JR西日本のホームドア:大阪駅21番のりばの可変式フルスクリーンホームドア
タイプ | 可変式フルスクリーン | |
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メーカー | JR西日本テクシア・ナブテスコ | |
開閉方式 | 開扉 | 自動(車種判別・定位置停止検知・両数検知) |
閉扉 | 車掌手動操作 | |
停止位置許容範囲 | ±1000mm(TASCなし) | |
開口部幅 | 可変 | |
安全装置 | 親扉衝突防止センサ | 2Dセンサ |
居残り検知センサ | 3Dセンサ |
2023年3月18日のJRグループダイヤ改正に合わせて、大阪駅「うめきたエリア」の地下ホーム21~24番のりばが開業しました。JR西日本はこのエリアを最先端技術の実験場として位置づけており、その代表的な設備こそが、21番のりばに設置された世界初の可変式フルスクリーンホームドアです。
目次
1 新型ホームドア導入の理由
1.1 昇降式でも対応しきれない「なにわ筋線」
うめきた地下ホームは、もともと大阪駅を迂回するルートを通っていた梅田貨物線の一部を移設・地下化して建設され、これによって梅田貨物線を経由する特急「はるか」「くろしお」も大阪駅に停車するようになりました。しかしこれはまだ第1形態に過ぎず、本命となるのは2031年春開業が予定されている「なにわ筋線」です。
なにわ筋線は大阪駅うめきたホームからJR難波駅および南海電鉄の新今宮駅を結ぶ路線で、JR・南海の双方からさまざまな車種の乗り入れが予想されます。JR西日本はドア位置の異なる車種に対応できる「昇降式ホーム柵」を既に実用化していますが、なにわ筋線は昇降式ホーム柵でも対応しきれないほどドア位置がバラバラになってしまうことから、車両のドア位置に合わせて開口部を自在に可変できるホームドアが必要でした。
1.2 フルスクリーン式で究極の安全確保
可変式のホームドア自体は、2013年~2014年にかけて西武鉄道新所沢駅で実証実験が行われた「どこでも柵」という前例があります。しかし、うめきた地下ホームは急曲線となっており見通しが悪く、貨物線なので貨物列車も通過するという特殊な環境にあるため、さらに安全性を高めるべく線路とホームを完全に遮断できるフルスクリーンホームドアの導入が検討されました。
このような経緯によって、「究極の安全確保」というコンセプトのもと、フルスクリーン式×可変式という世界で初めてのホームドアが実現したのです。開業時点で設置されたのは21番のりばのみですが、ここで得られたデータを基に、22~24番のりばや他駅への展開も検討されていくのだと思われます。
2 ホームドアの仕様
2.1 概要
JR西日本テクシアWebサイトでは「マルチフルスクリーンホームドア」と称されているこのホームドア。従来のホームドアであれば床面に固定される戸袋部分も左右に移動することで、その名の通りマルチに開口部を構成できます。なお、共同開発メーカーのナブテスコは建物用自動ドアの国内シェア約5割を有する企業で、同ホームドアも一般的な自動ドアの動作機構をベースとしているそうです。
なお、当記事は『R&M』2021年5月号の「マルチフルスクリーンホームドアの開発」に掲載された試作段階での情報を元にしているため、うめきたホームの実機とは異なる可能性もあることをご了承ください。
2.2 扉ユニット
扉ユニットは親扉1枚と子扉2枚で構成され、扉のサイズが異なるAタイプとCタイプの2種類が存在します。そのユニットをC・A・A・A・Cの順で5つ並べた20m分(約1両分)が1ブロックとなっており、10ブロックで全長200mのホーム全体をカバーしています。
親扉には65インチの大型デジタルサイネージが内蔵されており、列車の発車時刻・停車駅案内などを表示するほか、ユニットが移動する際には「ドアが動きます ご注意ください」という画面を表示してホーム上の旅客に対して注意喚起を促します。
子扉は親扉の裏側に互い違いで収納されます。ユニット移動時に隣り合う子扉同士の間隔をあけずに動かすことが制御面で難しい部分だったそうですが、子扉同士を電磁ロックで密着させ、先行する扉に引っ張らせることで課題をクリアしています。
前述の通り、同ホームは急曲線になっているため、1ブロックごとに微妙に角度を付けることでホームの形状に合わせていました。つまり、自由自在に可変できるとは言っても、扉ユニットがブロックの境界を越えることはできません。
子扉部分をよく見てみると、ホーム側表面には春・夏・秋・冬(クリスマスと枯れ木の2種類)をイメージした木々のイラストが描かれていました。
2.3 上部・下部の構造
