JR東日本のホームドア:スマートホームドア 防護性を高めた2次タイプ(2023年度~)

JR東日本は、従来のホームドアよりも軽量で工期短縮を可能とした「スマートホームドア」を2019年度から本格的に導入しています。導入開始からの約3年間は大きな設計変更なく設置駅を拡大していましたが、2023年6月30日に稼働開始された南武線武蔵中原駅1・4番線を皮切りに、筐体・扉の高さを上げる、扉下部のバーを2本に増やすなど防護性を高めた改良タイプが採用されました。

本タイプはその後、京浜東北線大宮駅、横浜線十日市場駅、中央・総武線東中野駅などでも採用されており、今後はこちらが標準になっていくものと思われます。なお、当記事では便宜上、従来タイプを「1次タイプ」、改良タイプを「2次タイプ」と呼称しています。

1 1次タイプの課題点

スマートホームドアは従来型ホームドアと同等の安全性を確保しながら、扉部分・筐体部分ともに隙間を大きく設けることで軽量化および風荷重の軽減を図っています。しかし、従来型ホームドアより高さが低い、足を掛けやすい、下部隙間が広い等の理由から「簡単によじ登れる」「小さな子供なら簡単に潜り抜けられる」といった懸念も指摘されていました。

このうち下部隙間の課題について、2019年12月に開催された「鉄道技術展」にてJR東日本メカトロニクスの担当者にお話を伺った際には「隙間を完全に無くすことは難しいが、もう少し小さくできないかは検討している」といった趣旨の回答を頂きました。つまりこの時点でさらなる改良に向けた動きはあったようですが、実現までには3年以上を要することになります。

2 2次タイプの仕様と改良点

2.1 筐体・扉

スライダーを左右に動かすと2つの画像を比較できます
左:2次タイプ
右:1次タイプ

本格導入開始から3年以上が経過した2023年6月以降、これまで指摘されていたリスクを減らすべく各所に仕様変更を行った2次タイプのスマートホームドアがついに登場しました。本体(筐体・扉)の仕様で大きく変わったのは以下の2点です。

(1)上面高さを引き上げ

1次タイプは筐体高さ1,200mm、扉高さ1,100mmと、従来型ホームドアより100mmずつ低かったのに対して、2次タイプは高さを従来型ホームドアと同等程度まで引き上げられています。また、1次タイプは「戸袋筐体(駆動装置などを収めた部分)」と「中間戸袋」の高さに差がありましたが、2次タイプではほぼ平滑化されています。

(2)扉下部バーを2本に増やし下面高さを引き下げ

1次タイプは扉の下部隙間が370mmと、従来型ホームドアの150mmと比べてかなり広かったのに対して、2次タイプは扉下部バーの位置を下げて下部隙間を縮小し、フレーム部分との間には細いバーが1本追加されました。さらに中間戸袋も下方向に面積が広げられています。

2本に増えた下部バー
ホーム側から見た2次タイプの筐体
参考:1次タイプの筐体

扉部分は下部バーが増えたことで1次タイプと簡単に見分けられますが、筐体部分のデザインは1次タイプを踏襲しているため、見た目だけだと高さの違いはほぼ分かりません。

線路側から見た筐体(非常脱出ドア付き)

各号車2-3番ドア間の中間戸袋は非常脱出ドアとして開閉できるのも1次タイプと同じですが、細かい違いとしてはレバーの形状が変更されています。

先頭車特殊ドアピッチ部分も大きくは変わらず

先頭車のドアピッチが狭い部分についても基本構造は1次タイプと同じく、扉長さを左右非対称のストロークとしたうえで、互い違いに収納することで戸袋スペースを確保しています。

2.2 支障物検知センサ

2次タイプの支障物検知センサ
ガラスが平面かつ斜め
参考:1次タイプの支障物検知センサ
ガラスが曲面

本体構造以外で確認できた変更点の一つが、各開口に設けられている3D式支障物検知センサの型式です。従来型ホームドアやスマートホームドア1次タイプで使われていたのは曲面ガラスでしたが、2次タイプでは平面ガラスに変更されていました。どちらも日本信号の3D距離画像センサ「アンフィニソレイユ」という製品ですが、従来の曲面ガラスタイプは「FX8」、平面ガラスタイプは最新型の「FX10s」だと思われます。

2.3 搬送用治具の省略

2次タイプは搬送・設置工事の工程にも変更点があるようです。前述の通りスマートホームドアは「戸袋筐体」と「中間戸袋」が分割した構造なので、1次タイプの設置工事では左右の戸袋筐体どうしを連結する「搬送用連結治具」を取り付けることで搬送しやすくしていました[1]治具を取り付けたままホームに据え付け、設置から数日後に撤去する工程だった。。それに対して2次タイプの設置工事では治具が取り付けられていなかったことから、本体に何らかの改良を加えたことで治具を不要としたのだと推測されます。

3 おわりに

製造時期の都合か、2次タイプ登場後に1次タイプが設置された駅もありましたが、2024年1月以降の設置駅はいずれも2次タイプだったので、本格的に移行したと見てよさそうです。2次タイプの詳細はまだ明らかになっていませんが、1次タイプと同等の軽量化・低コスト化・基礎工事の省力化を維持しながら防護性をどれだけ高められるかが開発の難しさだったのではないかと想像できます。

さらにJR東日本メカトロニクスは、この2次タイプをベースに扉を二重引き戸とした  “大開口タイプのスマートホームドア” を特許出願しています。実用化されれば一気に汎用性が高まり、今までのタイプでは対応できなかった車両ドア位置の違いが大きい路線にも普及するでしょう。

出典・参考文献

脚注

References
1 治具を取り付けたままホームに据え付け、設置から数日後に撤去する工程だった。

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