京急電鉄のホームドア:12両対応ホームの拡幅開口と二重引き戸タイプ
タイプ | 腰高式(一部は二重引き戸タイプ) | |
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メーカー | ナブテスコ | |
開閉方式 | 自動(QRコード式連動) | |
停止位置許容範囲 | 不明(TASCなし) | |
開口部幅 | 【推定】3,400mm | |
非常脱出ドア | 開き戸式(各号車連結部) | |
支障物検知センサ | 3Dセンサ |
京急電鉄のホームドア設置駅のうち12両編成が発着する駅では、同じホームでも場所によって開口幅が僅かに広かったり、二重引き戸タイプが採用されている号車もあるのが特徴です。当記事では拡幅開口および二重引き戸タイプの仕様と、それらがどのような法則で配置されているのかを紹介します。
目次
1 12両ホームのみ仕様が異なる理由は?
2019年8月、京急の12両対応ホームで初めてホームドアが稼働開始された京急蒲田駅3・6番線では、ホームドアの基本仕様こそ従来通りながら一部の開口幅が僅かに広くなりました。さらにその後、別の駅では一部号車に限って二重引き戸タイプが採用されるなど、既存の12両非対応(8両編成以下)ホームとは異なる仕様が複数存在しています。
当記事で紹介する部分を除く基本仕様については別記事をご覧ください。
ではなぜ12両対応ホームだけこのような仕様になったのか、正確な理由は今のところ明らかになっていませんが、影響を与えたと考えられる要因は「2100形の先頭車長さ」と「車種によるドア位置のずれ」です。
まず、京急のホームドアは基本開口幅でもかなり広めの推定3,200mmを確保しています。これはTASC(定位置停止装置)が導入されていないため停止許容範囲を広げる必要があることと、直通運転でさまざまな車種が乗り入れておりドア位置も多少異なるためです[1]例えば、同じ京急車の1500形と600形でも箇所によって最大40cm近くずれる。。
それに加えて、1両あたりの車両長さは18mを基本としていますが、京急2100形は先頭車のみ170mmだけ長くなっています。つまり、2100形と他形式が連結して12両編成を組成するとドア位置のずれ量がさらに大きくなってしまうことから、12両対応ホームではずれが特に大きくなる箇所に限り拡幅開口や二重引き戸タイプを採用したのだと推測されます。
これまでの設置駅における配置パターンから推察すると、拡幅開口・二重引き戸タイプは「ホーム側から見て何両目か」によって配置が決まっていることが分かりました。詳しくは3項で解説します。
2 ホームドアの仕様
2.1 拡幅開口
拡幅開口はすべての12両対応ホームに設けられており、一部号車の1番ドアもしくは3番ドア、すなわち1両につき3か所ある開口部のうち左右どちらかが該当します。
開口幅は基本(推定3,200mm)より200mmほど広い推定3,400mmです。片側の扉(車両連結部に近い側)のみ僅かに広くなっていることが特徴で、広いほうの扉はガラスが二分割されてピラーが入っているため見分けは容易につきます。
開口幅が広くなった分は、車両連結部側の筐体サイズを小さくすることで全体の長さは相殺されています。そのためホームドアが開いた状態だと扉全体を筐体に収めることができず、戸尻側が隣接する非常脱出ドアの部分にまで突き出る形となるのも基本仕様との違いです。
2.2 二重引き戸タイプ
上記の拡幅開口に加えて、上大岡駅など一部の駅・ホームでは12両のうち特定の1両分のみが二重引き戸タイプとなっています。
メーカーは基本部分と同じくナブテスコ製なので、外観は東京メトロ東西線などで採用されている同メーカー製の大開口ホームドアと酷似しています。二重引き戸部分の開口幅は1両分(3か所)とも拡幅開口と同等の推定3,400mm程度に見えます。
車両ドア間の筐体は二重引き戸を互い違いに収納しなければならないため、基本仕様より分厚くなっています。一方で、車両連結部の筐体は互い違い構造ではないため基本仕様と同じ厚みです。点検パネルの配置や支障物検知センサなどは基本仕様と特に変わっていません。
3 ホームドアタイプの配置
3.1 拡幅開口だけがあるパターン
前述の通り、拡幅開口・二重引き戸タイプの配置パターンは「ホーム側から見て何両目か」によって決まっています。これを前提に、まずは京急蒲田駅3・6番線や横浜駅2番線などで見られる拡幅開口あり・二重引き戸タイプなしの配置パターンを解説します。
