東急電鉄 田園都市線のホームドア:速度を測って自動開扉 車両と連動しない制御システム

東急田園都市線では、2015年度から2019年度末までの間に全27駅でホームドアが整備されました。早期設置に向けたさまざまな工夫の一つとして開発・導入されたのが、車両ドアとホームドアを連動させるための大規模な車両改造を不要とする、ホーム上の列車検知センサを活用した新たなホームドア自動開扉システムです。

1 導入の経緯

東急電鉄は2015年1月、2020年を目標に東横線・田園都市線・大井町線全駅へのホームドア設置を決定します[1]2017年5月には設置完了時期を2019年度末まで前倒し。。田園都市線においてはホームドアに対応できない「6ドア車」を置き換えることで設置を可能にしましたが、なおも別の課題が残っていました。それは車両ドアとホームドアの開閉連携です。

東横線や目黒線は「トランスポンダ式情報伝送装置」を用いて車両ドアとホームドアを連携したり、TASC(定位置停止支援装置)の制御に必要な停止位置までの距離情報を受信します。しかし田園都市線にはこの装置が導入されておらず、導入するには直通運転で乗り入れる東京メトロ半蔵門線・東武鉄道の車両も含めて改造工事が必要になるため、莫大な費用・期間が見込まれました。

そこで、TASCを導入しない代わりに大開口のホームドアを採用して停止精度に余裕を持たせるとともに、車両と連携しないホームドア自動開扉システムを導入することで、一切の車両改造を不要としながらホームドア本格導入を実現しました。当初は大井町線も同じ方式でしたが、車両改造が完了したため2019年3月からトランスポンダ式連携に変更されています[2]TASCは2023年4月時点でも未導入。

なお、田園都市線と直通する東京メトロ半蔵門線のホームドア[3]2017年度から整備開始。も車両と連動しない方式を採用していますが、その仕組みは田園都市線と全く異なるものになりました。渋谷駅については、東急管轄の駅でありながらホームドア本体および開閉システムは半蔵門線仕様となっています。

2 システムの仕組み

2.1 概要

田園都市線のホームドア自動開扉システムは、ホーム上に設置された3つの列車検知センサと運行管理システムとの連動によって構成されています。また、名前の通り自動で行うのは開扉のみで、閉扉は車掌による手動操作で行っている点が特徴です。

列車到着時の動作は次の通りです。

田園都市線ホームドア自動開扉システムのしくみ

⓪運行管理システムから次列車の情報を受信

まずは列車入線前に、運行管理システムから次列車の編成両数および列車種別(停車列車かどうか)を受信することで、ホームドア開扉の可否や何両分を開扉するかを事前にセッティングします。

①Cセンサ通過でシステムスタンバイ

ホーム後方(進入側)に設けられたCセンサが列車の入線を検知すると、このシステムの要である低速度検知機能がスタンバイ状態となります。

②Bセンサ→Aセンサの平均速度で低速度検知

停止位置約20m手前にBセンサ、約10m手前にAセンサが設けられており、列車がこの2点間を通過する時間差によって平均速度を算出します。その判定結果が20km/h以下であれば次の自動開扉動作に移ります。

③低速度検知から7秒後に自動開扉

低速度検知から7秒経つとホームドアは自動開扉動作を開始します。こうすることで、運転士が標準的なブレーキ操作を行えば列車の定位置停止とだいたい同じタイミングで開き始めるようになっています。ただし7秒というのはあくまでも標準で、入線速度が遅い駅ではさらに多く時素が加えられていました。

Aセンサ・Bセンサの正式名称は「停止検知センサ」
Aセンサ・Bセンサの設置個所(高津駅にて)
他のセンサはいずれも支障物検知センサ

Aセンサ・Bセンサの正式名称は「停止検知センサ」と書かれていて、基本的にはホームドア筐体に設置されています。開口部の支障物検知センサと同じく日本信号の3D距離画像センサが使用されており、外観は瓜二つですが、開口部とは真逆を向いていることから容易に判別ができます。

