相模鉄道・東急電鉄のホームドア:新横浜駅の仕様

タイプ 腰高式(一部二重引き戸タイプ)
メーカー 日本信号
開閉方式 トランスポンダ式連携
停止位置許容範囲 相鉄側と東急側で異なる?(TASCあり)
開口部幅 基本 2,890mm
2~4番線の大開口部 3,500mm
非常脱出ドア 開き戸式(各号車連結部)
支障物検知センサ 3Dセンサ

2023年3月18日、相模鉄道の羽沢横浜国大駅から東急電鉄の日吉駅を結ぶ「相鉄・東急直通線」が開業し、東急東横線・目黒線と相鉄線の直通運転が開始されました。正式な路線名は、西谷駅~羽沢横浜国大駅~新横浜駅は相鉄が管轄する「相鉄新横浜線」、新横浜駅~新綱島駅~日吉駅は東急が管轄する「東急新横浜線」です。

新駅の新横浜駅と新綱島駅には当初からホームドアが整備されています。東急と相鉄の会社境界となる新横浜駅のホームドアは、両社それぞれのデザイン・仕様が混ざり合ったとても独特な形態となりました

1 ホームドアの仕様

1.1 基本仕様

新横浜駅のホームドアは場所や番線ごとにさまざまな違いがあったので、1.1項で基本的な仕様を、1.2項~で同駅ならではの特徴的な部分を紹介します。

外観からメーカーは日本信号と推測されます。相鉄は横浜駅を除く各駅で、東急は田園都市線・大井町線で同メーカー製ホームドアを採用していますが、新横浜駅は全体的に東急寄りの仕様ながら部分的に相鉄の要素が加わっているような印象でした。

ホーム側から見た車両ドア間の筐体
ホーム側から見た車両連結部の筐体
線路側から見た車両ドア間の筐体
線路側から見た車両連結部の筐体

(1)塗装

田園都市線・大井町線タイプ(以下:田都タイプ)は白色、相鉄タイプは濃いグレーに塗装されていますが、新横浜駅は扉部分が白色、筐体部分がグレーというまさにミックスしたようなデザインとなりました。筐体線路側の左右に赤と黄色のテープが貼ってあるのは東急側の仕様です。

(2)扉の透過ガラス部

田都タイプは有り、相鉄タイプは現代にしては珍しく無しですが、新横浜駅は田都タイプと同じく有りでした。

(3)開口幅

田都タイプは約2.9m、相鉄タイプは約2.6mです。この違いはTASC(定位置停止装置)の存在が大きく関係していて、田園都市線・大井町線はTASCが未整備なので、開口幅を広げることで停止許容範囲に余裕を持たせています。しかし、新横浜駅および新綱島駅はTASCが整備されているのに田都タイプと同じ開口幅でした。

(4)車両連結部の非常脱出ドア

田都タイプは有り、相鉄タイプは無しですが、新横浜駅は田都タイプと同じく有りでした。京王線刺傷事件(2021年)などを受けて2022年に国交省が制定したガイドラインに基づき、非常口のピクトグラムが設けられています。また、これとは別にホーム両端にも乗務員出入り口を兼ねた非常脱出ドアがある他、2項で紹介するように6両編成下り方先頭車部分は特殊構造となっています。

(5)支障物検知センサ・非常開ボタン

各開口部の支障物検知センサ・非常開ボタンは1か所の筐体に両側2開口分がまとめて設置されていて、この配置はメーカーの標準仕様なのか田都・相鉄・新横浜駅いずれも同じです。非常脱出ドアと同じく国交省ガイドラインに基づいた表示が設けられています。

ホームドア開扉中に支障物センサが乗降客を検知すると、筐体上部にあるオレンジ色のランプが点滅します。この機能は東急側に準じたものですが、田都タイプはどこか1か所でも検知するとホーム全体で点滅するのに対して、新横浜駅および新綱島駅は東横タイプと同じく該当する部分のみが点滅します。

(6)各種案内表示

同駅の駅名標はどちらの標準でもないオリジナルデザインが採用されており、ホームドア筐体の線路側に貼られている駅名標も同様です。乗車位置表示など筐体ホーム側に貼られている表示類は東急標準のフォーマットが用いられています。

1.2 特殊構造の配置図

新横浜駅ホームドア 特殊構造の配置図

新横浜駅は1~4番線までホームがあり(2・3番線は線路の両側にホームがある中線構造)、原則として1・2番線が相鉄方面、3・4番線が東急方面のホームとして使われます。大半の箇所は1.1で紹介した基本的な仕様ですが、上図のように一部の箇所だけは開口幅が違ったり特徴的な構造となっていました

