにホームドアの開閉状態などを伝達する乗務員表示灯が設けられています。2つのLED表示灯のうち左側は運転士向けと車掌向けで表示内容が異なっており、前述の乗降検知は車掌用にだけ表示されます。
基本的な表示推移は以下の通りです。
(1)運転士向け
- 列車が定位置に停止すると左側が青色■に点灯
- ホームドアが自動開扉すると右側が赤色■に点灯
- ホームドアが閉まると右側が緑色■に点灯
- 列車が定位置を離れると左右とも消灯
(2)車掌向け
- ホームドアが自動開扉すると左側が黄色■・右側が赤色■に点灯
- 旅客の乗降を検知している間は左側の黄色■が点滅
- ホームドアを閉めると左右両方が緑色■に点灯
- 列車が定位置を離れると左右とも消灯

2024年度以降の設置駅では、ホームドア筐体に表示灯を内蔵したタイプや、車掌用ITVモニタの上部に従来より小型・簡素化されたタイプを設ける事例も登場しています。
4 ATSとの連動
ホームドアが開状態のあいだや全閉後に異常を検知している場合はATS(自動列車停止装置)の信号電流をカットし、いわば前方の信号が停止現示なのと同じ状態にすることで列車の出発を防止しています。この際、運転台のATS表示器にはATS無信号を表す「N」が表示されます。
5 おわりに
以上のように、阪急のホームドア制御システムは、他社で実績のある列車検知システムと既存設備の活用による自動開制御、そして独自の乗降検知機能などで乗務員への負担をおさえた点が特徴と言えます。一方、現時点で閉扉を自動化する動きは見られず、今後の設置駅拡大でシステム面がどう拡張されていくかにも注目です。
出典・参考文献
- 山口 英樹、有岡 謙介「十三駅への可動式ホーム柵導入について」『鉄道サイバネ・シンポジウム論文集』Vol.56、日本鉄道サイバネティクス協議会、2019年