Cセンサの正式名称は「自動閉検知センサ」
Cセンサの設置個所(つくし野駅にて)

一方で、ホーム後方にあるCセンサの正式名称は「自動閉検知センサ」と書かれています。詳しくは後述しますが、最初期には実際にCセンサを用いて自動閉扉を行っていた駅がありました。しかしセンサの名称は車掌による手動操作となってからも「自動閉検知センサ」のままです。もしかすると現在も、万が一ホームドアを閉め忘れたまま出発した時のバックアップ的機能が存在するのかもしれません。

2.2 列車検知センサの配置

列車検知センサの配置は、設置時期による仕様の変化や、駅・ホームごとの停止位置設定によって異なっています。例として、駒沢大学駅・溝の口駅・南町田グランベリーパーク駅の各種センサ配置図を作成しました。

駒沢大学駅の各種センサ配置図

駒沢大学駅は田園都市線ホームドア本格導入第1号の駅です(先行設置された宮前平駅を除く)。渋谷駅~二子玉川駅間は全列車が10両編成で運行されるため、各種センサも10両だけに特化した単純な配置となっています。

溝の口駅1・4番線(田園都市線ホーム)の各種センサ配置図
記号がまっすぐな箇所はホーム上屋から設置、斜めの箇所はホームドア筐体に設置されていることを表す

同じく比較的初期に設置された溝の口駅は、各種センサがホームドア筐体ではなくホーム上屋から吊り下げられているのが特徴です(4番線の一部を除く)。二子玉川駅以西は大井町線からの7・5両編成も乗り入れるため、Aセンサ・Bセンサは各両数の停止位置ごとに設けられています。現在は消滅した6両編成ですが、2023年2月時点でも6両用センサは現存していました。

南町田グランベリーパーク駅の各種センサ配置図

最後に南町田グランベリーパーク駅です。大井町線の5両編成が営業運転で乗り入れるのは鷺沼駅までなので、同駅以西の各駅は5両用のAセンサ・Bセンサが設けられていません[4]同様に、7両編成の急行が停車しない各駅には7両用センサが設けられていない。。1番線と2番線では停止位置の違いによってセンサの配置・数も異なっていることが分かります。

2.3 乗務員表示灯

列車到着時の表示推移
ホームドア閉扉で②に、列車がホームを離れると①に戻る

運転士用・車掌用それぞれに乗務員表示灯が設置されています。他路線でもよく見られる仕様ですが、一般的には列車が定位置範囲内に入ったことを検知したらDが点灯するのに対して、田園都市線では低速度検知がOK判定となったタイミングでDが点灯するのが特徴です。

3 手動開扉が必要な例

以上のように、田園都市線のホームドアシステムは、運行管理システムからの情報と列車の低速度検知によって自動開扉するかを決めるという独特な方式となっています。それが原因で、シチュエーションによっては自動開扉が行えず車掌による手動操作で開扉しなければなりません。

(1)低速度検知がNG判定だった場合

低速度検知の結果が20km/h以上だと「停止できない=オーバーランの可能性が高い」と判断されて自動開扉機能は無効になるので、結果的にオーバーランした場合はもちろん、ギリギリ定位置に止まれたとしても自動開扉しません。

(2)臨時停車などの場合

本来その駅を通過する列車が臨時停車した場合や、回送列車・臨時列車などの場合は自動開扉しません。実例の一つとして、2017年~2019年にかけて毎年期間限定で運行された臨時列車「時差Bizライナー」は運行管理システム上「回送」扱いだったため、各停車駅でのホームドア開扉は手動操作だったようです。

なお、自動開扉が無効であっても低速度検知がOK判定ならDは点灯します。ただし、7両・5両が通常停車しない駅など、対応するAセンサ・Bセンサが無い場合は当然ながら低速度検知も行えません。

(3)車庫からの出庫列車

車庫からの出庫列車が入線した場合などは、運行管理システムでまだ列車情報が決定されていないためなのか自動開扉しません。この場合でも、対応するAセンサ・Bセンサがあれば低速度検知は機能します。

4 なぜ確実ではないシステムを導入したのか

4.1 本来の姿は「ながら開」「ながら閉」方式?