1.3 6両先頭部の二重引き戸式片開きドア

二重引き戸式片開きドア
左はその原因となった非常脱出ドア

同駅で一番特徴的なのが、6両編成の下り方先頭車部分となる7号車4番ドアは二重引き戸式の片開きドアとなっている点でしょう。二重引き戸式片開きドアが設けられるのは今年2月に稼働開始された小田急電鉄本厚木駅に次いで全国2例目です。

このような構造になった理由は、すぐ隣に乗務員出入り口兼非常脱出ドアが設けられているためだと分かります。しかし6両先頭部だけが特殊構造となったのは、ホーム幅員が関係していました。

車両側の乗務員扉とほぼピッタリ重なるように配置されている
通常の2倍近くありそうな筐体厚み
すぐ横が階段のためホーム幅員が狭い

一般的には筐体をホーム内側にセットバックすることで乗務員出入りスペースを確保します。同駅も10両・8両の先頭車部分はそうしていますが、6両先頭部の横にはちょうど階段があり、ここで筐体をセットバックしてなおかつ他の車両連結部と同じ開き戸式非常脱出ドアを設けるとホーム幅員が足りなくなってしまいます。そこで、非常脱出ドア兼乗務員扉を引き戸式にすることで幅員を確保しましたが、それにより隣接開口部の戸袋が設けられないため片開き扉を採用したそうです。

ちなみに、ここの開口幅は通常よりも狭く(約2.6m)、二重引き戸を収める筐体の線路方向サイズが長いことが影響して隣の7号車3番ドアもやや狭くなっていました(約2.7m)。

1.4 1番線と2~4番線の違い

前項の片開きドアは4ホームとも共通ですが、1番線と2~4番線では以下のような違いがありました。

(1)そもそも建築限界が違う

4番線と1番線のホームドア位置を比較
離隔がかなり異なっている

地味ながら最大の違いはホーム端からの離隔です。1番線と他の番線を見比べると、1番線は筐体からホーム端までの距離が狭く見えました。これには東急と相鉄の車両最大幅の違いが深く関係しています。

相鉄方面から同駅まではダイヤ乱れ時などに東急直通非対応の車両も入線することを想定していますが、東急の車両最大幅は約2.8mなのに対して相鉄の直通非対応車は約3mと広いため、新横浜駅を境にトンネルのサイズ等も含めて建築限界が異なります。しかし、1番線だけは直通非対応車の入線を考慮していないことから東急の建築限界で作られているそうです。

(2)1・10号車大開口部の有無

左:2番線 右:1番線
線路側から見た大開口部

相鉄方面から入線する可能性がある車両のうち、相鉄12000系やJR東日本E233系は先頭車ドア配置が変則的となっているため、1番線以外の3ホームは1号車1番ドア・10号車4番ドアを幅3.5mの二重引き戸式大開口ドアとしています。これは相鉄線内のホームドアと同じ構造です。

(3)1・10号車は全体的な寸法も違う

写真は3番線で撮影
1・10号車部分の構造は相鉄タイプと一致している

異なるのは大開口部だけではありません。簡単に言えば、2~4番線は1・10号車部分の全体が相鉄タイプと同じ構造でした。筐体の線路方向サイズが基本より長く、ホームとの接合部が3か所に増えていること、それにより開口幅はやや狭くなっていることが特徴です。

2 ホームドアの開閉方式

2.1 開閉方式の概要

新横浜駅・新綱島駅のホームドア開閉方式は、もともと東急東横線・目黒線で採用されているトランスポンダ装置を用いた情報伝送で車両ドアと同期するシステムです。列車が許容範囲内に停止すると、線路側の地上子と上り方先頭車(1号車)に搭載された車上子がピッタリ重なって開閉連携が可能になります。

2.2 東横線と目黒線で車上子の位置が違う問題

目黒線系統と東横線系統の車上子取り付け位置の違い
新横浜駅・新綱島駅の停止位置設定と地上子配置の関係を表したイメージ図
ホームドア地上子だけでなくTASC距離補正地上子も別々に設けられている

トランスポンダ装置はホームドア開閉連携のほかにも、TASC(定位置停止支援装置)に必要不可欠な距離情報を送受信する役割を担います。しかし、歴史的な経緯によって目黒線と東横線では地上子・車上子の基準位置が異なるため、両線路が合流する新横浜線では以下のような方法で対処しました。

  1. 目黒線系統は6両または8両、東横線系統は10両のみとする
  2. 各駅の停止位置を目黒線6/8両と東横線10両で1両分ずらす
  3. それぞれの基準位置で別々の地上子を設ける

