JR西日本のホームドア:昇降式ホーム柵 現行タイプの基本仕様
タイプ | 昇降ロープ式(支柱伸縮型) | |
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メーカー | JR西日本テクシア・日本信号 | |
開閉方式 | 開扉(上昇) | 自動(定位置停止検知・編成検知) |
閉扉(下降) | 車掌手動操作 | |
停止位置許容範囲 | ±1000mm(TASCなし) | |
開口部幅 | 最大約13m | |
ロープ素材 |
カーボンストランドロッド ※初期設置駅はステンレス |
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安全装置 |
近接検知 支柱引き込み防止 |
光電センサ |
ロープ挟み込み防止 | 圧力検知センサ | |
居残り検知 | 3Dセンサ・光電センサ |
JR西日本の関西エリアでは、ドア位置の異なるさまざまな車種が入り乱れていることから、一般的なホームドアを設置することが難しい状況にありました。そこで開発されたのが、ドア位置が異なるさまざまな車種に対応可能な新型ホームドア「昇降ロープ式ホーム柵」です。
2013年から一部駅で試行運用が行われた後、2016年3月に高槻駅1・6番のりばで初めて実用化され、その後も大阪駅・京都駅・三ノ宮駅など関西エリアの多くの主要駅で導入が進んでいます。当記事では、JR西日本が現在導入している「支柱伸縮型」の基本仕様について紹介します。
目次
1 昇降式ホーム柵が開発された経緯
JR西日本と日本信号が共同開発したこのホームドアは、正確には「昇降ロープ式ホーム柵(支柱伸縮型)」と呼ばれており、下降時は5本のロープがホームと線路を遮断し、列車が到着すると筐体内に収められていた支柱とともにロープが上昇することでホームドアとしての機能を有しています。
冒頭でも述べた通り、JR西日本がこのホームドアを開発・導入した最大の理由は “車両ドア位置の違い” を克服するためです。
通常のホームドアは左右に開く扉部分とそれを収納する筐体部分(戸袋)で構成されており、開口部の幅は3m前後が一般的なので、ドア位置の異なるさまざまな車種が入り乱れている線区では対応しきれません。それに対して昇降式ホーム柵は開口幅を最大10m超まで広げることができるため、異なるドア数・ドア位置にも対応が容易になりました。ほかにも、開口幅が広いため停止許容範囲を広く確保できる、筐体の数を減らせるためホーム基礎工事を減らせることなどが主なメリットです。
なお、支柱が固定されたタイプの昇降ロープ式ホーム柵は韓国で先に実用化されていましたが、高さ2m以上もある支柱がホーム見通しを支障することから、支柱自体が昇降することで下降時の高さを一般的なホームドアと同等として、乗務員・駅係員からの視認性向上を図っています。
2 ホームドアの基本仕様
2.1 筐体
本タイプの筐体は用途ごとに4つのタイプがあります。
- Aタイプ:左右2つに支柱がありそれぞれを個別に上下できる
- B・Dタイプ:Aタイプの支柱をどちらか1本だけにした形でホーム両端に設置される
- Cタイプ:上記2タイプ同士の間でロープを保持する
A・B・Dタイプはメインポスト、Cタイプはサブポストとも呼ばれ、メインポスト同士の間が一つの制御単位となります。
前述の通り、乗務員・駅係員からの視認性を確保するため、開扉(上昇)状態での支柱高さは2,300mmですが、閉扉(下降)状態での筐体高さは通常のホームドアと同等の1,300mmとしています。また、ホーム幅員確保の観点から筐体厚みも極力抑えられ、線路側のセンサ部を除いた厚みは250mmとなりました。
支柱内部にはプーリーを配置し、支柱の上昇とともにロープは上方へ束ねられるように移動します。これにより、開扉(上昇)状態でのロープ最下段を車両ドアの高さよりも高い2,000mmまで上昇させます。
メインポストとサブポストの配置(使い分け)は一定ではなく、そのホームに発着する車種のドア位置、設計上の最大開口幅などによって決定されます。詳しくは3.2項で紹介します。
筐体の線路側(ロープと車両の間)に支障物検知センサと非常開ボタンがある点は通常のホームドアと同じです。一方、ホーム側には近接検知センサを設けることで、ロープ動作中に旅客が接近した際には動作を一時停止して巻き込み等を防ぎます。その他にもロープや支柱への巻き込み防止センサなど、通常のホームドアとは全く異なる動きをする故の厳重な安全対策が施されています。
これらのセンサが人や物を感知した際には音声にて注意喚起を行います。例えば、閉状態における近接検知センサが作動した時は「こちらはホーム柵です。列車が到着しますと、ロープが上昇しますので、ご注意ください。」という音声が流れます。
2.2 ロープ
