JR九州 九州新幹線ホーム無人化による発着時取り扱いの変化

JR九州の九州新幹線では、人件費削減による鉄道事業の収支改善を目的に、2015年度から一部駅でホームに配置していた駅係員を廃止する「ホーム無人化」が実施されています。ホーム係員を廃止するのは新幹線駅としては全国初のことでした。

2019年11月に筆者が所用で九州新幹線を利用した際、新たに久留米駅でホーム無人化に伴う機器新設の準備が行われていることに気づき、同駅でもホーム無人化が実施されることを知りました。そこで同駅を例に、ホーム無人化が行われる前と後の列車発着時取り扱いの変化をまとめました。

1 九州新幹線ホーム無人化の概要

ホーム無人化は2016年3月26日ダイヤ改正と同時に新玉名駅で始まったのを皮切りに、その後も博多駅を除いた九州新幹線11駅中7駅に順次拡大されています。2019年度までの実施駅は以下の通りです。

  • 2015年度:新玉名駅
  • 2016年度:筑後船小屋駅・大牟田駅
  • 2017年度:新八代駅・出水駅
  • 2018年度:新水俣駅・川内駅
  • 2019年度:久留米駅

新玉名駅のホーム無人化が発表された際は全国紙でも報道され、地元自治体などから安全性への懸念の声が上がったことで、当初の2015年10月開始予定から延期された経緯があります。その後も16年度・17年度の実施駅拡大は地元新聞などで事前に明らかになっていましたが、18年度にはそのような報道もされなくなりました。

そして2019年度は新たに久留米駅で、やはり事前の公表無く2020年3月14日ダイヤ改正と同時にホーム無人化が実施されました。これでホーム係員が残るのは新鳥栖駅・熊本駅・鹿児島中央駅の3駅のみとなりました。

2 ホーム無人化による発着時取り扱いの変化

2.1 ホーム無人化 “前” の取り扱い

ホーム無人化前の久留米駅(2020年3月9日撮影)

ホーム中央付近に駅係員用操作盤が設置されており、係員がホーム可動柵(以下:ホームドア)の開閉操作や案内放送・出発監視などを行っています。全列車が停車する熊本駅・鹿児島中央駅では一般的な在来線駅と同じくホームドアがホーム端に設置されていますが、通過列車がある駅ではホーム端から約2mセットバックされているため、操作盤は安全柵の内側にあります。

駅係員用操作盤とホーム上の駅事務所
熊本駅・鹿児島中央駅では操作盤がホーム側にあるため至近距離で観察可能

ホーム上の駅事務室で待機している係員は列車到着約5分前になると安全柵の内側に入り、次列車がN700系8両編成か800系6両編成かを確認し、操作盤のキースイッチを当該両数の方へ回します。列車進入から発車までの一連の流れは以下の通りです。

  1. 列車停止前に係員がホームドア開扉操作
  2. 列車停止後に車掌が車両ドア開扉操作
  3. 係員が出発時刻を確認し発車メロディを操作
  4. 係員が出発進路開通表示灯の点灯を確認し乗降終了合図を出す
  5. 合図を受け車掌が車両ドア閉扉操作
  6. 係員がホームドア閉扉操作
  7. 列車はホームドア全閉を待たずに発車

この方式では、列車が進入し完全に停止する前に係員がホームドアを開け、乗車客は安全柵の内側に入って車両ドアが開くのを待つことができるため、スムーズに乗降が開始できるのが利点と言えます。そして何よりも、車掌と係員の2人でホームの確認を行うため高い安全性が確保されています。

2.2 ホーム無人化 “後” の取り扱い

ホーム無人化後の久留米駅(2020年3月16日撮影)

ホーム無人化が実施された駅では、従来と同等の安全性を確保するために転落検知マットやホーム監視用ITVモニタなどが新設されたほか、ホームドアの運用方法が変更されることへの対応として各種機器の新設・改修が行われました。