つまり、目黒線系統と東横線系統で両数をきっちり分けて、車上子を搭載している上り方先頭車が1両分ずれるように停止位置を設定することで、同じ地上子を共有しないようにしています。

そもそも車上子の位置が異なる理由などは2022年1月投稿の記事をご覧ください。

2.3 相鉄側も地上完結型システムではない

数メートル離れて設置されている2つのホームドア地上子
両者の間にある小さい地上子は東急側のTASC距離補正用地上子
相鉄用のホームドア地上子(と思われるもの)
相鉄20000系の1号車床下
台車左側は直通先で使用される車上子。見えにくいが台車右側に相鉄線内用のATS-P車上子がある

相鉄線内のホームドア開閉方式は、列車の定位置停止やドア開閉をセンサが検知してホームドアを自動開閉する「地上完結型システム」ですが、新横浜駅は東急側・相鉄側どちらの発着時もトランスポンダ式連携でした

その一方で、新横浜駅の上り方停止位置付近には、東急側の基準位置にある地上子とは別に、「相鉄」と書かれた地上子が設置されていました[1]3線すべて、なおかつ8両停止位置・10両停止位置ともに設置。。それは車両の乗務員室直下、相鉄側の運転保安装置であるATS-P車上子とピッタリ重なる位置にあります。

つまり「東急方面からの到着時・東急方面への出発時」と「相鉄方面からの到着時・相鉄方面への出発時」では別々の地上子~車上子でドア開閉情報を通信しているのかもしれません。東急用の車上子を搭載していない相鉄車・JR車も連携できるのどうかが気になるところです。

2.4 停止許容範囲はの違い?

新横浜駅3番線の6・8両停止位置マーカー(相鉄方面からの入線時用)
長さが相鉄向け<東急向けとなっている

相鉄線・目黒線・東横線はいずれもTASCを導入していて、性能上の停止精度は相鉄線・目黒線が±350mm、東横線が±450mmです。しかし、同駅の運転士向け停止位置マーカーを見比べると、東急側と相鉄側でマーカーの長さが明らかに違いました。相鉄側は基準通りの許容範囲±350mmに見えますが、東急側は目黒線系統も東横線系統と同じくらい広めの許容範囲となっています。

なお、隣の新綱島駅については目黒線系統と東横線系統がそれぞれ基準通りの許容範囲であるため、同じ会社・同じ線路・同じホームなのに運行系統によって停止許容範囲は異なるという特徴があります。

2.5 乗務員操作盤・表示灯など

シンプルな乗務員操作盤(10両用)
降車確認ボタンは押すと上部のランプが光る

各編成両数の前部・後部には乗務員操作盤が設けられています。通常は使用されないためか、東急大井町線で使われているタイプをさらに簡素化したような構造です。

東急側は当初から全列車でワンマン運転を行っていることに関連して、下り方操作盤付近には「降車確認ボタン」が設置されています。これは、相鉄→東急方面の直通列車が到着した際、相鉄の車掌がちゃんと降りたことを運転士に伝えるためのものです[2]東横線渋谷駅などにも設置されていた(東京メトロ副都心線がワンマン運転を行っているため)。

定位置停止を示す「D」が点灯し、乗降検知の赤「●」が点滅中の状態

ホームドア開閉状態などを表示する乗務員表示灯は以下の箇所に設置されていました。

  • 各番線の10両・8両最後部
  • 3番線側の6両最後部
  • 2・3番線の上り方ホーム前方

相鉄には乗り入れない6両編成用や、中線の上り方だけ運転士向けにも設置されているなど不思議な配置です。相鉄の車掌だけでなく東急の運転士も何らかのタイミングでこれを確認するのでしょうか?[3]ワンマン運転を行う東急側は、基本的に運転台パネルでホームドアの状態を確認する。

なお、田都タイプと同じく各開口部の乗降検知機能と連動して中段のが点滅する仕様でした。

3 おわりに

会社境界駅に設置されるホームドアは両社それぞれの事情を加味した独自仕様になることは多いですが、ここまで特徴の多いホームドアも中々ないと思います。同日に開業したJR大阪駅地下ホームの可変式フルスクリーンホームドアのほうが断然注目度は高いですが、一見普通のホームドアでも興味深いポイントは沢山あることを当記事で知って頂けたら幸いです。

出典・参考文献

脚注

References
1 3線すべて、なおかつ8両停止位置・10両停止位置ともに設置。
2 東横線渋谷駅などにも設置されていた(東京メトロ副都心線がワンマン運転を行っているため)。
3 ワンマン運転を行う東急側は、基本的に運転台パネルでホームドアの状態を確認する。

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