JR西日本のホームドア:多車種に対応するための列車検知システムと開閉方式
JR西日本のホームドアといえば、ドアの位置や数の違いにも対応できる昇降式ホーム柵が有名です。しかし、多車種に対応するための工夫はホームドア自体だけではありません。当記事では、ホームドア制御に必要不可欠な列車検知システムやそれに関連する機器、開閉方式などの概要をまとめています。
目次
1 はじめに
鉄道会社にとってホームドア設置の大きな課題となるのが車両側の対応です。JR西日本は2010年度に在来線初の可動式ホーム柵(以下:ホームドア)をJR東西線北新地駅に設置しましたが、列車の停止精度を向上させるためのTASC(定位置停止装置)や、ホームドアと車両ドアの開閉を同期するための通信装置を車両側に載せる場合は、それだけで莫大な費用・時間が必要になります。
そこでJR西日本は、一連の車両改造を行わない代わりに、ホームドアの開口幅を広げることで停止精度に余裕を持たせたうえ、開閉は車掌による手動操作で行う方式を採用しました。しかしその後、他駅でもホームドアや昇降式ホーム柵の設置が進んで編成両数の違いや特急型車両などへの対応も必要になったことで、それらを判別するための「列車検知システム」も徐々に複雑さを増していきました。
2 列車検知・自動開扉システムの概要
2.1 在線検知システム
列車検知システムの最も基本となるのが「在線検知センサ」です。測域センサ(2D-LiDAR)が車両前面を測定して列車が定位置範囲内に停止したかを検知します。最初期はホームドア開閉が車掌による手動操作だったため、列車在線時以外の誤操作を防止するためにこのシステムが導入され、その後は列車の定位置停止を検知するとホームドアが自動的に開扉する方式に改められました。
定位置停止検知で自動開扉するシステムの場合、回送列車等が停車した際にも自動開扉してしまうため、所定の定位置から少しずらした場所に「回送用」という停止位置目標を設けているホームもあります。
2.2 編成検知システム
初期にホームドアが設置された駅[1]北新地駅・大阪天満宮駅・京橋駅および大阪駅7・8番のりば。はいずれも7両編成の普通列車のみが発着するホームだったため、在線検知システムだけでも制御が可能でした。しかし、異なる編成両数が発着するホームではその判別も必要になります。
2014年12月、ドアの位置や数の違いにも対応できる新型ホームドア「昇降式ホーム柵」の試行運用がJR神戸線六甲道駅3番のりばで始まります。同駅には7両・8両・12両など複数の編成両数が発着するため、前述の在線検知システムに加えて、列車の編成両数を判別する編成検知システムが導入されました。これにより、編成両数に対応した範囲のみのホームドアを自動開扉することが可能となっています。
(1)編成検知センサによる判別
最初にこのシステムが導入された六甲道駅3番のりばをはじめ、2018年頃までにホームドア・昇降式ホーム柵が設置されたホームでは「編成検知センサ」と呼ばれるホーム上屋から吊るされた2基の測域センサを用いて編成検知を行っています。
ここでは六甲道駅3番のりばを例に編成両数の判別方法を解説します。六甲道駅に発着する列車の編成両数は6両・7両・8両・10両・12両の5種類です。列車が両数ごとの所定停止位置に停止すると、ホーム前方の在線検知センサが車両前面を検知すると共に、ホーム後方2か所の編成検知センサがホームのどの範囲まで車両が在線しているかを検知します。
このように、前後2種類のセンサの配置を工夫することで、例えば10両編成が誤って8両停止位置に停止したとしても編成両数の誤認を防ぐことができます。
(2)居残り検知センサによる編成検知の兼任化
ところが、2018年度に整備された大阪駅5・8番のりばの昇降式ホーム柵では、複数の編成両数が発着するにもかかわらず編成検知センサやそれに代わる機器らしきものは設置されていませんでした。
これについて『R&M : Rolling stock & machinery』2020年2月号の「ホーム柵仕様最適化によるコスト削減」によると、ホーム柵本体の支障物・居残り検知用3Dセンサが車両検知を兼任する方式に改めてコスト削減に繋げたのことです。
以降の設置駅においても原則としてこの方法によって編成検知を行っています。
2.3 車種判別システム
2016年3月26日、高槻駅の新1・6番のりば使用開始とともに昇降式ホーム柵も初めて本格導入され、このホームには特急「はるか」「サンダーバード」の一部列車も停車するようになりました。しかし、一般型車両と特急型車両では前面形状が大きく違うことから、1台の在線検知センサで両車の停止位置を正しく測定するには工夫が必要です。
そこで、車両に取り付けたRFIDタグから車種情報を読み取り、在線検知センサはその情報をもとに車種に応じた検出アルゴリズムを設定するシステムが導入されました。その後も特急停車駅へのホーム柵設置が進むにつれて、その駅に定期運用で発着する特急型車両には順次RFIDタグが取り付けられました。
このRFIDシステムは、2023年3月に開業した大阪駅地下ホーム(うめきたエリア)21番のりばの可変式フルスクリーンホームドアにおいて、入線した車種ごとのドア位置へと移動するための判別にも活用されています。
3 乗務員用操作盤と閉扉方式
3.1 車掌用開閉操作盤
