万能なだけではない? 導入進む昇降ロープ式ホーム柵のデメリット

2016年3月26日に使用開始されたJR西日本高槻駅の新1・6番のりば。そこにはまるでプロレスのリングのような5本のロープがホームと線路を遮断する物々しい装置が鎮座していました。これこそが、ドア位置の異なる様々な車種にも対応できる新型ホームドア「昇降式ホーム柵」です。現在は関西エリアの主要駅を中心に設置が進んでおり、これまでホームドア整備が難しかった駅における救世主としてさらなる普及が期待されています。

しかし、設置駅が増えて様々な環境下で運用されるようになったことで、その特徴的な機構であるが故のデメリットも浮き彫りとなってきています。

1 はじめに

そもそも昇降式ホーム柵とは、扉が横方向に開く通常のホームドアと異なり、シャッターのように扉に相当する部材が上下に可動するタイプの総称です。2020年現在では、日本信号が開発したロープ式と、高見沢サイバネティックスが開発したバー式が存在しており、列車が到着するとロープやバーが乗降に支障のない高さまで上昇することでホームドアとしての機能を有しています。

近鉄大阪阿部野橋駅の支柱固定型
JR高槻駅の支柱伸縮型

さらにロープ式は支柱固定型支柱伸縮型の2タイプに分けられます。「支柱固定型」は韓国で最初に実用化されましたが、高さ2m以上もある支柱がホーム見通しを支障することから、支柱自体が昇降することで下降時の高さを一般的なホームドアと同等とした「支柱伸縮型」がJR西日本と日本信号により共同開発され、それが現在の日本で最も普及しているタイプとなりました。

なおこれ以降、当記事における「昇降式ホーム柵」とは特記の無い限り支柱伸縮型ロープ式のことを指しています。基本構造が全く異なるバー式は当記事に記載する内容とは無関係のものとしてご覧ください。

2 昇降式ホーム柵のメリット

奥:一般的な腰高式ホームドア
手前:昇降ロープ式ホーム柵

昇降式ホーム柵は一般的なホームドアと比較してどのようなメリットがあるのかをまとめると、主に「規格が異なる車種にも対応できる」「停止位置許容範囲を拡大できる」「設置コストを削減できる」という3つの要素が挙げられます。詳しくは下記の通りです。

①規格が異なる車種にも対応できる

通常のホームドアは左右に開く扉とそれを収納する戸袋によって構成されており、開口部の幅は3m前後が一般的です。それに対して昇降式ホーム柵は戸袋という概念が無いため、最大10m超という広い開口幅でドア位置やドア数が異なる様々な車種に対応できます。これが昇降式ホーム柵が開発された一番の理由かつ一番のメリットと言えるでしょう。

②停止位置許容範囲を拡大できる

ホームドアと車両ドアをピッタリ合わせるには高い停止精度を求められますが、開口幅が広い昇降式ホーム柵なら停止許容範囲も拡大できるため、多額の費用が掛かるATO(自動列車運転装置)やTASC(定位置停止装置)を整備しなくても運転士の負担を軽減できます。

③設置コストを削減できる

通常のホームドアは1開口あたり400kg程度の重量があるため、特に古い盛土式ホームの場合は基礎工事だけで数億円の費用が掛かると言われています。それに対して昇降式ホーム柵は開口幅が広いため筐体の数自体を少なくできることや、風の影響を受けにくいことから、ホーム基礎工事の費用を削減できることもメリットです。

3 昇降式ホーム柵のデメリット

このように多くのメリットを持つ昇降式ホーム柵ですが、通常のホームドアと大きく異なる機構は時と場合によってデメリットとなってしまうこともあります。

以下にその具体的な事例を7項目紹介しますが、これらは原則として国土交通省が公開する資料や各種メディアの記事などに掲載された実際の利用者(特に視覚障害者)からの意見を元に構成したものです。執筆者個人の見解も含んでいるものの、決して昇降式ホーム柵の設計そのものを批判する目的ではない事をご留意願います。

