小田急電鉄のホームドア:本厚木駅のロマンスカー対応大開口タイプ

タイプ 腰高式(二重引き戸タイプ)
メーカー ナブテスコ
開閉方式 一般車 開扉 車掌手動操作
閉扉 自動(QRコード式連動)
ロマンスカー 車掌手動操作
停止位置許容範囲 ±500mm(一般車はTASCあり)
開口部幅 通常部 【推定】2,800mm
最大開口部 4,410mm
非常脱出ドア 開き戸式(各編成両数の前部・後部)
支障物検知センサ 3Dセンサ

小田急電鉄の本厚木駅では、2023年2月18日に下り1・2番ホームで、同年9月30日に上り3・4番ホームでホームドアの稼働が開始されました。特急ロマンスカーが停車するホームとしては初めての設置で、ロマンスカーと一般型車両のドア位置の違いに対応するため、同社初となる「大開口ホームドア」が採用されています。

最大4m超の大開口をはじめバラエティに富んだ扉のサイズや形、QRコード式ながらも一部が手動の開閉方式など、全国屈指レベルの特殊なホームドアがここに誕生しました。

1 ホームドアの仕様

1.1 通常タイプの部分

名前の通り本タイプの特徴はロマンスカーに対応するための大開口部分なのですが、計40開口のうち8開口(1号車1~3番ドア・6号車2・3番ドア・10号車2~4番ドア)は二重引き戸ではなく、ごく一般的な1枚扉による両開き構造となっています。

本タイプは小田急としては初のナブテスコ製で、通常タイプの部分は京急電鉄の同メーカー製ホームドアと酷似しています。開口幅は小田急線内の既設ホームドアと同等の推定約2,800mmです。

ホーム側から見た通常部の筐体
線路側から見た通常部の筐体

筐体もこれといった特徴は見当たらないごく普通の構造です。各開口の線路側には片側1か所に3D式支障物検知センサ、両側2か所に非常開ボタンが備わっています。

1.2 二重引き戸・大開口タイプの部分

現時点で営業運転に用いられているロマンスカーは30000形「EXE[1]リニューアル車は「EXEα」」・60000形「MSE」・70000形「GSE」の3形式です。このうちEXEとMSEはドア位置が一般型車両と大きく異なるため通常のホームドアでは対応できないことから、前述の箇所を除く32開口はすべて二重引き戸構造を採用することで両車に対応できる約3m~4mの大開口を実現しました。地元タウンニュースの記事によると、最大開口幅は4,410mmとのことです。

両開き扉(左)と片開き扉(右)
片開きドアが2~3連続で並ぶ箇所も

さらに本タイプで最も特徴的なのが、大開口ではない幅3m未満の開口部についても二重引き戸式の片開きドアとしている点です。片開きホームドア自体は新幹線などで例があるものの、二重引き戸式の片開きドアは全国でも初めてでした[2]約1か月後に開業した相鉄・東急直通線新横浜駅のホームドアが2例目。

隣の開口との距離が狭く戸袋スペースを確保できない部分を片開きとするのは納得できますが、戸袋スペースが十分ありそうな部分まで片開きなのが面白いところです。場所によって構造を細かく変えるより同じ構造にしたほうが低コストなのでしょうか?

最も開口幅が広いと思われる6号車1番ドア
1号車4番ドア
通常タイプと二重引き戸タイプの境界
2号車4番ドア
このように左右のドア幅がほぼ同じ開口もある

外観はやはり同じナブテスコ製である東京メトロ東西線などの大開口ホームドアと似ていますが、目を見張るのはその扉サイズ。1mにも満たないスリムな扉から3mを超える巨大な扉まで、さまざまな扉サイズを組み合わせてロマンスカーのドア位置に合わせた開口幅を作り出しています(2.1項のイメージ図も参照)。特に片持ち式で3m超の二重引き戸というのも実用化は初めてだと思われます。

扉が互い違いに収納されているのが分かる
線路側から見た二重引き戸部分の扉・筐体
最もスリムな筐体のサイズはたったこれだけ

二重引き戸を互い違いに収めなければならないため、筐体厚みは通常タイプよりかなり分厚くなっています。支障物検知センサ・非常開ボタンの配置などは通常タイプ部分と変わりません。

1.3 非常脱出ドア

ホーム側から見た非常脱出ドア
※ロマンスカー6両編成の最後部
線路側から見た非常脱出ドア
※一般車6・8両編成の最後部

小田急線内の既設ホームドアは最低でも1両あたり1か所程度に非常脱出ドアを設けていましたが、本タイプは各編成両数の前部・後部となる計5か所のみ乗務員出入り口を兼ねた非常脱出ドアが設けられています。この部分には戸袋を設けられないことが、片開きドアを必要とする要因の一つにもなっています。

2 車両ドアとの位置関係

2.1 ホームドア配置と停止許容範囲

上図は本厚木駅2・4番ホームにおけるホームドアと車両ドアの位置関係を示しています(上図を左右反転すると1・3番のりばの配置)。

前述の通り、ホーム両端付近を主とした8開口を除くすべての開口が二重引き戸で、場所によって開口幅や筐体サイズはかなりバラバラなのが分かります。ロマンスカーの一部ドア締め切りおよび黄色く区別してある扉については後述します。

車種ごとに設けられている運転士向け停止位置マーカー
EXE・MSE用はホーム床面にも
運転台が2階にあるGSE用は停止位置標識と一体化
上りホームの特急6両停止位置
MSE6両編成が停車中の様子

停止許容範囲は一般車・ロマンスカーともに推定±500mmで、すべての車種のドア位置に許容範囲±500mを足した値から開口幅が決定されています。小田急は一般車のみTASC(定位置停止支援装置)に対応していますが、手動ブレーキングのロマンスカーも同等の停止精度を求められるようになりました。

