近畿日本鉄道のホームドア:鶴橋駅3番線の特殊配置ホームドア

近畿日本鉄道(近鉄)の大阪線と奈良線が乗り入れる鶴橋駅では、2025年9月21日に3番線(奈良線上りホーム)でホームドアの稼働が開始されました。近鉄としては大阪阿部野橋駅や鶴橋駅2番線で「昇降ロープ式ホームドア」(以下:昇降式ホーム柵)の採用事例はありますが、一般的な腰高式ホームドアが採用されたのはこれが初めてです。

鶴橋駅3番線は駅構造の関係で昇降式ホーム柵を設置できないという理由から、通常のホームドアを車両から離して設置することで車両ドア位置の違いに関係なく乗降を可能としました。その筐体配置や構造は、もはやこれまでのホームドアの常識を覆すような代物となっています。

1 特殊配置ホームドア導入の経緯

ホーム縁端の黄色い点状ブロック(警告ブロック)よりさらに内側にホームドアが設置されている

一般的にホームドアというものは、車両とホームドアの間に旅客を取り残す可能性を減らすため、またホーム内側の通路幅員を最大限確保するため、できるだけホーム端に寄せて設置されます。それに対して鶴橋駅3番線のホームドアは、車両から約1.5m離して設置されているのが大きな特徴です。

このような特殊配置となった要因には2つの課題が関わっています。

(1)バラバラすぎる車両ドア位置

近鉄はドア位置・ドア数の異なるさまざまな車種が入り乱れており、特に大阪線や奈良線系統はそのレパートリーが非常に多く、通常のホームドアを設置することは非常に困難な状況にあります。その最たる例が鶴橋駅の奈良線ホームで、自社の一般型車両(1両あたりの長さ約21m・4ドア)の他に、多種多様な特急型車両、さらに直通運転で乗り入れる阪神電気鉄道の車両(1両あたりの長さ約19m・3ドア)が発着し、全国でも有数と言えるほど車両ドア位置が統一されていません。

(2)昇降式ホーム柵を設置できない駅構造

車両ドア位置の課題に対する解決策として、鶴橋駅2番線(大阪線下りホーム)ではさまざまな車両ドア位置に対応できる昇降式ホーム柵が採用されました(2025年3月稼働開始)。一方、大阪線・奈良線上りホームの3・4番線は駅構造の関係で昇降式ホーム柵の支柱を設置できないという課題があったそうです。JR大阪環状線との立体交差部やホーム中央付近に天井が低い箇所があり、背の高い昇降式ホーム柵は干渉してしまうためだと推察されています。

奥:特殊配置ホームドアが採用された3番線
手前:昇降式ホーム柵が設置された2番線
3・4番線ホーム中程の頭上には駅事務室等があり天井が低い

上記のような理由によって、鶴橋駅は上下線で異なるタイプのホームドアが採用されているのです。ホームドアを車両から離して設置する方法は、新幹線の一部駅[1]新幹線駅におけるセットバック配置は、ドア位置の問題よりも列車が高速通過するための安全対策が主な理由。や東急電鉄田園都市線の宮前平駅で前例があるものの、1日あたりの乗降人員が10万人を超える主要駅で採用されるのは極めて異例と言えます。

なお、2018年時点では、昇降式の発展形として柵がホームの下へ沈むように格納される新型ホームドアの研究・開発に着手し、主要駅において数年後の実用化を目指すと報じられていました。しかし、他駅も含めて現時点では実用化に至っていません。

2 ホームドアの仕様

2.1 基本仕様

ホームドアのメーカーは三菱重工交通・建設エンジニアリングで、他社の駅でも多く採用されている二重引き戸式大開口ホームドアをベースとしています[2]関西では南海電鉄や京阪電気鉄道が同社製ホームドアを採用している。。ただし、駅構造との兼ね合いで、場所によっては一重引き戸タイプも存在し、大小さまざまな開口幅が作り出されています(詳しくは後述)。

デザインは筐体部分をグレー、扉部分をブラックとしたシックな色合いとなっています。同駅2番線の昇降式ホーム柵と色合いを合わせているため、構造は全く違っていても統一感があるように思えます。