(1)乗務員用操作盤・両数検知センサの新設

乗務員用操作盤・ITVモニタ・リモコン受信機
両数検知センサは3基の2D-LiDARを使用

ホーム無人駅では、これまで係員が行っていたホームドアの開閉操作を車掌が行うようになるため、6両・8両それぞれの最後部に乗務員用操作盤とITVモニタが新設されました[1]乗務員用操作盤は前部の運転士側にも設置。。このため、無人化実施駅では中間車掌室からのドア開閉が基本的に行えなくなりました。

また、係員のキースイッチで行われていた8両・6両の切り替えを自動化するための「両数検知センサ」が新設されました。久留米駅の場合は6両編成の停止範囲にかからない8号車付近に設置されており、センサが車両を検知している場合は8両編成、検知していない場合は6両編成と判定され、自動で切り替えが行われます。

(2)ホームドア開閉操作のリモコン化

操作盤下部に組み込まれたリモコン受信機
一部駅で操作性向上のため増設された受信機BOX

ホーム無人化の開始当初、車掌は乗務員用操作盤のボタンを直接押してホームドア開閉を行っていました。具体的な列車発着時の一連の流れは以下の通りです。

  1. 定位置停止を確認し先に車両ドア開扉操作
  2. 操作盤へ移動しホームドア開扉操作
  3. 乗降終了を確認してホームドア閉扉操作
  4. 乗務員室に戻り車両ドア閉扉操作

しかしこの方式では1駅あたりの停車時間が増加してしまい、無人化実施駅をさらに拡大するとダイヤ全体に影響します。そのためホームドア開閉操作の短縮方法が検討された結果、2019年頃からは車掌が携帯する赤外線リモコンでホームドア開閉操作を行う方式に変更されました。現在の一連の流れは以下の通りです。

  1. 定位置停止を確認し先にリモコンでホームドア開扉操作
  2. 車両ドア開扉操作
  3. 乗降終了を確認してリモコンでホームドア閉扉操作
  4. 車両ドア閉扉操作

リモコン受信機は操作盤下部に窓を設けて組み込まれましたが、一部駅では乗務員室からの距離や駅構造による照度が原因で受信されにくかったことから、より乗務員室から近い場所に受信機の子機を増設したそうです。ホームドア開閉操作のリモコン化によって乗務員室に乗り込んだままでも操作を行えるようになり、停車時間短縮が実現して無人化実施駅の拡大へと繋がりました。

(3)可動柵閉扉表示灯の新設・ホームドアと出発信号機の連動化

可動柵閉扉表示灯が新設され、乗降終了合図灯「ト」は撤去された。

ホームドアが開いたまま列車が出発してしまうような事態を防止するため、出発信号機との連動化を行うことでホームドアが全閉するまでは出発進路が開通しないようになっています。列車の出発時刻になると出発進路開通表示灯に代わって新設された「可動柵閉扉表示灯」が点灯し、出発進路開通表示灯はホームドアが全閉してから点灯、車掌はそれを確認してから車両ドアを閉めて運転士に出発合図を送る流れとなりました。

3 おわりに

川内駅に掲示されていた列車出発時の取り扱いに関するお知らせ

当初は不安視されることも多かったホーム無人化ですが、決して駅自体が無人化されたわけではないので、車いす利用者の乗降時や何らかのトラブル発生時には従来通りの対応が可能です。2019年までに運行へ大きな影響を及ぼすような事象は発生していないとのことです。

冒頭でも述べたように、久留米駅のホーム無人化によって、ホーム係員が残るのは新鳥栖駅・熊本駅・鹿児島中央駅の3駅のみとなりました。新鳥栖駅は今後実施される可能性が考えられますが、全列車が停車する主要2駅までもが無人化される日は来るのでしょうか。

出典・参考文献

脚注

References
1 乗務員用操作盤は前部の運転士側にも設置。

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