路面電車を考える会特別講演「『セルフ乗車』で路面電車アップデート」に参加しました

2021年11月21日、広島を中心に活動する市民団体「路面電車を考える会」の28周年特別講演「『セルフ乗車』で路面電車アップデート」ならびに広島電鉄1000形貸切乗車&江波車庫見学会が開催されました。講師の柚原先生をはじめ路面電車界隈の錚々たるメンバーが集結したこの場に筆者も参加させていただきましたので、主な内容と筆者個人の感想を紹介します。

1 講演会について

元名古屋鉄道副社長で鉄道友の会副会長を務める柚原 誠氏による講演会では、日本の路面電車が「LRT(次世代型路面電車)」[1]Light Rail Transitの略。へと生まれ変わるためにはどうするべきか、名鉄岐阜市内線の廃止を最前線で見てきた氏ならではの想いを語ってくださいました。

「セルフ乗車」とは、乗車券の改札や運賃収受を乗客がセルフサービスで行う方式のことで、日本では「信用乗車方式」とも呼ばれています。日本の路面電車における乗務員が運賃収受を行う方式は、入口と出口が分かれているため車内移動が必要で乗降時間も長くなります。路面電車の利便性向上を図るには、セルフ乗車が一般的になっている諸外国の実例をもとに、旧態依然な運賃収受形態を転換することが必須である、というのが今回の講演会の概要です。

セルフ乗車導入の課題として挙げられたのは、不正乗車への対策および罰則の強化、それに伴う法整備の必要性などです。しかし、個人的には設備面での問題点も大きいと考えています。仮に広電でセルフ乗車を導入するのなら、ホームの狭い電停が多く残っている状況では海外のように券売機を停留所に設置するのも難しいでしょう。こういった設備の大幅改良を伴えば完全移行までに何十年掛かるか分かりません。

会場でも発言の機会を頂きましたが、筆者は昨年広島に移住して日常的に広電を利用するようになったことで、路面電車がいかに遅い乗り物なのかを改めて痛感しました。なので、セルフ乗車をはじめとした大改革もいつかできればいいですが、まずはほんの1秒でも所要時間を縮めるための改善を進めてほしいというのが筆者の願いであり、その第一歩といえるのが次項で紹介する全扉降車サービスです。

2 全扉降車サービスの現状と今後について

1000形中扉の「ICカード全扉降車車両」車外表示
中扉の降車用ICカードリーダー

講演会の後は、会場最寄りの広島電鉄本通電停から1000形「グリーンムーバーレックス」の貸切電車に乗車し、同形式で2018年から開始された「ICカード全扉降車サービス」の現状について電車事業本部の担当者から説明を受けました。結論としては、降車時間の短縮や車内混雑分散の効果が見られ、不正乗車またはエラー乗車[2]運賃支払いの意思表示はあるもICカードリーダーへのタッチがエラーのまま降車した場合。の件数は全体の約1%しかない[3]サービス開始後約6か月間の状況。ことから、全扉降車サービスの取り組みは概ね成功と捉えているそうです。

一方の課題点としては、中扉の乗車用ICカードリーダーを一つ減らして降車用リーダーを設置したため、乗車が多い電停ではむしろ乗降時間の増加に繋がっている可能性もあることです。路面電車における数秒の違いはすぐに信号サイクルによって数分の差へ広がります。全扉降車車両がさらに増えれば時間増減の傾向がより目に見えてくるかもしれません。

今後は連接型車両にも全扉降車サービスを拡大したいということです。改造コストなどの課題もあると思いますが、混雑する連接車で車両中央あたりに押し込まれると出口にたどり着くのは一苦労なので、この状況が少しでも早く解消されることを切に望んでいます。

3 江波車庫見学会

左:1150形1156号(元・神戸市電)
右:1000形1007号(今回の貸切電車)
左:1900形1909号(元・京都市電)
中:900形913号(元・大阪市電)
右:600形602号(元・西日本鉄道)
広電生え抜きの350形

貸切電車で江波電停に到着後、隣接する江波車庫の構内を見学させていただきました。正面では江波の主力車両たちと共に普段はここにやって来ない千田車庫所属の1156号(元・神戸市電)の出迎えを受け、庫内では長らく保管されている2000形や軽快電車3500形と久しぶりの再会を果たしました(撮影は禁止でした)。

最後に広電担当者への質疑応答が行われました。そこでは大きな波紋を呼んだ『PASPY廃止報道』についての話もありましたが、当然まだまだ明言できる段階ではない上に、現在の報道内容はやや先行しすぎだと感じているそうです。他にも、QRコード式乗車券導入の可能性やMaaSの取り組み「MOBIRY」の今後など、新しいシステムがどのような方向で検討されているかを伺うことができました。

4 おわりに

本日11月23日は広島電鉄の路面電車開業記念日です。街のシンボルとしての姿は109年前から変わらない一方、これからもその姿を維持するためにはあらゆる面での近代化が必要でしょう。「セルフ乗車」こそが正解なのかどうか筆者にはとても判断できませんが、広電が日本の路面電車の先頭に立って真のLRT実現へ進む道をリードしてもらいたい気持ちは柚原先生と同じです。

最後に、とても貴重で “熱い” 経験の場を設けてくださった主催者の皆様をはじめ関係する全ての方々に厚く御礼申し上げます。

出典・参考文献

脚注

References
1 Light Rail Transitの略。
2 運賃支払いの意思表示はあるもICカードリーダーへのタッチがエラーのまま降車した場合。
3 サービス開始後約6か月間の状況。

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