ロマンスカー3形式に対しても運転士向け停止位置マーカーが設けられていますが、上り3・4番ホームのロマンスカー6両停止位置に限り、筐体・非常脱出ドアが紫色にカラーリングされました。これは運転台真横に窓が設けられていないEXEの貫通型先頭車[3]EXEαにリニューアルされた車両には窓が増設された。でも位置を合わせやすくするためだと推測しています。

2.2 ロマンスカーの一部ドア締め切り

締め切り扱いとなったMSEの4号車ドア
ギリギリ開口部には収まっているが余裕が少なすぎる

ここまで紹介してきたように、本タイプはさまざまな工夫によって可能な限り開口幅を広げています。しかしながら、EXEおよびMSEは大開口ホームドアを用いてもすべてのドア位置に対応することは困難でした。そのため、ホームドア設置を前にした2022年11月15日より、4号車と7号車のドアは小田急線内のすべての特急停車駅において締め切り扱いとなりました[4]箱根登山線およびJR御殿場線(特急「ふじさん」としてMSEが乗り入れ)も含む。[5]MSEが乗り入れる東京メトロ千代田線内では、同じくホームドアの関係で以前から2・3・6・10号車が締切扱い。

一方で、2018年にデビューした最新のロマンスカーGSEは将来のホームドア設置を見越してドア位置を一般車と極力合わせた構造としているため、引き続きすべてのドアから乗降できます。

ホームドア設置に伴うロマンスカーの対応については別記事をご覧ください。

2.3 ロマンスカー停車時または緊急時のみ開く扉

一般車到着時のホームドア開扉動作
1号車4番ドアの例
“この扉は、特急列車停車時および緊急時に開きます”

4.1項のイメージ図において黄色く区別してある扉は「ロマンスカー停車時または緊急時のみ開く扉」または「緊急時のみ開く扉」です。前者は1号車4番ドアなど5か所が該当し、短い方の扉は一般車のドア位置であれば乗降の支障にならないため、閉じたままとすることで車両連結部への転落など事故のリスクをさらに減らしています。なお、同様の制御は西武鉄道新宿線の大開口ホームドアで前例があります。

“この扉は、緊急時に開きます”

一方で、後者の緊急時のみ開く扉は4号車3番ドアと7号車3番ドアにあり、その開口部は現役ロマンスカー3形式のドア位置ではないのにやたらと大開口なのが不思議です。なぜこのような扉が必要だったのかは分かっていませんが、ホーム構造や筐体配置の都合か、それともホームドア設置時には既に営業運転から引退していたロマンスカー「VSE」など別の車種のドア位置と関係しているのでしょうか?

3 ホームドアの開閉方式

3.1 一般列車の場合

本厚木駅ホームドアは一般車とロマンスカーで開閉方式が異なっており、一般車については登戸駅などに続いて「QRコードを用いたホームドア自動開閉制御システム」が採用されています。しかし同駅で自動なのは閉扉動作のみで、開扉は車掌による手動操作となりました。

自動から手動に退化してしまった理由として考えられるのは、本タイプの特徴である巨大な扉です。登戸駅などは車両ドア開扉をQRコードの動きで検知してからホームドアを開き始める、つまりホームドアが車両ドアより遅れて開く仕様でした。しかし本タイプは扉がとても長いため、遅れて開くのでは開ききるまでの時間が掛かりすぎて乗降の支障になってしまうと考えられます。そこで開扉は車掌が先にホームドアを手動操作する方式にしたのではないでしょうか。

また、同駅のシステムは定位置停止検知や両数判定の仕組みも従来と少し異なるようです。詳しくは別記事をご覧ください。

3.2 ロマンスカーの場合

一方で、ロマンスカーはQRコード式システムによる制御の対象ではなく、開閉ともに車掌がリモコンを使ってホームドアを手動操作する方式が採用されています。ロマンスカー発着時の取り扱いについては別記事をご覧ください。

3.3 乗務員操作盤

シンプルな構造の乗務員操作盤
ロマンスカー用の開ボタンは見当たらない

一般車の各編成両数最後部には乗務員操作盤が設けられており、これまでは個別のランプで表示していた各開口の状態・定位置停止などが液晶モニタにまとめて表示されるようになりました。

一方、ロマンスカーだけの最後部となる箇所には操作盤が設けられていませんでした。万が一リモコンでの操作が上手くできない場合はどのように開閉するのかが気になります。

4 おわりに

通常タイプと二重引き戸タイプの混在・大開口・片開きドアなどなど、これほどまでに複雑怪奇なホームドアは世界中どこにも存在しないでしょう。JR大阪駅地下ホームの可変式フルスクリーンホームドアと並んで、2023年のホームドア史を代表する出来事だと個人的には思っています。

2023年度は町田駅にもロマンスカー対応ホームドアが設置される予定で、相模大野駅や海老名駅でも設置に向けた工事が進んでいます。町田駅は2023年11月末時点で3・4番ホームへの据付が完了しており、外観・構造ともに本厚木駅との違いは無さそうでしたが、今後の設置駅で変化は出てくるのでしょうか。

出典・参考文献

脚注

References
1 リニューアル車は「EXEα」
2 約1か月後に開業した相鉄・東急直通線新横浜駅のホームドアが2例目。
3 EXEαにリニューアルされた車両には窓が増設された。
4 箱根登山線およびJR御殿場線(特急「ふじさん」としてMSEが乗り入れ)も含む。
5 MSEが乗り入れる東京メトロ千代田線内では、同じくホームドアの関係で以前から2・3・6・10号車が締切扱い。

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