阪急電鉄のホームドア:十三駅3・4・5号線のタイプ

タイプ 腰高式
メーカー 京三製作所
開閉方式 開扉 自動(種別判別・定位置停止検知・両数検知)
閉扉 車掌手動操作
停止位置許容範囲 ±900mm(TASCなし)
開口部幅 3,190mm
非常脱出ドア 戸袋スライド式(各号車進行方向2-3番目ドア間)
支障物検知センサ 3Dセンサ

阪急電鉄十三駅では、2018年度に同社初の可動式ホーム柵(以下:ホームドア)が全6ホームのうち3ホームに整備され、これが関西大手私鉄としても初のホームドアでした。

各ホームの稼働開始日は以下の通りです。

  • 3号線(宝塚本線:宝塚方面):2018年9月8日
  • 4号線(宝塚本線:大阪梅田方面):2019年2月2日
  • 5号線(京都本線:京都河原町方面):2019年3月9日

十三駅は神戸本線・宝塚本線・京都本線の主要3路線が集結する乗換駅で、1日あたりの平均乗降人員は国土交通省が定めるホームドア優先整備基準の10万人を下回っていますが、乗換人員も合計すると約21万人が利用していることから最初のホームドア設置駅に選ばれたそうです。

1 ホームドアの仕様

ホームドアのタイプは腰高式で、阪急電鉄の子会社である北大阪急行と同じく、京三製作所の「戸袋スライド式非常脱出口」を備えた製品が採用されています。設置当時は宝塚本線(上りのみ)および京都本線で10両編成が運行されていたため、3号線は8両分、4・5号線は10両分が整備されました[1]2022年12月17日ダイヤ改正で宝塚本線・京都本線の10両編成は廃止。

開口幅は設置当時の同メーカー製ホームドアとしては過去最大の3,190mmで、車種ごとのドア位置の違いに対応するとともに、TASC(定位置停止装置)は未整備のため停止許容範囲を±900mmまで広げて停止精度に余裕を持たせています。

デザイン面では、扉部分を黒色、筐体を白色としたシンプルかつスタイリッシュな塗り分けで、筐体部分に路線ごとのラインカラー(宝塚本線はオレンジ・京都本線はグリーン)を装飾することで視覚的に識別しやすくなっています。これらのデザインはのちに整備された各駅のホームドアにも継承されています。

特徴的な断面形状
扉は互い違いに収納される
線路側から見た1両分のホームドア
ホーム側から見た車両ドア間の筐体
ホーム側から見た車両連結部の筐体
線路側から見た車両ドア間の筐体(スライド機能付き)
線路側から見た車両連結部の筐体

非常脱出口が設けられているのは各号車の進行方向2-3番目ドアの筐体です。本体カバーを横方向にスライドさせると通路を構成することができ、ホーム幅員の狭い箇所にも導入できる点がメリットです。

各開口の線路側には3D式支障物検知センサと非常開ボタンが設けられています。また、宝塚本線・京都本線ホームは急カーブに位置しており列車とホームの隙間が広いため、転落対策として元々設置されている櫛状ゴム「スキマモール」に加えて、特に隙間が広い3・5号線には転落検知マットが新設されました。

乗務員出入り用扉

ホーム両端には乗務員出入り用の引き戸が設けられています。この扉は通常の開口部と扉形状や戸袋構造が共通化されているようです。

2 ホームドアの開閉方式

2.1 開閉方式の概要

同駅の基本的なホームドア開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉:自動(種別判別・定位置停止検知・両数検知)
  • 閉扉:車掌手動操作

阪急のホームドア開閉方式は、地上側の各種センサにより列車の定位置停止と編成両数を検知して自動開扉する一方、閉扉は車掌による手動操作で行われます。それに加えて、既存の設備との連動によって列車種別や車種に応じた制御を可能としています。

システムの概要は別記事で紹介しています。

定位置停止検知センサ
5号線ホーム6両編成停止位置
定位置停止検知センサはカバーの中に収められている
5号線ホーム7・8両編成停止位置
6両編成よりも停止許容範囲が広いのが分かる

5号線ホームの6両編成と7・8両編成の運転士用停止位置マーカーを見比べると、明らかに6両編成の許容範囲が7・8両編成よりも狭いのが分かります。これは「京とれいん 雅洛」の7000系が元々は神戸・宝塚線系統の車両で、京都線系統の車両より車体長がわずかに長いことでドア位置がずれるためだと推測しています。

2基1組の両数判定センサ
ホーム外に設置される場合も(5号線ホームにて)

列車の編成両数を判別する「両数判定センサ」は基本的に筐体の線路側下部に設置されていますが、5号線は大阪梅田方のホーム外にもあります。これは、例えば10両編成が誤って8両の停止位置に停車したような場合、後部にはみ出た車両をこのセンサが検知することで8両編成と誤認してしまうのを防ぐためです。

車掌用操作盤
CTVモニタと乗務員表示灯が一体となったユニット

ホームドア閉扉は車掌による手動操作で行うため、各編成両数の最後部に操作盤が設けられています。操作盤は光電センサ式で、「ホーム柵 閉」「ホーム柵 開」と書かれている部分に手をかざすだけで閉扉および再開扉の操作が可能です。下方にある黒い四角はLED表示器で、開扉中は列車の編成両数が「8」や「7」という形で表示されます。

また、安全かつ円滑な閉扉操作を支援するためのフルハイビジョン方式CTVモニタが新設され、これに伴い従来の駅係員が操作する戸閉合図器の使用は廃止されました。

2.2 各種センサの配置

各ホームの定位置停止検知センサ・両数判定センサの設置場所は上図の通りです。

4・5号線は設置当時運行されていた10両編成を含め、定期運用で発着する複数の編成両数に対応しています。一方、宝塚本線の下り方面は通常8両編成しか運行されないため、3号線は当初から両数判定センサが設けられていません。

3 おわりに

十三駅のホームドア設置工事では車両改造が不要な制御システムの構築によりコストを削減した一方、ホーム基礎の大規模改良が多額の投資になったそうです。ここで得られた知見が活かされたのか、同駅に次いで2020年度に整備された神戸三宮駅のホームドアは新型の軽量タイプが採用されています。

なお、前述の通り3・4号線は10両分のホームドアが整備されましたが、2022年12月17日ダイヤ改正で宝塚本線・京都本線の10両編成は廃止となりました。余剰2両分のホームドアは2025年8月時点で撤去こそされていませんが、長らくの間「開かずのホームドア」と化しています。

出典・参考文献

脚注

References
1 2022年12月17日ダイヤ改正で宝塚本線・京都本線の10両編成は廃止。

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