東急電鉄 田園都市線・大井町線のホームドア:標準タイプ

東急田園都市線では、2017年10月22日稼働開始の駒沢大学駅を皮切りにホームドアの本格導入が開始されました。ドア位置が異なる6ドア車が引退してから設置されたため、2015年に先行設置された宮前平駅とは違って車両とホームドアの距離は離れていません。2019年度末の鷺沼駅を以て全駅整備が完了しています。

田園都市線と直通する大井町線でも、2016年3月30日稼働開始の溝の口駅上りホームを皮切りに本格導入が開始、2020年3月22日稼働開始の等々力駅を以て全駅整備が完了しています。2017年には急行列車が6両から7両に増結されるのに伴い、急行停車駅で1両分のホームドアが追設されました。

両線のホームドアはメーカーや仕様によって以下の4タイプに大別できます。

  • 田園都市線渋谷駅(ナブテスコ製・東京メトロ半蔵門線タイプ)
  • 田園都市線宮前平駅(日本信号製・6ドア車対応の特殊配置)
  • 大井町線大井町駅(東急車輛(現:J-TREC)製)
  • 上記以外の各駅(日本信号製)

当記事では渋谷駅・宮前平駅・大井町駅を除く各駅に設置された最も標準的なタイプについて、宮前平駅タイプとの違いを中心に紹介します。

1 ホームドアの仕様

田園都市線 大井町線
タイプ 腰高式
メーカー 日本信号
開閉方式 開扉 自動(車速検知・運行管理システム連動) トランスポンダ式連携
閉扉 車掌手動操作
停止位置 車種によって異なる(TASCなし) 【推定】±750mm(TASCなし)
開口部幅 2,890mm
寸法 筐体 【推定】高さ1.3m
【推定】高さ1.2m
非常脱出ドア 開き戸式(各号車連結部)
安全装置 支障物検知 3Dセンサ

宮前平駅と同じく日本信号製です。しかし細かく見比べると仕様はかなり変わっていて、このタイプが近年の日本信号製ホームドアのスタンダードにもなりました。

開口幅は宮前平駅の2,800mmに対して2,890mmと9センチだけ広くなっているそうですが、当然ながら見た目ではほぼ分かりません。両線はTASC(定位置停止支援装置)が未整備なので、東横線や目黒線よりかなり広いこの開口幅によって停止許容範囲も広く確保されています。

ホーム側から見た車両ドア間の筐体
ホーム側から見た車両連結部の筐体
線路側から見た車両ドア間の筐体
線路側から見た車両連結部の筐体

デザインについては基本的に装飾のない白一色です。例外は田園都市線・大井町線のホームが隣り合う溝の口駅・二子玉川駅で、田園都市線側のホームのみラインカラーであるグリーンの帯が施されています。

宮前平駅と同じく左右の扉を互い違いに収める筐体構造ですが、車両連結部に開き戸式非常脱出ドアが設けられた点が最大の違いです。車両ドア間の筐体も、ホームとの接合部の数が3か所から2か所に、点検パネルが3分割から2分割になるなどの違いが見られます。

車両連結部に収納される扉には補強用の部材があるため断面形状が異なる
非常脱出ドアはすべての車両連結部に設けられている

線路側の3D式支障物検知センサ・非常開ボタンは1か所の筐体に両側2開口分がまとめて設置されています。

開口部両側に貼られいる黄色と赤色のテープは東横線ホームドアにも設けられていて、停止位置がずれて車両ドアとホームドア筐体が重なっても、この範囲(約10cm)までは許容できることを意味していると思われます。

乗務員出入り用扉と車掌用操作盤(10両用)
赤と青のテープは停止許容範囲を示す(詳しくは後述)

田園都市線は10両編成で、そこへ大井町線の7両編成と5両編成も乗り入れるため、それぞれの前部・後部となる箇所は筐体をホーム内側にセットバックして乗務員出入りスペースが確保されています。

ホーム両端の乗務員出入り用の引き戸は、ある駅もあればない駅もありました。実際の乗務員交代時は隣接の開いている開口部から出入りしていることが多い印象なので、なくてもあまり影響ないのかもしれません。

収納された扉が脱出口を突き抜けている

東横線タイプなどとの大きな違いは、ホームドア開扉中は収納された扉が非常脱出ドアを塞ぐような状態となる点です。そのため、写真のようにホーム全長より短い編成両数が停車している時なども、脱出口を乗務員出入り口として使うことはできません[1]このような場合は近接する開口部を非常開ボタンで開けて出入りしていた。

7両分のホームに5両編成が停車中の様子
開いていない部分も含めてランプが点滅している

同タイプの特徴的な機能が、各開口の支障物センサによる乗降検知機能です。ホームのどこか1か所でも乗降客を検知すると、その間は筐体上部にあるオレンジ色のランプがホーム全体で点滅します。2022年末ごろからは東横線ホームドアにも似た機能が追加されましたが、そちらは乗降客を検知した箇所だけが点滅する仕様です。

