相模鉄道のホームドア:すべての車種に対応する地上完結型連携システム

相模鉄道では、2020年度からホームドアの本格的な整備が始まり、2024年度までに海老名駅を除く全駅の整備完了が予定されています。直通運転で乗り入れてくるさまざまな車両に対応するため、開閉方式には車両側への改造工事を伴わない地上完結型のシステムが採用されました。

1 地上完結型連携システムが採用された理由

相鉄は2019年からJR東日本と、2023年から東急東横線・目黒線方面と直通運転を開始しました。しかし、JR線系統・東横線系統・目黒線系統それぞれで車両に搭載している機器の仕様がバラバラなため、例えば相鉄がホームドア開閉システムとして最もポピュラーな「トランスポンダ式」を導入しようとすると、仕様を揃えるための車両改造が必要になります。

この課題を解決するため、車両側との通信を必要とせず、地上側設備のみでホームドア開閉を自動化できる「地上完結型ホームドア連携システム」が採用されました。これにより相鉄の自社車両も含めたすべての車両で改造工事を不要としています。

2 システムの仕組み

2.1 各種センサの概要

この方式は、地上側に設置された3種類のセンサによって列車の定位置停止やドア開閉を検知し、それに追従してホームドアを自動開閉させます。よって車掌がホームドアを操作する必要はありません。

すでに他の事業者でも実績のあった方式ですが、相鉄が2016年以降の新車およびリニューアル車に施している塗装色「YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマネイビーブルー)」は検知精度に影響を及ぼすことが事前検証で判明したため、検知アルゴリズムの改良で対策を行ったそうです。

(1)定位置停止検知センサ

定位置停止検知センサの外観
編成内1か所の車両連結部を測定

3Dセンサが車両連結部の位置(車体のエッジ部分で判定)を測定することで列車の定位置停止を検知します。設置場所は1ホームにつき1か所です。

(2)両数判定センサ

両数判定センサ
外観は各開口の支障物センサと瓜二つ
しかし開口部とは真逆を向いていたり、ホームの端っこに設置されているので判別できる

相鉄線では10両編成と8両編成が運行されるため、ホームの複数個所に設置した3Dセンサがその地点での車両の有無を検知して編成両数を判別します。これと前述の定位置停止検知センサの組み合わせによって、対応する範囲のホームドアを自動開扉したり、あるいは10両編成が誤って8両の停止位置に停止したような場合に自動開扉してしまうのを防ぎます。

(3)車両ドア開閉追従センサ

車両ドア開閉追従センサ
編成内3か所の車両ドアを測定

3Dセンサが車両ドアの開閉状態を測定し、車両ドアの動きに追従してホームドアを自動閉扉します。設置場所は1ホームにつき3か所の車両ドア上部で、多数決判定を行うことで冗長性が確保されています。

2.2 各種センサの配置

二俣川駅の各種センサ配置図

例として二俣川駅における各種センサの配置図を示します。センサの配置は駅・ホームによって異なりますが、ドア追従センサはかならず3か所の車両ドアを検知できる位置にあります。

3 乗務員表示灯

運転士向け表示灯
8両運転士向けなどはホームドア本体に設置
車掌向けは支障物センサボックスと一体化している

運転士用・車掌用それぞれに、定位置停止およびホームドア状態を示す表示灯が設置されています。列車発着時の表示内容の推移は以下の通りです。

  1. 列車が定位置範囲内に停止→「D」が点灯
  2. ホームドアが開扉→「」が消灯
  3. ホームドアが閉扉→「」が点灯
  4. 列車が定位置から離れる→「D」が消灯

これとは別に、後部の車掌用操作盤付近にもホームドア状態表示灯・定位置表示灯があります。そちらについてはホームドアのタイプごとの特集記事にて紹介しています。

4 半自動ドア扱い時の対応

操作盤上部の蓋が付いた部分に「半自動モード」ボタンがある

最新の12000系や20000系には、停車時間が長い駅での車内温度維持を目的として「半自動ボタン」が導入されました。しかし、ドア追従センサが機能したままだと、半自動ドア扱い時に一部の車両ドアが開閉されただけで全てのホームドアが連動してしまいます。

この対策として、車掌用操作盤には「半自動モード」というボタンが設けられていました。半自動モード実行中は車両ドアの状態にかかわらずホームドアが全開状態で固定されるのだと思われます。

5 駅ごとの違い

5.1 横浜駅

2016年に相鉄で初めてホームドアが設置された横浜駅。当初は開扉のみ自動、閉扉は車掌による手動操作でしたが、2020年6月からはドア追従センサの増設によって閉扉も自動化されました。よって現在の開閉方式自体は以降の設置駅と同じなのですが、使われているセンサの種類・表示灯などが全く異なっています

詳しくは別記事をご覧ください。

5.2 かしわ台駅2・4番線

相鉄のホームドアは運行管理システムなどと連動していないようで、回送列車や試運転列車であっても定位置に停止すると自動開扉してしまいます[1]その都度、車掌が操作盤の閉ボタンでホームドアを閉める必要がある。。ですが、かしわ台駅2・4番線はおもに車両センターに入出庫する回送列車が使用するためか、定位置に停止しても自動開扉しない設定となっていました

営業列車の場合どう取り扱うのかは確認できていませんが、車掌による手動操作でホームドアを開扉するか、あるいは車両ドア開扉をドア追従センサが検知して自動開扉するのだと思われます。

5.3 羽沢横浜国大駅のJR側発着時

2019年11月30日に開業した相鉄・JR直通線において、相模鉄道とJR東日本の会社境界となる羽沢横浜国大駅では、相鉄側とJR東日本側でそれぞれ異なるホームドア連携システムを使用します。相鉄方面からの到着時・相鉄方面への発車時は地上完結型システムですが、JR方面からの到着時・JR方面への発車時は総武快速線の新小岩駅で実績のある無線式ホームドア連携システムが採用されました。

システムの概要や、このような方式になった理由の考察などは別記事にまとめています。

5.4 新横浜駅

2023年3月18日に開業した相鉄・東急直通線の会社境界となる新横浜駅では、相鉄側の発着時についても東急側の標準方式であるトランスポンダ式連携が使用されていました。よって当記事で紹介した地上完結型システムの各種センサは設けられていません。

しかし、新横浜駅までは東急直通非対応の相鉄車やJR車も入線できるように設計されていて、開業前には実際に試運転も行われていました。これらの車両はトランスポンダ式に対応しているのかが気になるところです。

6 おわりに

『鉄道と電気技術』2020年6月号の「MEMSセンサーを用いた「地上完結型」ホームドア連携システム構築」には、前述したネイビーブルー塗装の検知精度に対する具体的な対策や試験結果が紹介されています。車両改造が不要になるとはいえ、すべての車種に対応できるシステムの実現は決して簡単ではないことが覗えました。

出典・参考文献

  • 髙橋 和幸「MEMSセンサーを用いた「地上完結型」ホームドア連携システム構築」『鉄道と電気技術』Vol.31-No.6、日本鉄道電気技術協会、2020年、p35-39

脚注

References
1 その都度、車掌が操作盤の閉ボタンでホームドアを閉める必要がある。

コメントする