京急電鉄のホームドア:QRコードを用いた制御システム

QRコードを用いたホームドア制御システムは東京都交通局とデンソーウェーブが共同開発したシステムです。都営地下鉄浅草線は4社(京浜急行電鉄・京成電鉄・北総鉄道・芝山鉄道)と相互直通運転を行っており、臨時列車などで編成両数やドア数が異なる車両も乗り入れることがあるため、それらを判別してホームドアを制御するための方法として考案されました。

これを浅草線よりも先に導入し始めたのが京浜急行電鉄でした。2018年10月頃より羽田空港国際線ターミナル駅(現:羽田空港第3ターミナル駅)のホームドアにQRコード式制御システムを適用し、それまでは車掌が手動で操作していたホームドア開閉が全自動化されました。京急線は日常的に編成両数やドア数の異なる車両が入り乱れているため、浅草線以上にこのシステムのメリットが存分に発揮されています

1 QRコード式制御システムの仕組み

1.1 概要

このシステムの基本は、光の反射などに影響されにくい新型QRコード「tQR」を車両ドアのガラス部分に貼り付け、それをホーム側のカメラが読み取ることでホームドア開閉を制御するものです。

(1)定位置停止検知・ドア開閉検知

ホーム側のカメラが車両ドアのQRコードを読み取ってホームドア開閉を制御する

左右の車両ドアに貼付されている2枚のQRコードは、列車自体が移動している時は同じ方向に移動し、ドアが開閉している時は別々の方向に移動します。このようなQRコードの横方向の動きをカメラが読み取ることで、列車が定位置範囲内に停止したこと、ドアを開閉したことなどを検知し、その判定結果をもとにホームドアを自動開閉することができます。

列車の乗務員は車両ドアの開閉操作だけに専念できるため、ヒューマンエラーの防止や余計な停車時間の増加を抑えることも可能になりました。

(2)車種判別

京急蒲田駅6番線に停車中の2100形
ホームドアは12両分のうち8両分だけを開け、なおかつ2ドア車のため各号車中央のドアは開かない

QRコードに格納されている車種情報を読み取ることで、単純な編成両数やドア数の違いだけでなく、例えば2100形(2ドア車)と他形式(3ドア車)が連結している場合でも、各号車ごとに車両ドアがある箇所だけのホームドアを制御することができます。このような柔軟な制御を可能にした点こそ、京急がQRコード式制御システムを採用した一番の要因だと思われます。

1.2 QRコードの貼り付け位置

このシステムを導入している都営浅草線および京急の所有車両に加え、直通運転で乗り入れてくる京成電鉄・北総鉄道にもQRコードが貼付されています。ただし京成車のうち直通運転に使われない6・4両編成などの車両は対象外となりました。QRコードは全てのドアにある訳ではなく、貼付箇所は編成両数ごとに決まった号車の3番ドア(成田空港方)です。

1.3 QRコード読み取りカメラ

3基1組のカメラユニット

車両ドアのQRコードを読み取るカメラは3基で1ユニットとなっています。前述の通り、QRコードは1編成あたり何両かの号車に貼付されており、読み取りカメラも複数個所でそれを検知して多数決で判定を行うため、一定以上の冗長性が確保されています。

1.4 定位置停止検知センサ

標準的に採用されている北陽電機の2Dセンサ
車両連結部の位置を測定する
一部駅では日本信号製の3Dセンサを採用

前述の通り、QRコードの移動方向のみで列車の到着→ドア開閉→出発を全て検知することは出来るそうですが、万が一の誤検知などで意図せぬホームドアの開扉が起きないように、列車が確実に停止していることを検知するセンサを併用しています。設置個所は原則として1ホームにつき1か所の車両連結部正面で、連結部の位置により定位置停止を検知します。

2 浅草線と京急で異なる開閉動作

同じシステムを採用した浅草線と京急でも、ホームドアが開くタイミングが以下のように異なっています。

  • 浅草線:ホームドアが車両ドアより先に開く
  • 京急:ホームドアが車両ドアより遅れて開く

すなわち、浅草線の仕様は列車の定位置停止と車種情報が認識できた時点でホームドアを開けるのに対し、京急の仕様はQRコードの動きで車両ドアが開き始めたことを検知してからホームドアを開けるという大きな違いがあります。なお、東京都交通局が管轄する泉岳寺駅については全ホームが浅草線の仕様となっています。

ホームドアは旅客のスムーズな乗降のために車両ドアより先に開くのが通例で、他方式の制御システムでも列車の定位置停止を検知すればすぐに自動開扉するのが一般的です。なぜ京急は車両ドア開扉を検知してからホームドアを開扉する仕様なのか、これについては別記事で考察しています。

3 ホームドア表示灯・停止範囲表示灯

3.1 当初の表示方法

2020年当時の表示内容の推移
ホームドア閉扉で再び①へと戻る

ホームドアの開閉状態を示す「ホームドア表示灯」と列車が定位置範囲内に停止しているかを示す 「停止範囲表示灯」が一体になった表示器が、運転士用と車掌用それぞれに設けられています。表示内容は羽田空港第3ターミナル駅に本システム導入前(車掌手動操作の頃)から設置されているものと同じでしたが、下記の通り現在は表示内容が改められています。

3.2 表示方法の変更

2021年現在の表示内容の推移
列車非在線時は消灯するようになった

2021年2月頃よりホームドア表示灯の表示方法が変更されています。従来は閉状態が緑色の「」、開状態が赤色の「」という表示でしたが、変更後は閉状態が緑色の「」、開状態が赤色の「×」となりました。従来の表示は信号機の現示と似ていることから、誤認を防ぐための変更ではないかと推測されています。

4 C-ATSとの連動

ホームドアが開扉している間は、運転保安装置C-ATSが「NC」信号を出力することで車両の力行回路がカットされ、列車が出発できないようにしています。なお、浅草線内における「A0」信号と名称こそ異なりますが基本的には同じもので、本来「A0」および「NC」信号は停止信号手前で停止した際に出される信号です。

5 おわりに

冒頭で述べた通り、元々このシステムは都営浅草線に導入することを目的に開発されたものですが、まるで初めから京急でも導入するつもりだったのかと思うほど京急ならではの環境に馴染んでいます。そして、京急線内のホームドア整備が進むようになった立役者とも言えるでしょう。

出典・参考文献

脚注

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