①抜本的な構造上の安全性

昇降式ホーム柵についてネット上でよく見られる意見が「見た目が安っぽい」「意味が無さそう」といった抜本的な構造に対する疑問です。確かにホームと線路を遮断しているのが直径数cmのロープ5本だけというのはどうしても簡素さが否めません。

しかし、ロープの素材にはカーボンストランドロッドという頑丈な素材が使われており[1]高槻駅など初期に設置された機体ではステンレスワイヤーを使用。、大人がロープにもたれ掛かっても列車に接触しない程度の強度はあるため、ホームドア最大の目的である不慮の転落を防止するという観点では十分な効果が期待できます。

その一方で、ホーム床面からロープ最下部の隙間が500mmと広いため、特に身長の低い幼児などは簡単に潜り抜けられてしまう懸念はあります。この寸法は筐体底部の強度を確保する関係で決定されており、ロープの本数を増やしたり下部隙間を減らすためには大幅な設計変更が必要になるでしょう。ただし、支柱固定式ならロープが8本あり下部の隙間が小さいため、より高い安全性が確保されています。

②厳重な安全対策によるコスト増

昇降式ホーム柵は動作が特殊なため、旅客に危害を加えることがないように一般的なホームドアよりも厳重な安全対策が求められました。このことがホーム柵本体の製造コストを増加させる要因となったそうです。

具体的には、支柱の下降時に指を引き込んだりロープと筐体のあいだに腕を挟まれるのを防ぐ「引き込み防止センサ」「圧力検知センサ」、旅客が昇降中のロープに接近したりロープと車両の間に取り残されたことを検知する「近接検知センサ」「居残り検知センサ」が多数必要になります。

初期型の筐体(六甲道駅3番のりば)
仕様が見直された筐体(大阪駅5番のりば)

この課題については2018年度以降に設置された筐体から改善が施されています。居残り検知は3Dセンサの検知性能向上で光電センサを削減できたことや、近接検知センサは一部を廃止しても影響が少ないとして割り切ることで大幅な製造コスト削減が実現し、検修費用も年間50万円程度削減できたそうです。

こうしてコスト面では改善されたものの、旅客が滞留しやすい階段付近やホーム幅員の狭い場所では、近接検知センサが過剰に反応してしまい昇降動作が頻繁に一旦停止することなど、厳重な安全対策が別の課題を生んでしまっている部分もあります。

③セットバック量の大きさ

大阪駅8番のりばの昇降式ホーム柵
セットバック量が異様に大きいので視認性向上を目的としている可能性も

ロープはとても頑丈な素材ですが、当然ながら旅客がロープに倒れ込んだり故意にもたれ掛かったりすると撓みが発生します。そのため、ロープと列車が接触しないように一般的なホームドアよりもホーム内側に設置する必要があります。セットバック量が大きいとロープと車両の間に取り残されるリスクが増えることや、ホーム上の階段や柱などとの間隔が狭くなってしまう可能性もあります[2]ホーム上の幅員は基本1,200mm以上が必要とされている。

ただし、ホームの広さに十分な余裕がある駅では、あえてホームドアと車両との離隔を広くすることで乗務員からの見通しを確保することもあるため、セットバック量の大きさが一概に問題となるわけではありません。

④側面表示器が見えにくくなる

車両の側面に設けられている種別・行先表示器が、ホーム柵の支柱やロープによって見えにくくなってしまう問題もあります。今後さらに昇降式ホーム柵が普及していくとこの問題はどうしても避けられないため、駅電光掲示板や案内放送をさらに充実させることなどで情報を補う必要があるでしょう。

⑤車両連結部の転落防止にならない場合も

ホームドアは列車がいない時の転落防止だけでなく、車両連結部への転落事故を防止できる点でも大きな効果があります。しかし、そのホームに発着する全ての車種のドア位置を考慮するために、結果として車両連結部に筐体を配置できない場合もあります。

JR西日本ではかつて先頭車同士の車両連結部に旅客が転落して死亡する事故が発生し、それ以来は先頭車両への転落防止幌の装着をはじめ様々な対策が行われてきましたが、残念ながらこの問題に対する抜本的対策はまだまだ実現が難しそうです