2017年以降の設置駅においては、扉の代わりを担う5本のロープにカーボンストランドロッド製ロープが採用されています。カーボンロープは軽量かつ強度も高く、大人がもたれかかっても簡単にはたわみません。開発時点における設計上の最大開口幅は13m程度まで対応しているそうです。
下降状態におけるロープの高さは一番上が1,200mm、一番下が500mm、またロープ同士の間隔は175mmです。特にホーム床面からロープ最下部までの隙間が大きく[1]この寸法は筐体底部の強度を確保する関係で決定されている。通常のホームドアに比べると防護性は劣りますが、それでも不慮の転落を防ぐには十分な機能性を有していると言えます。
3 駅・ホームごとの仕様の違い
3.1 設置時期による違い
前述の通り、昇降式ホーム柵は試行運用の末に2016年3月の高槻駅1・6番のりばで初めて本格導入されましたが、コスト面や機能面に関して課題が残っていました。そのため、以降の設置駅からは仕様の見直しが行われています。
(1)安全装置の見直し
2.1項で述べたように、動作が特殊な昇降式ホーム柵は一般的なホームドアよりも厳重な安全対策が求められ、これが本体の製造コストを増加させる要因になっていました。
そこで改めて仕様が見直された結果、居残り検知センサは3Dセンサの検知性能向上によって光電センサを削減、近接検知センサは一部を廃止しても影響が少ないとして割り切ることで大幅に製造コストが削減されました。この仕様変更が行われた機体は2018年度の大阪駅5・8番のりばから採用され、検修費用も年間50万円程度削減できたそうです。
(2)ロープの素材変更
試行運用駅および高槻駅ではロープ素材にステンレスワイヤーを用いていました。しかし、たわみを抑制するための大きな張力(プリテンション)が筐体やホーム構造物への負荷を大きくし、開口幅拡大の妨げにもなっていました。そこで、2017年に六甲道駅の試行導入機を量産機に交換するタイミングから現在のカーボンロープが初採用され、負荷軽減や最大開口幅のさらなる拡大が実現しました。
2024年時点でステンレス製ロープを用いているのは高槻駅1・6番のりばのみとなっています。カーボンロープと比べると太さがやや細く、被覆自体は5本とも黄色で上下2本は赤色のチューブを通している点などが外見での違いです。
3.2 筐体配置および対応している車種
2.1項でも述べた通り、筐体配置は一定ではなく、そのホームに発着する車種のドア位置、設計上の最大開口幅などによって決定されるため、駅・ホームごとに全く異なります。つまり、昇降式ホーム柵だからといってどんな車種にも対応できるわけでは決してありません。
上図は神戸駅2番のりばの5~8号車部分(12両編成基準)を例として、筐体配置と車両ドア位置の位置関係を表しています。メインポストとサブポストは必ずしも均一の距離・順番ではなく、普段このホームに発着する車種に合わせた配置となっており、普段は発着しないその他の車種は考慮されていません[2] … Continue reading
4 ホームドアの開閉方式
JR西日本在来線のホームドア・昇降式ホーム柵は、車両側との通信を必要とせず、地上側の各種センサが列車の定位置停止・編成両数などを検知して自動開扉するシステムが採用されています。一方、閉扉は車掌による手動操作で行います。
システムの詳細は別記事で紹介しています。
5 おわりに
昇降ロープ式ホーム柵はこれまで物理的にホームドア設置が困難だった線区における安全対策の切り札として、現在はJR西日本だけでなくJR東日本や西日本鉄道の一部駅にも普及しています。
JR西日本管内では本格導入が始まった2015年度から2023年度末までの間に9駅17ホームで設置されました。一方、発着する車種のドア位置が統一されているホームには引き続き通常のホームドアが採用されており、今後も線区ごとの条件に応じて使い分けられていく見込みです。
出典・参考文献
- 昇降式ホーム柵ロープへのカーボン素材の適用 – JR西日本
- 昇降式ホーム柵の開発について(インターネットアーカイブ)
- 新型ホームドア導入検討の手引き – 国土交通省
- 井上 正文、平野 雅紀、有田 泰弘「昇降式ホーム柵の実用化に向けた開発」『JREA』Vol.58-No.11、日本鉄道技術協会、2015年、p39934-39939
- 大西 悟史、内山 浩光、平田 悦隆、高城 進司「高槻駅昇降式ホーム柵の特徴と機能改善」『Cybernetics : quarterly report』Vol.22-No.4、日本鉄道技術協会、2017年、p25-29
- 平野 雅紀、河合 陽平、荻野 宏城「ホーム柵仕様最適化によるコスト削減」『R&M : Rolling stock & machinery』2020.2、日本鉄道車両機械技術協会、p43-46
- 松原 達也「日本信号におけるホーム安全ソリューションへの取組み」『鉄道車両と技術』Vol.23-No.4、レールアンドテック出版、2017年、p17-22