扉ユニットを駆動するモーター等は上部の収納ケース内に収められており、前述した「どこでも柵」のような下部(扉本体)に駆動装置を搭載する方式と比べて扉本体がスリム化されています。その一方で、扉全体の荷重を上部で受けているため、ホーム躯体の上部構造にも高い強度が必要になる点がデメリットだそうです。
上部のホーム全体にわたってLEDビジョンが埋め込まれており、次に列車する列車のドア位置を案内することで、これにより、どこに並べばいいかが分かりにくいという可変式ホームドアの課題を解消しています。
下部には扉走行をガイドする溝状のレールが設けられています。凸型の段差は無いため車いすやベビーカーでもほとんど問題なく通行できそうです。
2.4 安全機能
従来のホームドアとは全く異なった動きをする方式のため、旅客への安全機能も強化されています。
(1)移動する扉との衝突防止
従来ホームドアと同様のモーター過負荷検知機能に加えて、親扉上部には扉移動方向の支障物を検知する2Dセンサを搭載しており、扉移動中に旅客が近づいた・衝突した場合には当該箇所の扉ユニットを一時停止します。
(2)居残り防止センサ
ホームドアと線路の間の居残り検知には3Dセンサが採用されています。従来ホームドアと異なるのは、開口部となる箇所だけでなく全体を検知しなければならないため、上部に一定間隔で設置されている点です。
(3)緊急時の脱出用設備
車両側からホーム側へ脱出するための「非常開ボタン」は各親扉の線路側に設けられており、これを押すと扉を手で開けることができます。
3 ホームドアの開閉方式
3.1 開閉方式の概要
同駅のホームドア開閉方式は以下の通りです。
- 開扉:自動(車種判別・定位置停止検知・両数検知)
- 閉扉:車掌手動操作
最新技術が詰め込まれたホームドアではありますが、列車の定位置停止や編成両数を判別する制御システムはJR西日本管内の既存ホームドア・昇降式ホーム柵とほぼ変わっていません。
システムの詳細は別記事で紹介しています。
列車がホームに入線すると、車両側に取り付けられたRFIDタグから車種情報を読み取ることで各ユニットのレイアウトを決定し、定位置停止を検知すると開扉動作をしながら車両ドア位置に合わせた位置へと移動します。
現時点でシステム的に対応しているのは、特急「はるか」281系・271系、特急「くろしお」283系・287系・289系、一般型車両(3ドア車・4ドア車)の3種類のようです[1]乗務員向け停止位置目標の種類などから推測。。特急「くろしお」は6両編成(基本編成)が車両検査などで不足した際に3両編成(付属編成)を2本連結して代走することがよくあり、組成によってドア位置も当然変わりるため、何種類の編成パターンに対応しているのか気になるところです。
3.2 閉扉操作は車掌のジェスチャーで
ユニークなのが車掌による閉扉操作の仕組みです。従来ホームドアの乗務員操作盤は筐体の線路側に取り付けられていましたが、可変式ホームドアは全体が可動することから操作盤を固定設置できないという問題が生じます。そこで採用されたのが、車掌の手の位置をセンシングする非接触型の操作方式です。
各編成両数の後部位置には、ホームドア裏側に「開」「閉」と書かれた目安のマークが設けられており、車掌がその付近に手をかざすとセンサがそれを認識して開閉操作が行えます。ホームドアが開いている状態で「開」操作を行うと閉扉予告音声が流れる仕組みになっていました。
4 おわりに
近未来的でダイナミックなこのホームドアは開業前から大きな注目を集め、開業から2か月以上が経った現在でも多くの利用客がカメラを向けていました。現時点では発着する車種がそこまで多くないですが、2031年のなにわ筋線開業後か、あるいは2025年の大阪万博開催で梅田貨物線経由の臨時列車が運転された時には、真のマルチな実力を発揮するでしょう。
出典・参考文献
- うめきた(大阪)地下駅での挑戦 ~世界初方式のホームドアの開発・検証を進めています~:JR西日本
- マルチフルスクリーンホームドア|製品案内 -駅ナカ・駅ソト-|株式会社JR西日本テクシア
- ナブテスコグループ統合報告書 2022年12月期(p31-34にフルスクリーンホームドアの特集)
- 大阪駅の新地下ホームに「全部動くホームドア」出現 ネットでは「近未来ふすま!?」と騒然 | 乗りものニュース
- 特開2021-066410 ホームドア装置の開閉制御装置及び制御方法 | j-platpat
- 「マルチフルスクリーンホームドアの開発」『R&M : Rolling stock & machinery』2021.5、日本鉄道車両機械技術協会、p23087-23090
脚注
↑1 | 乗務員向け停止位置目標の種類などから推測。 |
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