前項で紹介した列車検知システムによってホームドアの開扉は自動化されている一方、閉扉は現在も全て乗務員による手動操作で行われています。その閉扉操作を行う方法にも徐々に変化が生まれています。
(1)光電センサ式
2010年度から2017年度(北新地駅からJR総持寺駅)までに設置されたホームドア・昇降式ホーム柵では、車掌用開閉操作盤に光電センサ式が使用されていました。「ホーム柵 閉」「ホーム柵 開」と書かれている部分を光電センサの光路が横切っており、そこへ手をかざすだけで開閉操作ができます。
このタイプのメリットは停止位置が多少ずれても操作がしやすいという点で、開扉が手動操作だった時代には最適と言える方式でした。
(2)押しボタン式
しかし、高槻駅2・5番のりばなど2018年度以降に設置されたホームドアでは、車両ドアスイッチと同じような構造の押しボタン式に変更されています。さらに2019年8月以降、六甲道駅と高槻駅1・6番のりばの操作盤も押しボタン式に交換されました。
初期のホームドアは停止位置許容範囲が±750mm程度だったのに対して、昇降式ホーム柵は±1,000mmまで確保することになったため、光電センサ式であっても乗務員室から直接手が届かなくなってしまいます。そこで開扉は列車検知システムによって自動化し、操作盤はホームに降りて操作することが前提の押しボタン式に変更して低コスト化を図ったそうです。
(3)非接触式
2023年3月に開業した大阪駅地下ホーム(うめきたエリア)21番のりばの可変式フルスクリーンホームドアは、全体が可動するという構造上、操作盤を固定設置できないという問題が生じました。そこで、車掌が所定のエリアに手をかざすと開閉操作を行える非接触型の操作方式が採用されています。
3.2 運転士用開閉操作盤
北新地駅・大阪天満宮駅では運転士側の開閉操作盤はありませんでしたが、それ以降の設置駅では設置されています。この操作盤が使用される主な機会は “当駅止” 列車の発車時です。
JR西日本では基本的に回送列車の車掌乗務を省略しているため、当駅止まり列車の車両ドア・ホームドア閉操作は運転士が行っています。この場合は通常とは逆で車両ドア→ホームドアの順に扱われるほか、昇降式ホーム柵の場合は通常のチャイムではなく「ロープが下がります。危ないですので、ここから離れて下さい」という音声が流れていました。
3.3 リモコンを使用した閉操作
昇降式ホーム柵の筐体配置はそのホームに発着する全車種のドア位置を考慮して決定されるため、必ずしも最後部乗務員扉の近くに操作盤を設けられない場合もあります。これでは車両ドアとホームドアを同時に操作できないことから、一部の特急型車両では車掌が携帯するリモコンで閉操作を行うホームもあります。
4 各種表示灯
4.1 開閉表示灯
(1)車掌用開閉表示灯
各編成両数の最後部付近には車掌に対するホームドア開閉表示灯が設けられおり、開扉中は点灯、閉扉動作中は点滅、閉扉後は消灯という形でホームドアの開閉状態を表示しています。ホームドアのタイプによってバー型と丸型の2種類があるものの、表示内容に差異はありません。
(2)運転士用開閉表示灯
運転士に対しての表示灯は各編成両数の停止位置付近に設置されており、開扉中は赤色で「✕」が点滅、閉扉すると白色で「○」が点灯し、列車がホームを離れると消灯します。前述してきた通り、JR西日本では車両とホームドアが連携していないため、この表示灯によってホームドア全閉前に誤出発してしまうことを防ぎます。
4.2 範囲内表示灯(2019年廃止)
六甲道駅3番のりばと高槻駅1・6番のりばに限り、列車が定位置範囲内に停止すると青く点灯する「範囲内表示灯」も設けられていました。しかし、その後のホーム柵設置駅ではこの表示灯は設けられず、さらに2019年夏頃には全てのホームで運転士用・車掌用ともに撤去されました。
5 おわりに
以上のように、編成両数やドア数、車体規格が大きく異なる車両が入り交じる環境に対応するため、システム面でもさまざまな改良が加えられてきました。今後も設置駅の増加やコスト削減に向けた取り組みによってそのバリエーションはさらに豊富になっていくでしょう。
出典・参考文献
- 昇降式ホーム柵の開発について(インターネットアーカイブ)
- 西日本旅客鉄道株式会社のホーム安全対策 ~可動式ホーム柵と昇降式ホーム柵について~
- 「第3回 ホームドアの整備促進等に関する検討会」の結果について – 国土交通省
- 井上 正文、平野 雅紀、有田 泰弘「昇降式ホーム柵の実用化に向けた開発」『JREA』Vol.58-No.11、日本鉄道技術協会、2015年、p39934-39939
- 大西 悟史、内山 浩光、平田 悦隆、高城 進司「高槻駅昇降式ホーム柵の特徴と機能改善」『Cybernetics : quarterly report』Vol.22-No.4、日本鉄道技術協会、2017年、p25-29
- 平野 雅紀、河合 陽平、荻野 宏城「ホーム柵仕様最適化によるコスト削減」『R&M : Rolling stock & machinery』2020.2、日本鉄道車両機械技術協会、p43-46
脚注
↑1 | 北新地駅・大阪天満宮駅・京橋駅および大阪駅7・8番のりば。 |
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