(1)左から1-4両目
1-4両目の範囲はすべての開口が基本仕様通りの開口幅で、拡幅開口は1か所も設けられていません。
(2)左から5-8両目
5両目以降は各号車右側のみが拡幅開口となります。これは、12両編成のうち5-12両目に2100形が連結されている場合、ここからドア位置が170mmずれるためだと思われます。なお、前述の通り車両連結部側の筐体サイズを小さくすることで拡幅分のずれは相殺されています。
(3)左から9両目
5-8両目とは異なり、9両目だけは左側が拡幅開口となっていて、拡幅分だけ9両目全体のホームドアが僅かに10両目側へずれているように見えました。これは、さまざまな車種同士の連結パターンを考慮すると9両目のみドア位置のずれ方が特殊になるためだと思われますが、詳しいことは分かりません。
(4)左から10-12両目
10両目からは再び5-8両目と同じく右側が拡幅開口のパターンに戻ります。なお、9両目で生じたずれは9-10両目間の車両連結部筐体で相殺されます。
上図は京急蒲田駅3・6番線における各編成両数の停止位置および号車ごとのホームドアタイプを表しています。この配置パターンを採用しているホームに共通するのは、9-12両目の範囲には12両編成しか停車しないことです。この条件が次に紹介する二重引き戸タイプもあるパターンと関係してきます。
3.2 二重引き戸タイプもあるパターン
次に、上大岡駅や京急川崎駅6番線などで見られる拡幅開口・二重引き戸タイプともにありの配置パターンを解説します。なお、横浜駅1番線および金沢文庫駅1・2番線は例外的な配置なので除外します(3.3項を参照)。
(1)左から1-4両目
拡幅開口だけがあるパターンと同じく、1-4両目の範囲はすべての開口が基本仕様通りの開口幅です。
(2)左から5-8両目
拡幅開口だけがあるパターンと同じく、5両目以降は各号車3番ドアのみが拡幅開口となります。
(3)左から9両目
拡幅開口だけがあるパターンとは違い、9両目だけは3か所の開口部すべてが二重引き戸タイプとなっています。理由の推測については後述します。
(4)左から10-12両目
拡幅開口だけがあるパターンと同じく、10両目からは再び3番ドアが拡幅開口の配置パターンに戻ります。
上図は上大岡駅3・4番線における各編成両数の停止位置および号車ごとのホームドアタイプを表しています。拡幅開口だけがあるパターンとの違いは、9両目部分に12両編成以外の停止位置も重なっていることです。これにより9両目においてはドア位置のずれがさらに複雑化するため、通常のホームドアでは構造的に対応しきれず、二重引き戸タイプの大開口ホームドアを採用したのだと推測しています。
3.3 例外的な配置
(1)横浜駅1番線12号車部分の仕様
京急で二重引き戸タイプが初めて登場したのは2019年9月に稼働開始された横浜駅下りホーム(1番線)でした。しかしこのホームにおいては前述のパターン「ホーム側から見て左から9両目」ではなく、最後部の12両目部分に設置されています。よって、このホームに二重引き戸が設けられた理由は車両ドア位置の問題ではない別の理由だったと考えています。
詳しくは別記事をご覧ください。
(2)金沢文庫駅下りホーム浦賀方の仕様
2023年度に整備された金沢文庫駅下りホーム(1・2番線)のホームドアは、品川方半分こそ上大岡駅などと同じ配置パターンですが、浦賀方6両はすべての開口部が二重引き戸タイプという新しい形態となりました。しかも開口幅は従来の二重引き戸タイプよりもさらに広くなっています。これは同駅にて行われている夜間停泊時の縦列停車と関係があるようです。
詳しくは別記事をご覧ください。
3 おわりに
以上のように、京急線の12両対応ホームのホームドアは通常開口と拡幅開口・それに二重引き戸タイプが入り混じった複雑な構造をしています。前述の通り、このような仕様となった正確な理由は分かっておらず、駅・ホームごとの違いも次々と増えている状況なので、初設置から約5年が経った今も未だにその全貌が掴めていません。しかし、それだけこのホームドアは不可思議だということだけでも当記事で知っていただけたら幸いです。
出典・参考文献
脚注
↑1 | 例えば、同じ京急車の1500形と600形でも箇所によって最大40cm近くずれる。 |
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