神戸市営地下鉄 西神・山手線のホームドア:三宮駅のQRコード式ホームドア制御システム(2022年運用終了)
2020年3月14日、神戸市営地下鉄西神・山手線三宮駅のホームドアでQRコードを用いたホームドア制御システムの運用が開始されました。このシステムが導入されるのは都営地下鉄浅草線・京浜急行電鉄に続き全国で3例目、関西の鉄道事業者では初めてでした。
しかし2年後の2022年3月に別の制御システムへと改修されたことで、同駅におけるQRコード式システムの運用は終了しています。
目次
1 QRコード式制御システム導入の経緯
神戸市交通局で初の可動式ホーム柵(以下:ホームドア)が三宮駅に導入されたのは2018年3月のことです。車両には車両ドアとホームドアを連携して開閉するための装置が搭載されていないため、車掌がそれぞれの開閉操作を手動で行っていました。しかし、この開閉方式では車掌の業務負担が大きく停車時間の増加にも繋がるため、今後ホームドア設置駅を拡大するにあたって問題になる可能性がありました。
その解決策として、東京都交通局とデンソーウェーブによって共同開発されたQRコードを用いた制御システムの導入が決定されました。このシステムは、車両ドアのガラス部分に貼付されたQRコードの「動き」と「内容」を地上側のカメラが読み取ることで、簡単・低コストに編成両数・ドア数の判別や開閉連動を行えます。
2019年8月に入札公告が行われた「西神・山手線 新長田駅・名谷駅・西神中央駅 可動式ホーム柵の設計・施工・監理事業」に関する資料でこのことが明らかになりました。さらに既存の三宮駅ホームドアにも本システムを導入する改修が行われ、2020年3月16日にデンソーウェーブより正式に三宮駅でのQRコード式制御システム運用開始が発表されました。これにより開閉は全自動化され、車掌の業務負荷軽減が実現しています。
2 三宮駅におけるシステムの仕組み
2.1 概要
システムを構成する上で重要になっているのは、QRコードが左右の車両ドアに貼られている点です。左右2枚のQRコードは、列車自体が移動している時は同じ方向に移動し、ドアが開閉している時は別々の方向に移動します。このようなQRコードの横方向の動きをカメラが読み取ることで、列車が定位置範囲内に停止したか、ドアを開扉したかなどの状態を検知することができます。
2.2 最大のメリットは活かされていない?
本システム最大のメリットと言えるのが、QRコードに格納した車種情報を元に、編成両数やドア数に対応する箇所のみのホームドアを制御できることです。しかし、西神・山手線を走行する車両は6両編成3ドア車で統一されているため、実は最大のメリットが活かされていないのです。それでも低コスト・短期間で整備できることや車両側の改修がQRラベルを貼るだけで済むことなどが採用の理由なのだと思われます。
2.3 QRコードの貼り付け位置
システム導入を前に、西神・山手線を走行するすべての車両にQRコードの貼り付けが行われました。QRコードの貼り付け位置は2・3・5号車それぞれの2番ドアで、ホームの当該ドア上部にはQRコード読み取りカメラユニットが設置されています。この3箇所のうち2箇所以上で正しく検知できれば制御を実行するのだと思われます。
三宮駅は二層式[1]地下2階が新神戸・谷上方面、地下3階が西神中央方面。で上下ともホームの方向が同一のため、QRコーも山側のドアのみに貼付されました。なお、どの号車もQRコードのセルが同じように見えたので、つまり格納されている内容も同じなのかもしれません。これではQRコードを読み取ってもそれが何号車なのか判別できないはずですが、QRコードとカメラの数および位置が完全に一致している以上は、3箇所中2箇所以上でQRコードを検知できるのは列車が定位置に停止している時以外あり得ないと判断できるので問題は無いのでしょう。
2.4 定位置停止検知センサは省略されている
本システムはQRコードの移動方向のみで列車の到着→ドア開閉→出発を検知できますが、万が一の誤検知などで意図せぬホームドアの開扉が起きないように、同じシステムを使用する都営地下鉄浅草線や京浜急行電鉄では列車の定位置停止を検知するセンサを併用しています。一方、三宮駅はホーム上を見渡してみても定位置停止検知センサが設置されていなかったため、完全にQRコードの動きだけで列車の動きを検知していると思われます。
3 特徴は “かなり遅れて開く”
西神・山手線におけるシステムの大きな特徴は、ホームドアが車両ドアよりかなり遅れて開き始める点です。京急線のQRコード式ホームドアも遅れて開く点は同じですが、西神・山手線では左右のQRコードが戸袋に隠れることで初めて車両ドア開扉と判断しているらしく、これによりホームドアが開き始めるまでにかなりのタイムラグが発生しているのです。
このような方式となった理由として考えられるのは、定位置停止検知センサを省略していることです。QRコードの動きだけで列車の動きを検知しているため、QRコードが戸袋に隠れるという状態を車両ドア開扉の判断条件とすることで確実性を上げているのではないかと推測しています。
それにしてもこのタイムラグは車両ドアが開いて降りようとした客が一旦立ち止まってしまうほどで、明らかにスムーズな乗降を妨げてしまっていると感じました。そしてこの問題点により、本システムは短命に終わってしまうこととなります。
4 わずか2年で別方式へ改修され運用終了
2019年にデビューした新型車両6000形は、トランスポンダを用いた送受信で車両ドアとホームドアを連携して開閉するための装置が当初から搭載されています。つまり、すべての既存車両を6000形に置き換えるまでのつなぎとしてQRコード式システムは導入されたのだと思われます。
しかし前述の通り、三宮駅における仕様はホームドアが開き始めるまでのタイムラグが大きく乗降時間の増大にも繋がっていたそうです。こうした事情から、2021年度から始まった他駅での本格導入にあたっては方針を転換し、より応答性能に優れている「地上完結型連携システム」が採用されました。
そして三宮駅も2022年3月に同じ方式へと改修されたことで、QRコード式はわずか2年で運用を終了してしまいました。より詳しい経緯や地上完結型システムの概要は別記事で紹介しています。
5 おわりに
当初からトランスポンダ連携化までのつなぎだったためか、定位置停止検知センサの省略をはじめかなりの簡素化を図っていた三宮駅のQRコード式システム。このような短期間のみの使用を前提としたシステムというのも、ホームドアの設置が急がれるこの時代ならではと言えるでしょう。
出典・参考文献
- 関西初!デンソーウェーブが開発した 新型QRコードを用いたホームドア開閉制御システムが神戸市営地下鉄で運用開始|デンソーウェーブ
- 鉄道用車両扉状態検出システム 新型QRコード®を利用したホームドア開閉システム|デンソーウェーブ
- 神戸市:西神・山手線 新長田駅等3駅ホーム柵設置事業(リンク切れ)
- 岡本 誠司、久保 実、小林 稔、岡本 知也「ホームドア開閉制御技術の考案 ーQRコードを用いた車両ドアとの開閉連動ー」『Cybernetics : quarterly report』Vol.22-No.4、日本鉄道技術協会、2017年、p10-15
脚注
↑1 | 地下2階が新神戸・谷上方面、地下3階が西神中央方面。 |
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