JR東日本のホームドア:スマートホームドア 1次タイプ(2019年度~)

タイプ 腰高式
メーカー JR東日本メカトロニクス
開閉方式 路線によって異なる
停止位置許容範囲(基本) ±350mm(TASCあり)
開口部幅(基本) 2,000mm
非常脱出ドア 開き戸式(各号車2-3番ドア間)
支障物検知センサ 3Dセンサ

ホームドアの導入が進まない要因の一つは重量です。特に盛土構造の古いホームなどでは大規模な補強工事が必要になり、それだけで膨大な期間・費用が必要になります。JR東日本はこの課題を解決するため、従来のホームドアよりも軽量・低コストで工期短縮を可能とした新型ホームドア「スマートホームドア」を開発し、2016年12月から約3年間にわたり横浜線町田駅4番線で試行運用を行いました。

そこで得られた知見をもとに機能向上を図った改良バージョンが量産タイプとして実用化され、2020年2月29日に稼働開始された京浜東北線蕨駅を皮切りに、従来型ホームドアと並行しながら首都圏のさまざまな路線で順次導入されています。2024年1月時点で本タイプが設置されているのは以下の線区です。

  • 京浜東北線
  • 中央・総武線各駅停車
  • 横浜線
  • 南武線
  • 常磐線各駅停車

当記事では各路線で共通するホームドアの基本仕様について紹介します。なお、2023年度以降に新設された一部駅では更なる改良が加えられたため、当記事で紹介するタイプは便宜上「1次タイプ」と呼称しています。

1 ホームドアの仕様

1.1 基本仕様

JR東日本のグループ会社であるJR東日本メカトロニクスが中心となって開発した「スマートホームドア」は、従来型ホームドアと同等の安全性を確保しながら、ドア部分をフレーム構造とするなどの大幅な簡素化・軽量化を図ったことで、1開口あたりの重量は約350kgから約200kgに削減、さらに風が通り抜けやすいため受風面積(風荷重)は約55%削減されました。これらの効果によりホーム補強工事の省力化にも貢献し、全体の工期も最大40%短縮されているそうです。

量産タイプでは、町田駅での試行導入において運用中に加えられた扉部分の改良点(上部バーを黄色に塗装・下部バーの追加による下部隙間の縮小)を当初から反映し、部品点数の削減をはじめ筐体構造をさらに見直したことで、見た目はさらにスマートになった印象を受けます。

試行導入タイプは開口幅を2,800mmとしていましたが、現時点で本格導入されている路線はいずれもTASC(定位置停止装置)により高い停止精度が確保されているため、基本開口幅は車両ドア幅1,300mmにTASC停止精度±350mmを加えた2,000mmです[1]常磐線各駅停車のみ停止精度が±450mmなため開口幅は200mm広い2,200mm。

形式従来型ホームドアスマートホームドア
試行導入タイプ(当初)
スマートホームドア
量産1次タイプ
筐体高さ1,300mm1,200mm1,200mm
扉高さ1,200mm1,100mm1,100mm
下部隙間150mm500mm370mm

上表は従来型ホームドア・スマートホームドア試行導入タイプ(当初)・スマートホームドア量産1次タイプの高さ方向の寸法を比較しています。前述の通り、試行導入タイプの運用中に下部隙間を縮小するための改良が加えられましたが、それでも従来型ホームドアよりは倍以上の隙間が空いており、高さが100mm低いのは量産タイプでもそのままです。

フレーム構造の扉と駆動装置などを収める戸袋筐体
筐体・扉の断面形状
基本構造の場合、扉は一直線上に収納される
ホーム側から見た筐体
線路側から見た筐体

特徴的なのが筐体中央部の「中間戸袋」と呼ばれる部分です。スマートホームドアは扉の駆動装置などを収めた左右の「戸袋筐体」と「中間戸袋」が分割した構造となっており、そのつなぎ目部分には多少の隙間(遊び)が設けられています。これによって、ホーム床面の伸縮継目を跨いでホームドアを設置している箇所でも、温度による床面伸縮をこの部分が吸収するため、季節による調整が不要となりました。