ただし、近年は通常のホームドアでも二重引き戸を活用した大開口タイプが普及したことで同様の問題が発生しています。

⑥開口部が広すぎてドア位置が分かりにくい

昇降式ホーム柵の最大のメリットである広い開口部ですが、それは逆に開口部が広すぎて列車のドア位置が分かりにくいというデメリットにもなります。通常のホームドアは車両ドア1箇所に対して1開口となりますが、昇降式ホーム柵では1開口に対する車両ドアが複数になることが多く、結局はホームドア未設置駅と同じく床面の乗車位置案内などでドア位置を判断する必要があります。

かつて行われた実証試験では、視覚障害者が白杖や伝い歩きで位置を把握しようとすると近接検知センサが反応して警告音声が流れるため心理的な負担になってしまうという意見が出されました。こうした問題点を踏まえて、瞬間的にセンサを支障した程度では警告音声を流れないようにすることや、警告音声の内容を温和な表現に変えるといった改良が加えられました。

さらに、次列車のドア位置を表示するランプをホーム上部や床面に設けることや、視覚障害者に対しては指向性を持つスピーカーで乗車位置を案内するなどの改善策が挙げられています。

⑦車両がいない部分も開いてしまう場合がある

各開口部を個別に制御できる通常のホームドアとは異なり、昇降式ホーム柵はそれぞれの開口部を細かく区分して制御することができないため、車両側にドアがない部分も開いてしまったり、さらには車両自体がいない部分まで余分に開いてしまう場合もあります[3]昇降式ホーム柵はメインポストとサブポストという2タイプの組み合わせで構成されており、メインポスト同士の間が1つの制御単位となる。

この事象が発生する理由は⑤と同じく、全車種のドア位置を考慮した結果によるものです。その箇所も含めて開けないと一部のドアで乗降ができなくなってしまうためやむを得ないこと、そして万が一この場所から旅客が転落しても列車は停車中なので直ちに触車事故には至らないとはいえ、ホームからの転落防止という役割が果たせていないことは重大な問題点だと感じます。

JR明石駅3番のりばに特急「スーパーはくと」が停車中の様子
車掌がホームに乗降できるように1ユニット分が余分に開く

改善するには制御単位をより細かく区切るしかありませんが、全車種のドア位置と重ならないことを第一に、駅構造などの様々な制約も考慮した上で最適な筐体配置が決定されているわけですから、それでもどうしても余分に開く事象が発生するのは仕方ないのでしょう。だとしても、鉄道事業者側はこの問題をどう考えているのかは気になるところです。

4 おわりに

昇降式ホーム柵が抱えるデメリットを7項目紹介しましたが、特に後半の3項目について抜本的に解決する方法はできる限り車種の規格を統一すること、すなわち様々な車種に対応できるという一番のメリットを否定することになってしまうため、本当に難しい問題であることがうかがえます。それでも、ホームドア最大の目的である不慮の転落を防止するという観点では十分な効果があることは間違いありません。

JR西日本は世界初の開口を自在に構成できるフルスクリーン式ホームドアを2023年春開業のうめきた(大阪)地下駅に導入予定ですが、このような大がかりな構造のホームドアは既存駅への設置が難しいため、引き続き昇降式ホーム柵も導入されていく予定です。また、現在の昇降式ホーム柵をさらに低コスト化した新タイプの開発にも取り組んでいるようです。

2020年3月からはJR東日本の成田空港駅にもJR西日本と同型の昇降式ホーム柵が導入されており、ここでの稼働状況が良好であれば、JR東日本の首都圏各駅への普及も期待されます。さらに、近畿日本鉄道は昇降式の発展形として柵がホームの下へ沈むように格納される新型ホームドアの研究を進めているなど、今後も “様々な車種にも対応できる新型ホームドア” は進化を続けていくことでしょう。

出典・参考文献

脚注

References
1 高槻駅など初期に設置された機体ではステンレスワイヤーを使用。
2 ホーム上の幅員は基本1,200mm以上が必要とされている。
3 昇降式ホーム柵はメインポストとサブポストという2タイプの組み合わせで構成されており、メインポスト同士の間が1つの制御単位となる。

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