車掌向け乗務員表示灯
乗降検知中は赤●が点滅

車掌向けの乗務員表示灯はセンサ部と一体化しています(運転士向けは別途設置)。上段のがホームドア閉状態を示すのは東横線などと同じですが、下段Dの点灯条件は開閉システムの違いにより田園都市線と大井町線で異なります。中段は乗降検知機能と連動しており、検知中はが点滅します。

2 ホームドアの開閉方式

2.1 田園都市線の車両と連動しない制御システム

田園都市線の現在のホームドア開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉:自動(車速検知・運行管理システム連動)
  • 閉扉:車掌手動操作

東横線や目黒線は「トランスポンダ式情報伝送装置」によって車両ドアとホームドアが同期して開閉します。しかし田園都市線にはこの装置が導入されておらず、かといって車掌が車両ドア・ホームドアをそれぞれ手動操作する方式はタイムロスが大きく過密ダイヤの田園都市線には不向きです。

そこで、ホーム上の列車検知センサを活用した新たなホームドア自動開扉システムが開発・導入されました。これにより膨大な費用・時間のかかる車両側の改造工事を不要として、ホームドア早期設置に貢献しています。

詳しいシステムの仕組みは今後別記事にて紹介する予定です。

2.2 大井町線の車両連携システム

大井町線もホームドア本格導入が始まった当時は田園都市線と同じ自動開扉システムが導入されました(溝の口駅は除く)。しかしその後、大井町線のすべての車両に改造工事が行われたことで、2019年3月に全駅のホームドアがトランスポンダ式連携に変更されました。よって現在は、車掌が車両側のドア開閉操作を行うとホームドアも同期して開閉します。

ただし、車両側が対応していても田園都市線に乗り入れる区間(二子新地駅・高津駅を含む)は地上側の設備がまだ整備されていないため、引き続き田園都市線方式で開閉を行っています。

3 車種によって異なる停止許容範囲

車掌はホーム床面の停止位置マーカーと乗務員扉のテープで停止位置を確認する
写真の東京メトロ08系は許容範囲が広い赤色グループ

田園都市線内における列車の停止許容範囲は、前述した余裕代(重なりを許容した範囲)を含めてかなり広めの±約900mmが基本です。しかし、各駅に設けられている停止許容範囲を示すマーカーは赤色と青色の2種類に分けられていて、青色は赤色より短い±約600mmとなっています

青色マーカーの許容範囲に該当する車両は、直通運転で乗り入れる東京メトロ8000系および東武50050系です。この2形式は他の車種と比べてドア位置が少し異なり、停止位置が大きくずれた場合はホームドア筐体との重なりも大きくなりすぎてしまうため、許容範囲が制限されているのだと思われます。

車両ドア位置についての詳細は今後別記事にまとめる予定です。

4 両線で異なるQシートの対応

溝の口駅におけるQシート発着時の様子(2023年2月25日撮影)

平日夜の大井町駅発長津田行き急行列車の一部は、3号車に有料座席指定サービス「Qシート」が設定されています。大井町駅における誤乗防止の対応は以前紹介しましたが、それ以外の途中停車駅は区間によって対応が異なっています。

大井町線内(旗の台駅~二子玉川駅)

当初は全停車駅で全ドアを開けていましたが、新型コロナウイルス感染拡大によるサービス休止から再開されると同時に[2]2020年4月27日から休止、同年10月12日から再開。、大井町線内の途中停車駅ではトランスポンダ式連携による制御で車両ドア・ホームドアともに1番ドア(大井町方)のみが開くように改修されました[3]当初は6020系のみ対応、のちに6000系も対応。

田園都市線内(溝の口駅~長津田駅)

トランスポンダ式連携ではない田園都市線内はシステム的にドアカットが難しいためか、降車専用駅の溝の口駅・鷺沼駅においても全ての車両ドア・ホームドアが開きます。代わりにホームの係員3人と車内アテンダントの計4人が4か所のドア前に立って誤乗を防いでいました。

現在、鷺沼駅より先の停車駅(たまプラーザ駅~長津田駅)は指定券不要のフリー乗降区間ですが、2023年3月18日ダイヤ改正以降はフリー乗降区間が廃止され、この区間も全て降車専用駅となります。誤乗防止の対応はどうするのでしょうか?

5 おわりに

冒頭でも述べた通り、このタイプは近年の日本信号製ホームドアのスタンダードにもなっていて、東武鉄道や相模鉄道、Osaka Metro御堂筋線などのホームドアが比較的類似しています。

そして、2023年3月18日に開業する相鉄・東急直通線の新横浜駅・新綱島駅にも、同タイプをベースとしたホームドアが採用されました。しかしその仕様は、東急仕様と相鉄仕様を混ぜ合わせたような独特な形態となっているようです。

出典・参考文献

脚注

References
1 このような場合は近接する開口部を非常開ボタンで開けて出入りしていた。
2 2020年4月27日から休止、同年10月12日から再開。
3 当初は6020系のみ対応、のちに6000系も対応。

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