筐体は車両ドア間・車両連結部ともにほぼ同じ構造で、中間戸袋の長さを変えることで車両ドアピッチと合わせています。各開口の線路側には従来型ホームドアと同じく3D式の支障物検知センサと非常開ボタンが設置されており、3Dセンサの上方には侵入防止柵としてゴム製の突起があります。

非常脱出ドアが設けられた筐体
レバーの位置を示す三角印

また、各号車2-3番ドア間の中間戸袋は非常脱出ドアとして開閉できるようになっており、線路側には赤いレバーが取り付けられています。従来型ホームドアの非常脱出ドアよりも一見して脱出口だと分かりにくくなった点は、パニックが起きた場合を考えると少々気になるところです。

駅係員操作盤が内蔵された車両連結部の筐体

各ホームにつき1か所程度の車両連結部には、中間戸袋の開口部分を活用して駅係員用操作盤が組み込まれています。この構造はホーム最前部・最後部の乗務員用操作盤も同様です。なお、現時点での導入路線におけるホームドア制御システムはいずれもトランスポンダ等により車両ドア開閉操作と連携するシステムなので、操作盤は基本的に使用されません。

1.2 先頭車の特殊ドアピッチ部分

先頭車特殊ドアピッチ部分の筐体と扉
扉を互い違いに収納しているのが分かる

通常部分は左右の扉を一直線上に収納しますが[2]常磐線各駅停車の仕様を除く。、近年のJR東日本が製造する一般型電車は先頭車の前から1番目~2番目ドアの間隔が狭いため、通常の扉長さ(1,000mm)では戸袋に収まりません。そこで、当該部分は扉長さを左右非対称のストローク(1,200mmと800mm)としたうえで、互い違いに収納することで戸袋スペースを確保しています。

なお、次項で紹介する通り、スマートホームドアは様々な開口幅をラインアップできる設計になっているため、扉を互い違いに収納する部分も筐体構造はほぼ変わっていません。

2 路線ごとの仕様の違い

1.1 開口幅

中央・総武線各駅停車のスマートホームドア
1号車1番ドア・10号車4番ドアは車種によるドア位置の違いを想定した大開口

前述の通り基本開口幅は2,000mmですが、2,000mm~2,800mmまでの開口幅をラインアップすることで、車種によるドア位置の違い・TASCの有無など、線区ごとの求められる様々な条件に対応しています。例外として、先頭車(ホームの最前部・最後部)に限っては2,900mmを確保することも可能です。

また、JR東日本メカトロニクスのWebサイトには “18m車両3扉車用に3,300mm幅の乗降口にも対応” という記述もあることから、JR東日本とは車両規格が異なる私鉄への導入も視野に入れているようです。

各路線ごとの仕様についてはこちらのページから路線ごとのTOPページをご覧ください。

1.2 デザイン

南武線のスマートホームドア
ラインカラーが施されていない

原則として中間戸袋の上部バーに路線ごとのラインカラーが装飾されていますが、バーが細いため従来型ホームドアと比べるとあまり目立ちません。また、現時点では中央・総武線各駅停車および南武線に限ってラインカラーが省略されています。これは両路線のラインカラーが黄色であり、同じく黄色に塗装された扉上部バーと見分けが付けにくいためだと思われます。

3 おわりに

JR東日本は2031年度末ごろまでを目標に東京圏の主要路線330駅758ホームにホームドアを整備する計画です。スマートホームドアは2020年からの約4年間で30駅以上に導入され、期待通りホームドアの早期整備に貢献していると言えます。

しかしその一方で、従来型ホームドアより高さが低い、足を掛けやすい、下部隙間が広い等の理由から「簡単によじ登れる」「小さな子供なら潜り抜けられる」といったスマートホームドアならではの懸念も指摘されています。こうした課題を改善するため、上面高さを上げる、扉下部のバーを2本に増やすなど防護性を高めた改良タイプが2023年度から登場しており、今後はそちらが標準になっていくものと思われます。

出典・参考文献

脚注

References
1 常磐線各駅停車のみ停止精度が±450mmなため開口幅は200mm広い2,200mm。
2 常磐線各駅停車の仕様を除く。

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