筐体・扉の断面形状
ホーム側から見た筐体
線路側から見た筐体

各開口部の線路側両サイドには3D式支障物検知センサが設けられており、ホームドアと車両の間に人が取り残されていないかを検知しています。また、各開口部の片側には非常開ボタンが設けられています。

筐体線路側には「速やかにドアの向こうへ」というステッカーが貼付されています。

2.2 鶴橋駅3番線の仕様

前述の通り、このような特殊配置ホームドアは新幹線や東急宮前平駅で前例があります。しかし同駅がより特殊なのは、ホーム上の柱や階段といった既存の駅構造と干渉しないことを第一に配置が決定されていることで、“車両ドア位置を基準に設置する” というホームドアの基本理念すら通用していません

以下、3番線ホームドアの配置を大阪難波方から順に詳しく見ていきます。

(1)1両目付近

1両目からインパクト抜群の配置
1両目最前部にある独立型の支障物検知センサ
同駅の特殊配置を象徴するJRの高架下
死角をカバーするため筐体下部に支障物検知センサが別途設けられている

このホームドアがいかに特殊かは、大阪難波方1両目付近を見れば一目瞭然でしょう。前代未聞の “柱をホームドアの一部にしてしまう” というアクロバットな配置が目を引きます。特に、JR大阪環状線の高架橋を支える2本の太い柱に挟まれて孤立したホームドアは何ともシュールな光景です。

また、この部分のみホームドアの配列が標準の約1.5mよりもさらにホーム内側へと大きくセットバックされています。これは、どうしても死角が発生してしまう以上、支障物検知センサがあるホームドア線路側よりも、センサがないホーム側の死角を減らすためだと思われます。

(2)2~4両目付近

2両目付近にも独立型の支障物検知センサ
階段によって配列が一旦途切れている
1つ1つの開口部に苦労がしのばれる
幅員の狭い箇所で採用されている一重引き戸タイプ

2号車付近には地上の西改札口へと繋がる階段があり、ホームドアをセットバックして設置する余裕を確保できないため、今度は “階段躯体をホームドアの一部にしてしまう” 強引な手段を採っています。よってこの付近には約10mにわたり開口部がなく、列車から降りた旅客がホームドア内側になかなか入れず外側に滞留してしまう光景がよく見られる等、同駅の特殊配置ホームドアにおいて最も欠点が露呈しているポイントでもあります。

3~4号車付近にもJR大阪環状線(天王寺・新今宮方面)のりかえ改札口へと繋がる階段などがあり、2号車付近ほどではないものの余裕の少なさが続きます。そうした箇所では二重引き戸タイプではなく筐体厚みの小さい一重引き戸タイプを採用するなど、筐体配置の工夫によってホーム内側の幅員を確保しています。

(3)6~8両目付近

阪神車6両編成の最後部
柱との干渉をうまく避けている
8両目付近の狭小開口部
線路側から見た狭小開口部とその前後

ホーム中程の6~8号車付近は幅員に比較的余裕がある一方、ホーム上屋を支える柱が一定間隔で存在しており、その箇所にはホームドア本体ではなく厚みの小さい別の部材を設けることで干渉を避けています。ちなみに、これはホーム全体で言えることですが、駅構造に大きく左右されながらも、最も発着頻度の多い近鉄一般車のドア位置にできる限り合わせているようです。

面白いのが8両目付近の区画で、片開きの二重引き戸を用いた幅1mにも満たない開口部が2つ並んでいます。このような配置が必要だった明確な理由は分かりませんが、できるだけ多くの開口部を設けたいということなのでしょうか。

(5)9~10両目付近

存在感が薄く感じる開口部
線路側から見た10両目付近(1両分)のホームドア

9~10両目付近にも地上の東改札口へと繋がる階段があるため、2号車付近と同じようにホームドアの配列が一旦途切れています。日中はこの付近で列車を待つ旅客がいないことから[3]9~10両目には朝ラッシュ時に運行される10両編成しか停車しないため。、初見では階段より向こうにもホームが続いていることに気付かないかもしれません。

3 ホームドアの開閉方式

3.1 開閉方式の概要

鶴橋駅3番線のホームドア開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉:自動(定位置停止検知・両数検知)
  • 閉扉:自動(車両ドア開閉検知)

