京急電鉄のホームドア:金沢文庫駅の仕様

タイプ 腰高式(一部は二重引き戸タイプ)
メーカー ナブテスコ
開閉方式 自動(QRコード式連動)
停止位置許容範囲 不明(TASCなし)
開口部幅 一般部 【推定】3,200mm
拡幅開口部
二重引き戸部
【推定】3,400mm
下りホーム浦賀方 【推定】3,600mm
非常脱出ドア 開き戸式(各号車連結部)
支障物検知センサ 3Dセンサ

京急電鉄の金沢文庫駅では、2023年10月7日に上りホーム3・4番線で、2024年3月23日に下りホーム1・2番線でホームドアの稼働が開始されました。12両編成の発着に対応している駅としては6駅目のホームドア設置で、京急川崎駅に続いて連結・切り離し作業にも対応しています。

最大の特徴として下りホームの浦賀方半分はすべての号車が二重引き戸タイプとなっており、これは同駅にて行われている夜間停泊時の縦列停車と関係があるようです。

1 ホームドアの仕様

1.1 上りホーム3・4番線

上りホームは概ね従来通りの仕様
一部に拡幅開口や二重引き戸タイプが設けられている

上りホームの仕様は上大岡駅などと同じく、ホーム側から見て左から5~12両目は一部の開口幅が広く、また左から9両目は二重引き戸タイプが採用されています。これは先頭車が長い2100形と他形式が連結したときに生じるドア位置のずれを考慮したものだと思われます。

基本仕様および12両対応ホームの特殊仕様についてはそれぞれ別記事をご覧ください。

1.2 下りホーム1・2番線

下りホームも品川方6両分はこ上りホームと同じ配置法則ですが、浦賀方6両分はすべての号車に二重引き戸タイプが採用されました。しかも開口幅は従来の二重引き戸タイプよりもさらに広げられたようで、従来が推定3,400mmだったのに対してここは指定3,600mmほどあります。

下りホームで行われている縦列停車

ホームの半分だけが二重引き戸タイプとなっている理由として有力なのが、終電~初電までの間ホームで車両を留置する夜間停泊において、6両編成2本を縦並びで停車させるいわゆる「縦列停車」を行っていることです。

2本の列車は連結しないギリギリの近さまで距離を詰めていますが、必然的にどちらか一方の編成はホームドア中心から少しずれた状態になります。そして翌朝はそのままの停止位置から下り始発列車として出発するため、ホームドアとのずれが大きくてもドアを開けられるように、ホームの半分を二重引き戸式大開口ホームドアとしたのだと思われます。

浦賀方の半分はすべて二重引き戸タイプ
二重引き戸タイプ部分の非常脱出ドア
幅は500mm程度しかない
ホーム側から見た車両ドア間の筐体
ホーム側から見た車両連結部の筐体
線路側から見た車両ドア間の筐体
線路側から見た車両連結部の筐体

開口幅が広がった分だけ筐体の線路方向サイズは小さくなっていますが、それでも基本構造は従来の二重引き戸タイプと特に変わっていません。従来と同じく車両連結部の非常脱出ドアも設けられていますが、左右の筐体間のわずかなスペースを利用しているため、従来より幅が狭くなっています。

2 縦列停車への対応

上りホーム3番線で行われている縦列停車

前述の通り、下りホームでは浦賀方半分を二重引き戸式大開口ホームドアとすることで、縦列停車によって停止位置が少しずれた状態でもドアを開けられるようにしています。一方、同駅では上りホーム3番線でも6両編成2本が縦列停車で停泊を行っていますが、大開口ホームドアを必要とはしていません。その理由を含めた縦列停車の詳しい取り扱いは今後別記事にまとめる予定です。

また上下ホームの共通事項として、各編成両数の所定停止位置と同じように、6-7号車連結部も乗務員出入りスペース確保のため筐体をホーム内側にセットバックし、乗務員操作盤や表示灯を設けることで縦列停車に対応しています[1]6-7号車連結部は2両編成(事業用車両)の後部側なので、それに対応する意味合いもあると思われる。

3 ホームドアの開閉方式

3.1 開閉方式の概要

京急電鉄のホームドア開閉方式は、車両側の改修を必要とせずに編成両数・ドア数の判別およびホームドア開閉を自動化できるQRコードを用いたホームドア制御システムが採用されています。

システムの概要は別記事で紹介しています。

当記事4項の図を見ると分かるように、同駅では4番線を除いて定位置停止検知センサが2か所に設けられています。同じ仕様は連結・切り離し作業に対応している京急川崎駅5・6番線で前例があるものの、金沢文庫駅の場合は連結作業が行われる4番線に1か所しか設置されていないことから、連結・切り離しではなく縦列停車に対応するための仕様だと予想しています。

3.2 連結・切り離し作業時の取り扱い

同駅~品川駅間は最大12両編成の運転に対応しているため、同駅では朝夕ラッシュ時を中心として連結・切り離し作業が頻繁に行われます。京急線内のホームドア設置駅で切り離し作業が行われるのは京急川崎駅で前例があるものの[2]2022年2月改正以降は設定なし。、連結作業も行う駅へのホームドア設置は金沢文庫駅が初めてでした。

以前の京急川崎駅と同じく、連結・切り離しの際もQRコード式システムによって車両ドアと連動したホームドア開閉制御が行われます。ただし京急川崎駅とは切り離し作業時の取り扱いに一部異なる点がありました。詳しくは今後別記事にまとめる予定です。

3.3 「モーニング・ウィング」発着時の取り扱い

平日朝に運行されている座席指定列車「モーニング・ウィング号」は、各停車駅ごとに定められた一部のドアのみを開閉します。そのため上大岡駅と同じく、ホームドア開閉は駅係員が各開口部の個別操作スイッチで行います。なお、モーニング・ウィング3号は同駅で連結を行う運用ですが、ホームドアの取り扱いには特に関係していないと思われます[3]金沢文庫駅でドア扱いを行うのは同駅始発の前8両のみで、後ろに連結される三浦海岸駅始発の4両はドアを開けないため。

詳しくは上大岡駅における取り扱いの記事をご覧ください。

4 ホームドアタイプと各種機器の配置

上りホーム3・4番線
下りホーム1・2番線

拡幅開口・二重引き戸タイプの配置、および各編成両数の停止位置とQRコード読み取りカメラ・定位置停止検知センサの位置関係を表した図です。これまでと同じ「ホーム側から見て左から9両目は二重引き戸タイプ」という法則に基づき、2番線は浦賀方6両分とは別に1両分が二重引き戸となっていますが、一方の1番線は「左から9両目」が浦賀方6両分の二重引き戸エリアに飲み込まれています。

5 おわりに

金沢文庫駅は列車運行拠点の一つとして重要な役割を担っています。この駅へ設置されたホームドアもまた、連結・切り離し作業や縦列停車にも対応できる、まさに京急の複雑な運行形態を象徴するような仕様となりました。特に、縦列停車を行う目的で大開口ホームドアを導入した事例は前代未聞ではないでしょうか。

出典・参考文献

脚注

References
1 6-7号車連結部は2両編成(事業用車両)の後部側なので、それに対応する意味合いもあると思われる。
2 2022年2月改正以降は設定なし。
3 金沢文庫駅でドア扱いを行うのは同駅始発の前8両のみで、後ろに連結される三浦海岸駅始発の4両はドアを開けないため。

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