広島電鉄 連接車によるワンマン運転の現状とさらなる拡大の布石

広島電鉄1号線の広電本社前~広島港(宇品)間では、2023年8月28日より一部の連接車両においてワンマン運転が実施されています。30m級車両で “現金利用者を含めた信用乗車方式” によるワンマン運転を行うのは全国の路面電車でも初の試みでした。

また、現在はワンマン運転を行っていない宮島線にもワンマン対応改造を受けた車両が出現しており、他の区間でも将来的にこの取り組みが拡大される可能性が高まっています。

1 連接車によるワンマン運転の概要

1.1 現金利用者も信用乗車方式に

無人の車掌台
現金利用者もこの扉から降車できる

8月26日以降、1号線を運行する連接車両のうち、ラッシュ時間帯は8編成中2~3編成、ベース時間帯は6編成中2編成がワンマン運転の対象となっています。なお、同区間では約5か月前の4月1日から一部連接車で運転士がすべてのドア開閉を行う取り扱いを開始しており(車掌は接客業務などに専念)、安全性が確認できたため完全なワンマン運転へと移行したとのことです。

広電が連接車ワンマン運転を開始する2日前、8月26日に開業した栃木県の「宇都宮ライトレール」でも当初から30m級車両による信用乗車方式のワンマン運転を行っていますが、こちらはICカードを1名で利用する場合のみすべての扉から乗降できる方式です。広電が宇都宮と異なるのは、冒頭でも述べたように現金利用者を含めた信用乗車を実現したことでした。

ワンマン化に伴い変更された後部出口扉のステッカー

広電の連接車では以前からICカード1名利用時のみ全扉乗降が可能(一部車両を除く)だった一方で、現金やその他の方法(1枚のICカードを複数名で利用する場合・一日乗車券など)で利用する場合は運転士または車掌のいる前後2か所の出口扉から降車する必要がありました。これに対してワンマン運転時は、現金利用者に限り従来と同じく前後2か所の出口扉から、つまり車掌がいない出口扉でもセルフレジのように運賃箱にお金を入れて降車できます。

当然ながら、後部出口扉を利用できない乗客は一番前の出口扉まで移動しなければならなくなったため利便性は低下しますが、10月18日の読売新聞の記事によると、同区間の主な利用客は乗降に慣れている地域住民や通勤・通学客なのでトラブルは起きていないそうです。

1.2 運転士の基本業務は変化なし

前面窓に掲げられたワンマン札が目印

ワンマン化から約3か月が経過した12月上旬の平日朝ラッシュ時間帯に乗車してみたところ、乗降やドア開閉に特段手間取っているような様子はありませんでした。某小学校の最寄り電停では大勢の小学生が車掌のいない出口扉からスムーズに降りていたのが印象的でした。

前述の通り、準備段階として4月から運転士によるドア開閉扱いを行っていたため、完全ワンマン化後も運転士の基本業務はあまり変わっていません。変わった点は、ワンマン区間内において「ワンマン」と書かれた札を運転台から前面に向けて掲示するようになった程度です[1]運転台に常備されており、ツーマン運転区間およびワンマン対象ではない便では裏返しにしてある。

車両側の改造内容も以前の記事でお伝えした通りですが、当初使われていた発車予告メロディは廃止され、代わりに短いチャイムと「ドアが閉まります、ご注意ください」という音声が流れるようになりました。

2 宮島線所属車にもワンマン改造が拡大中

ワンマン対応により車外カメラが設置された3900形3903号

1号線を管轄する千田車庫所属の連接車はほとんどがワンマン対応改造を終えており、これだけ対応車が増えたのであれば近々ワンマン運転対象の便も増えるかもしれません。

そんな中、最近になって2号線(宮島線)を管轄する荒手車庫所属の3800形・3900形にもワンマン対応改造車が出現しました。3800形は千田⇔荒手の転属がよくあるので対象になるのも納得できますが、今まで一度も千田に配属されたことがない3900形も対象[2]12月10日時点で8編成中3編成(3901号・3903号・3905号)が改造を終えている。になったということは、2号線でもワンマン運転が計画されている可能性が考えられます

しかし、前述した新聞記事で広電側は “外国人や観光客の利用が多い市中心部など、他の区間でのワンマン運行は検討していない” と回答しており、とりわけ宮島へのアクセス路線である2号線をすぐにワンマン化するとは思えません。あるとすれば、早朝・深夜なおかつ市内中心部に乗り入れない宮島線内折り返しの便などであれば地域住民以外の利用が限られるので、そのあたりから徐々にワンマン化を進めていくのではないでしょうか。

3 おわりに

4月の運転士によるドア扱い開始をお伝えした記事で、完全なワンマン化は現金・1日乗車券などでも全てのドアから乗降できる運賃収受システムが実現してからの話ではないか、と予想していました。しかし実際にはたった5か月弱で完全なワンマン運転へと移行したので、この展開の速さにはとても驚きました。

新聞記事に書かれていたのは “ワンマン運転区間の拡大は検討していない” でしたから、他の区間でも1号線と同じようにまずは運転士によるドア扱いを開始して様子見…という可能性は否定できません。宮島線車両の改造が3800形・3900形以外の形式にも波及するのか注目されます。

出典・参考文献

脚注

References
1 運転台に常備されており、ツーマン運転区間およびワンマン対象ではない便では裏返しにしてある。
2 12月10日時点で8編成中3編成(3901号・3903号・3905号)が改造を終えている。

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