鶴橋駅3番線のホームドアは、地上側の設備のみで車両の動きに追従した自動開閉を行う「地上完結型連携システム」によって制御されています。開扉だけでなく閉扉も自動化されているのが同駅2番線との違いです。

システムの詳細は今後別記事にまとめる予定です。

停止位置検知用センサ(阪神車用)
在線検知用センサ
車両ドア開閉検知用センサ(手前)

基本的な仕組みは他社で導入されているものと同じく、車両連結部の位置で定位置停止を判定する「停止位置検知用センサ」、その箇所に車両が在線しているか否かを判定する「在線検知用センサ」、車両ドアの動きを読み取る「車両ドア開閉検知用センサ」の組み合わせで構成されています。鶴橋駅3番線においてシステム上対応している編成両数は、近鉄車が4両・6両・8両・10両、阪神車が6両・8両・10両のようです。

特殊配置ホームドアならではの仕様として、円滑な乗降のため、1両あたりのドア数が少ない特急型車両の発着時においても、編成両数の長さに応じたすべての開口部が自動開扉します。また、車両とホームドアの間の旅客取り残しを防ぐため、車両ドアが完全に閉まりきってから自動閉扉を行うほか、ホームドア本体の支障物検知センサが物体を検知した場合は一定区画のホームドアを開扉する機能も備わっているそうです。

3.2 各種センサの配置

準備中…

※同駅4番線のホームドア完成後(2026年4月稼働開始予定)にまとめて追記予定。

3.3 車体長の違いを活用した近鉄車・阪神車の判別

左:近鉄車到着時の表示灯
右:阪神車到着時の表示灯

鶴橋駅3番線では、車体長の違い活用した近鉄車・阪神車の判別を行っているのも特徴です。近鉄車と阪神車は車体長が異なるため、同じ編成両数でも全長の差は大きく[4]例として、8両編成の全長は近鉄車が約166m、阪神車が約151m。、ホームドアを制御する範囲も変えなければなりません。そのため、停止位置検知用センサを近鉄車と阪神車それぞれの車両連結部に複数設置し、どちらのセンサで車両連結部を検知したかによって車種を判別しています[5]例えば、阪神車の車両連結部を2か所以上の近鉄車用センサで検知することは物理的に有り得ない。

上記の方法によって車種を判別すると、在線検知センサが判定した編成両数に応じてホームドアが自動開扉します。その際、運転士向け・車掌向けそれぞれに設けられている3種類の表示灯のうち中央の表示灯には、近鉄車なら赤文字で、阪神車なら黄文字で編成両数が表示されます。

4 おわりに

以上のように、同駅3番線のホームドアは前代未聞の特殊すぎる配置によって、国内におけるホームドアの歴史に新たな1ページを刻んだと言っても過言ではないでしょう。しかし、旅客流動の大幅な悪化、視覚障害者が利用しにくいといった点で、稼働開始直後から批判の声も多く上がりました。近鉄としては、車両ドア位置の課題と昇降式ホーム柵を設置できない駅構造という大きな障壁に阻まれながらも、国のホームドア整備目標[6]政府は “1日当たり平均利用者数が10万人以上の駅について優先的な整備を行う” 方針を示している。を遂行するために捻りだした苦肉の策だったのかもしれません。

前述の通り、現在は同駅4番線(大阪線上りホーム)でも特殊配置ホームドアの設置工事が行われており、2026年4月の稼働開始が予定されています。また同駅に続いて、2025年度中には近鉄名古屋駅3番線乗車ホームでも特殊配置ホームドアが整備されました。

出典・参考文献

脚注

References
1 新幹線駅におけるセットバック配置は、ドア位置の問題よりも列車が高速通過するための安全対策が主な理由。
2 関西では南海電鉄や京阪電気鉄道が同社製ホームドアを採用している。
3 9~10両目には朝ラッシュ時に運行される10両編成しか停車しないため。
4 例として、8両編成の全長は近鉄車が約166m、阪神車が約151m。
5 例えば、阪神車の車両連結部を2か所以上の近鉄車用センサで検知することは物理的に有り得ない。
6 政府は “1日当たり平均利用者数が10万人以上の駅について優先的な整備を行う” 方針を示している。

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