このシステムを一言で表すなら確実ではない方式と言えるでしょう。前項のように自動開扉できない場合もある一方で、低速度検知がOK判定になった後で運転士がブレーキ操作を誤れば、停止位置がずれた状態でホームドアが開いてしまうことになります。近年では確実な定位置停止を検知してからホームドアを自動開扉するシステムが広く普及しており、渋谷駅を含む半蔵門線のホームドアも同様のシステムです。そちらの方がよっぽど確実なのは明白なのに、なぜ田園都市線は確実ではない方法を採用したのでしょうか?

そのカギを握るのが、2015年に田園都市線最初のホームドアが設置された宮前平駅です。同駅では当初、列車が止まりきる前に自動開扉、列車が動き出してから自動閉扉という特殊な取り扱いが採用されました。すなわち、現在のシステムとは違って低速度検知後すぐに自動開扉を開始し、出発時はCセンサが車両を検知しなくなったタイミングで自動閉扉していました。

列車が動いていながらホームドアを開閉することから、技術情報誌では「ながら開」「ながら閉」とも表現されていたこの方式。正確には2013~2014年度にかけてつきみ野駅で行われた「昇降ロープ式ホームドア」の実証実験で初めて使用され、宮前平駅での本格的な採用に至りました。

この方式が採用された理由は「停車時間の増加を抑えるため」です。田園都市線のような過密ダイヤの路線では、ホームドア開閉に伴う僅かなタイムロスも路線全体のダイヤに大きく影響してしまいます。列車が動いている間にホームドアを開閉すればタイムロスはゼロに等しいため、田園都市線にとって最適と言える方式でした。

4.2 大井町線導入時の仕様変更、そして現在の方式へ

しかし、2016年度から大井町線のホームドア本格導入が始まると、開閉方式は短期間でたびたび変更されることになります。最初期にホームドアが設置された緑が丘駅と尾山台駅では、駅掲示のお知らせにて宮前平駅と同様の開閉方式になることが予告されていましたが、いざ稼働開始すると現在と同じく低速度検知から7秒後に開扉する仕様だったのです。

一方、閉扉は記載通りCセンサによる自動閉扉でしたが、これも稼働開始から数か月のうちに車掌手動操作へと変更されてしまいました。そして以後設置された大井町線・田園都市線のホームドアはこの開閉方式が標準となり、宮前平駅でも2019年2月10日から他駅と同じ方式に変更されたことで「ながら開閉方式」は消滅しました。

ここからは推測になりますが、初期の大井町線における動きを見ると、当初は田園都市線・大井町線の全駅で「ながら開閉方式」を導入する予定だったのではないでしょうか。しかし安全性や運用面に何かしらの懸念が生じたため、システムの基本構成はそのままに通常と変わらない開閉動作になるように工夫したのだとすれば、現在の方式になったのも納得がいきます。

5 おわりに

唯一無二のホームドア開閉方式で日々の過密ダイヤを乗り切っている田園都市線。すでに一部の新型車両などはトランスポンダ装置を搭載していることから、そろそろ大井町線に続いてトランスポンダ連携化の動きがあるかもしれません。2028年度には半蔵門線と同時に新たな信号保安システム「CBTC(無線式列車制御システム)」が導入予定なので、遅くともこのタイミングまでには実施される可能性が高いと予想しています。

出典・参考文献

脚注

References
1 2017年5月には設置完了時期を2019年度末まで前倒し。
2 TASCは2023年4月時点でも未導入。
3 2017年度から整備開始。
4 同様に、7両編成の急行が停車しない各駅には7両用センサが設けられていない。

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