JR東日本 常磐線各駅停車のホームドア:スマートホームドアの仕様

JR東日本の常磐線各駅停車(常磐緩行線)では、2021年7月4日に馬橋駅で同線初のホームドアが稼働開始されました。以降、JR東日本が管轄する亀有駅~取手駅間の各駅で順次整備が進んでいます[1]東京メトロが管轄する綾瀬駅は2019年度に全ホームで整備済み。

同線は東京メトロ千代田線との直通運転を行っている関係でJR他路線とは車両規格などが異なり、その影響でホームドアも一部が独自仕様となっています。当記事では、最初に整備された馬橋駅などのスマートホームドア(従来型ホームドアではない)について、同線ならではの仕様を紹介します。

1 ホームドアの仕様

1.1 基本仕様

2019年度から他路線で本格導入が進んでいる、軽量で低コストな「スマートホームドア」が常磐線各駅停車にも導入されました。2024年2月に稼働開始された金町駅以降の設置駅からは、下部バーを2本に増やすなど改良を施した2次タイプへと採用が移行しています。

基本仕様は他路線に準じていますが、後述するように同線は開口幅・ドアピッチが異なっています。

基本仕様については別記事をご覧ください。

1.2 開口幅・ドアピッチの違い

山手線などのホームドア基本開口幅は2,000mmですが、常磐線各駅停車の開口幅は僅かに広い2,200mmとなりました。これはホームドア整備に先立つ2021年3月13日、JR東日本としては初めて導入された「ATO(自動列車運転装置)」の停止精度によるものです。

同線は東京メトロ千代田線および小田急電鉄と直通運転を行っており、このうち千代田線では2018年から一足早くATOによる自動運転を開始しています。よって車両側には千代田線向けATO装置が搭載済みであることから、常磐線各駅停車も千代田線仕様をベースとしたATOが導入されました[2]JR東日本が常磐線各駅停車を最初のATO導入路線に選んだのも、車両改修を最低限で済ませられることが大きな一因だったと考えられる

しかし、JRがこれまでホームドア設置路線に導入してきた駅停車ブレーキングのみを自動化する「TASC(定位置停止装置)」は性能上の停止精度が±350mmだったのに対して、千代田線ATOの停止精度は±450mmでした。そのためホームドア開口幅をJR標準より前後100mmずつ広げ、最もずれて停車した時でも車両ドア開口部とホームドア筐体が重ならないようにしています。

JR東日本標準ホームドアと常磐緩行線仕様ホームドアの戸袋配置の違い

もう一つ同線のホームドアが基本仕様と異なるのは、左右の扉が一直線上ではなく互い違いに収納されている点です。これは前述した開口幅の拡大に加えてドアピッチの縮小も関係しています。

JR東日本における20m4ドア車(E233系など)の標準ドアピッチ(ドア中心同士の間隔)は4,940mmなのに対して、常磐線各駅停車のE233系2000番台に限っては東京メトロや小田急の標準規格である4,820mmに合わせています。これにより筐体の線路方向サイズはさらに小さくなり、戸袋が一直線上だと扉を収めきれないことから、互い違いに収納することで戸袋スペースを確保しています。

手前の扉は線路側に、奥の扉はホーム側に収納されている
各号車2-3番ドア間の筐体に非常脱出ドアを設けている点は基本仕様と変わらない
常磐緩行線仕様スマートホームドアの筐体
線路方向の長さが短い
参考:基本仕様スマートホームドアの筐体
線路方向の長さが長い

なお、スマートホームドアは設計段階からさまざまな開口幅・ドアピッチを見越して開発されたため、基本仕様はそのままで同線向けの仕様に対応することができています。よって戸袋が互い違いになっても筐体厚みは増えておらず、ホーム幅員の確保に貢献しています[3]他路線でも先頭車のドアピッチが狭い個所には互い違い構造を採用している。

2 ホームドアの開閉方式

左:ホームドア情報伝送地上子(P3’地上子)
右:ATO距離補正用地上子(P3地上子)

常磐線各駅停車のホームドア開閉方式は、トランスポンダ装置を用いた送受信により車両ドア側の開閉操作と連携するシステムです。この仕組み自体は山手線などの方式(以下:山手線方式)と同じですが、同線では千代田線のホームドアシステムと互換性を持たせた方式(以下:ATO方式)を採用しているため、各部の仕様が異なっているそうです(周波数特性や電文フォーマットなど)。

また山手線方式の場合、ホームドア―車両間の情報を送受信する「ホームドア車上子」は、TASCブレーキに必要な停止位置までの距離情報を受信する車上子[4]信号保安装置(ATSまたはATC)の車上子と兼用。と別に搭載されていましたが、ATO方式はそのどちらも同じ「ATO車上子」を使って送受信するため、地上子の配置パターンが異なっています。

3 おわりに

常磐線各駅停車はJR他路線との関わりが少ない一方、車両規格をはじめさまざまな仕様を千代田線と合わせているゆえに、ホームドアも独自仕様とせざるを得なくなりました。しかし前述の通り、スマートホームドアは元々バリエーション展開が容易な造りなため、同線にも大幅な設計変更なしで導入することができています。

一方、2021年12月稼働開始の柏駅および新松戸駅では従来型ホームドアが採用されましたが、こちらは同線の仕様に合わせて筐体の厚みや内部構造に設計変更が行われました。

出典・参考文献

  • JR馬橋駅ホームドアの使用開始予定日について|松戸市
  • 天野 好輔、吉原 健爾、海戸田 博彦、佐々木 雄太「常磐線へのATO導入に向けた取り組み」『JREA』Vol.64-No.9、日本鉄道技術協会、2021年、p45372-45375
  • 山上 正則、宮田 康治、森永 雅也、田中 嚴「常磐緩行線対応ホームドアの開発」『R&M : Rolling stock & machinery』2022.2、日本鉄道車両機械技術協会、p23874-23877

脚注

References
1 東京メトロが管轄する綾瀬駅は2019年度に全ホームで整備済み。
2 JR東日本が常磐線各駅停車を最初のATO導入路線に選んだのも、車両改修を最低限で済ませられることが大きな一因だったと考えられる
3 他路線でも先頭車のドアピッチが狭い個所には互い違い構造を採用している。
4 信号保安装置(ATSまたはATC)の車上子と兼用。

コメントする