小田急電鉄のホームドア:代々木八幡駅・下北沢駅などの定位置停止・両数判定システム
小田急電鉄では、2018年度~2020年度にかけて代々木八幡駅~梅ヶ丘駅間の計6駅でホームドア整備が完了しました。車両側にホームドアとの開閉連携を行うための装置が非搭載なため、これらの6駅では地上側の各種センサを用いた列車検知によってホームドアを自動開扉するシステムが導入されています。
目次
1 システムの仕組み
1.1 各種センサの概要
2012年度に小田急初のホームドアとして整備された新宿駅4・5番ホームは10両編成のみの発着に限定したシステムが構築されたため、8両編成は原則として入線できませんでした。それに対して2018年度に整備された各駅は、10両編成と8両編成、なおかつ直通運転で乗り入れる他社車両にも対応する必要があるため、新宿駅4・5番ホームとは異なる列車検知システムが採用されました。
このシステムの基本は3種類のセンサで構成されており、列車の定位置停止および編成両数を検知することによりホームドアを自動開扉します。その一方で、車両ドアの閉扉と連動する機能はないため、ホームドア閉扉は車掌による手動操作で行われます。
(1)列車停止検知センサ
ホームの先端または後端に設置された2Dセンサが列車の車両前面を測定します。これ自体は新宿駅4・5番ホームも同じでしたが、異なっているのは “列車の大まかな位置” および “列車が動いているか止まっているか” のみを判定している点で、正確な定位置停止判定は次に紹介する車両検知センサが担っています。
(2)車両検知センサ(定位置判定用)
車両連結部にあたる位置の頭上に設置された2つのセンサが車両側面に向かって赤外線を投光し、両方とも車両を検知していれば定位置範囲内、どちらかが車両を検知していない(=センサの正面に車両連結部がある)場合は定位置範囲外だと判定しています。
新宿駅4・5番ホームでは車両前面の測定だけで定位置停止判定を行っていましたが、先頭車は車種ごとに長さが若干異なっているため、車両側のRFIDタグから読み取った車種情報を元にセンサの測定基準を変更する必要があり、そのシステムに対応している車種も限られていました。それに対して車両連結部は車種による寸法差がほぼ無いため、前面と連結部で役割を分担することでRFIDシステムを不要にしたのだと思われます。
(3)車両検知センサ(両数判定用)
一部箇所のホームドア筐体線路側にも定位置判定用と同型のセンサが設置されており、こちらは車両の有無を検知することで10両編成と8両編成を判別します。なお、新宿駅に乗り入れる6両編成の運用はホームドア設置以前に消滅しているため、6両判別用のセンサは当初から設けられていません。
1.2 各種センサの配置
例として梅ヶ丘駅における各種センサの配置図を示します。上下線とも先頭側に列車停止検知センサを配置し、後部側の両数判定用センサが両方とも車両を検知していれば10両編成、片方だけで検知していれば8両編成と判別します。また、定位置判定用センサは冗長性確保のためか2か所に設置されています。
1.3 急緩行選別による停車・通過の判別
このような地上側の設備だけでホームドアを自動開扉するシステムは、通過列車が何らかの理由で停車した際にも自動開扉してしまいます。そのため小田急では、信号設備から情報を受信することで、入線した列車が「停車」か「通過」かを判別してホームドア自動開扉の可否を決定しています。
2 代々木八幡駅における可動ステップへの対策
代々木八幡駅は駅全体が急カーブ上に位置しており、車両とホームの隙間が非常に大きいことから、上り2番ホームの一部箇所には隙間を縮小する「可動ステップ」も設置されました。可動ステップは列車走行中や旅客乗降中に誤動作すると危険なため、各種センサの数を標準の倍にすることでより確実に列車検知を行うとともに、開扉自体は車掌による手動操作としています。
その他にも運転保安システム「D-ATS-P」と連動した安全機能などで万全の対策を施しています。詳しくは代々木八幡駅ホームドアの特集記事をご覧ください。
3 乗務員表示灯
運転士用・車掌用それぞれに、定位置停止およびホームドア状態を示す表示灯が設置されています。列車発着時の表示内容の推移は以下の通りです。
- 列車が定位置範囲内に停止→「D」が点灯
- ホームドアが開扉→動作中は「●」が点滅→全開で消灯
- ホームドアが閉扉→動作中は「●」が点滅→全閉で点灯
- 列車が定位置から離れる→「D」が消灯
可動ステップがある代々木八幡駅2番ホームに限り、可動ステップの張出を示す「S」および可動ステップの故障を示す「S故障」が追加されています。それ以外の表示推移は同じです。
4 おわりに
このシステムによって車種・編成両数にかかわらずホームドア自動開扉制御が可能になった一方、閉扉は車掌手動操作であるためタイムロスが大きく、今後さらに設置駅が増えるにあたっては開閉の全自動化が求められました。また、前述した急緩行選別による判別だけだと「停車する回送列車」等でも自動開扉してしまう課題が残っていました。
そのため、2020年度末に整備された登戸駅からはQRコードを用いたホームドア自動開閉制御システムを導入することで、開閉ともに車両ドアとホームドアが連動するようになりました。ただし、既存駅のシステムをQRコード式に変更するといった動きは今のところありません。
出典・参考文献
- 馬場 和久「小田急電鉄のホームドアについて」『鉄道と電気技術』Vol.30-No.12、日本鉄道電気技術協会、2019年、p36-42
- 宮村 健三郎「京王線調布駅地下化に伴うホームドア整備」『鉄道と電気技術』Vol.25-No.8、日本鉄道電気技術協会、2014年、p29-34