阪神電気鉄道のホームドア:神戸三宮駅2番線の昇降式ホーム柵

タイプ 昇降ロープ式(支柱固定型)
メーカー 日本信号
開閉方式 開扉(上昇) 自動(定位置停止検知・両数検知)
閉扉(下降) 車掌手動操作
停止位置許容範囲 【推定】±550mm
開口部幅 最大約13m
ロープ素材 カーボンストランド
安全装置 ロープ近接検知
居残り検知
2Dセンサ

阪神電気鉄道の神戸三宮駅では、1・3番線に同社初の可動式ホーム柵(以下:ホームドア)が設置されています。その一方で、ドア位置が異なる近鉄車も発着する2番線には通常のホームドアが設置できないことから、JR西日本や近鉄などで実績のある「昇降ロープ式ホーム柵」が採用されました。

2番線は乗車ホームと降車ホームが分かれており、ホーム柵はどちらのホームにも設置されています。当初の稼働開始予定は2022年3月16日でしたが、機器の調整に時間を要したため当日に延期が発表され、11日遅れの3月27日に稼働開始となりました。

1 ホームドアの仕様

2009年3月の阪神なんば線開業によって近畿日本鉄道との相互直通運転が開始され、阪神線内にも近鉄の車両が乗り入れるようになりました。この直通運転が珍しいのは、以下のように両社の車両規格が全く揃っていない点です。

  • 阪神車:車体長約19m・片側3ドア
  • 近鉄車:車体長約21m・片側4ドア

そのため、阪神車・近鉄車どちらのドア位置にも対応できるホームドアには最大約13mの開口幅が必要となり、以前は技術的に設置困難とされていました。しかし、ロープ素材にカーボンストランドを使った昇降式ホーム柵であれば対応可能であることが検証されたため、2番線への設置が決まったとのことです。

メインポスト
サブポスト
ロープ上昇中の様子
上部にセンサがあるのがサブポスト

同駅で採用された昇降式ホーム柵は、近畿日本鉄道の大阪阿部野橋駅3・4番線で実績のある「支柱固定型」と呼ばれるタイプです。JR西日本などで採用されている「支柱伸縮型」と比較してホーム見通しが悪い点がデメリットとなる一方、ロープ本数が多いため防護性では優位といえます。さらに、筐体の線路方向のサイズが小さいため車両ドア位置と被らないように配置しやすい点も支柱固定型が採用された理由かもしれません。

ロープを昇降するモーターを内蔵したメインポストと、ロープのたわみを抑えるサブポストの組み合わせで1ユニットが構成されています。配置順は必ずメイン・サブ・メイン・サブ…となっていますが、配置間隔はかなりまちまちでした(2項の図を参照)。

配線類は頭上に束ねられている

近鉄阿部野橋駅とは違って筐体同士をつなぐ上部の配線ダクトは無く、それぞれの筐体から上方に向かって伸びている支柱に配線類が通されていました。

手前:近接検知センサ
奥:居残り検知センサ
近接検知センサの走査ライン

サブポスト上方には「近接検知センサ」と「居残り検知センサ」が設けられており、ホーム床面にあるオレンジ色のラインを支障すると昇降動作が一時停止します。

サブポストの非常解錠ボタン
下のセンサは列車の両数検知用?

2021年10月に発生した京王線刺傷事件を受けて、国土交通省は “列車のドアがホームドアとずれていても緊急時はドアを開けて乗客の避難誘導をする” との原則を示しており、それを踏まえてか同駅では筐体の線路側に「非常解錠ボタン」の位置を分かりやすく示すステッカーが貼付されていました。

2 車両ドアとの位置関係

上図は2番線降車ホーム側から見た筐体配置を表しており、左右反転すると乗車ホーム側から見た配置になります。前述の通り最大開口幅は約13mで、大阪梅田方に行くほど配置間隔も歪になっています。阪神車・近鉄車の6両・8両に加えて、本数は少ないものの発着がある阪神車の4両、さらに通常は入線しない山陽電気鉄道5000系にも対応しているようです[1]山陽5000系は阪神車より車体長が僅かに長いためドア位置も少しずれる。

各ポストには阪神車・近鉄車それぞれの乗車位置が記載されている

その一方で、団体臨時列車などで乗り入れることがある近鉄の特急型車両22600系「Ace」は一部のドアがホーム柵支柱と重なってしまいますが、当該ドアのドアカット等は行われていませんでした。Ace乗り入れ時の具体的な取り扱いは別記事で紹介しています。

3 ホームドアの開閉方式

ホームドアの開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉(上昇):自動(両数検知・定位置停止検知)
  • 閉扉(下降):車掌手動操作

方式自体は1・3番線と同じですが、使用されているセンサの種類や配置は異なっています。

定位置停止検知センサ
定位置表示灯と開閉表示灯(入線時の車掌向け)

定位置停止検知は終端部車止め上方にあるセンサで、両数検知はサブボスト下方にあるセンサで判定しているようです。2番線に到着した列車は、降車ホーム側→乗車ホーム側の順にドアが開けられますが、ホーム柵は列車が停止すると「2番線のロープが上昇します」という自動放送に続いて両側が同時に自動上昇します。

ITVモニタは乗車ホーム・降車ホームともに4画面
乗務員用操作盤
黒いバー状の部分全体がスイッチになっている

列車到着後、反対側の乗務員室に移動した車掌が乗車ホーム側の車両ドアを閉め、続いてホーム柵も閉めます。全ての折り返し作業を終えて出発する時も、同じく車掌が車両ドア・ホーム柵の順に閉扉します。旅客乗降中を知らせる表示灯・チャイムやITVモニタによって閉扉操作を行うタイミングをアシストしています。

乗務員用操作盤には緊急時に全ユニットを開けるため思われる「パニックオープン」というスイッチがありました。これも京王線刺傷事件を受けての対策でしょうか。

4 おわりに

現時点で今後のホームドア整備計画は発表されていませんが、近鉄車の乗り入れが続く限り、神戸三宮駅~尼崎駅間の快速急行停車駅には通常のホームドアを設置できません。いずれ設置されるとしたら今回と同じように昇降式ホーム柵になるのでしょうか。

出典・参考文献

脚注

References
1 山陽5000系は阪神車より車体長が僅かに長いためドア位置も少しずれる。

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