東横線8両編成は本当に新横浜線に入れないのか 設備面から考察

まもなく開業から1ヶ月を迎える相鉄・東急直通線(新横浜線)。この路線に今のところ乗り入れる気配がない東横線系統の8両編成は「入線できない」のか、それとも「できないことはない」のでしょうか。理由として有力視されている車上子位置の問題とともに、設備面を観察したうえで改めて考察します。

1 はじめに

東急側から相鉄に直通できる車両は目黒線系統の3000系・5080系と東横線系統の5050系4000番台(10両編成)のみで、その他の車両(東京メトロなどの他社車も含む)は相鉄の運転保安システムや列車無線に対応していないため、東急の管轄区間である新横浜駅までが入線可能な範囲となっています。

しかし、東横線系統の各駅停車を中心に使用される8両編成[1]東急5050系・横浜高速鉄道Y500系・東京メトロ17000系の3車種。は営業運転で入線しないどころか、試運転でも1度きりしか入線したことがありません[2]2023年1月8日に5050系5178Fが入線。。定期運用が無い東武鉄道・西武鉄道などの他社車両でさえも試運転では度々入線したのに、東横線8両だけが入線しないのは意図的に入線を避けているようにも見えてきます。

ただし、こうなることは開業前からある程度予想していました。その理由は当サイトで何度も取り上げてきた「車上子位置の違い」です。

2 東横線と目黒線で車上子の位置が違う問題

2.1 開業前の予想

目黒線系統と東横線系統の車上子取り付け位置の違い

当サイトでは2022年1月に “相鉄・東急直通線の運行形態には車両床下の車上子位置が影響するかもしれない” という考察記事を投稿しました。今一度その内容を振り返ります。

東横線系統と目黒線系統の上り方先頭車には、TASC(定位置停止装置)やホームドア開閉連携などの情報を地上側とやり取りするトランスポンダ装置の車上子が搭載されています。しかし歴史的な経緯によって、目黒線と東横線ではその取り付け位置が僅かにずれてしましました。元記事には記載していませんでしたが、その後取り寄せた資料によって正確なずれ量は415mmだと分かりました。

例えば、駅手前の地上子がTASCブレーキを作動させるために「停止位置まで残り○○m」という情報を送信しても、それを受信する車上子の位置が違えば最終的な停止位置も415mmずれてしまいます。何とかして正しい位置に停めたとしても、今度はホームドア地上子との位置がずれるので開閉連携ができません。東横線と目黒線の車両が同じ線路上を走る新横浜線内ではこうした問題が発生すると考えられたのです。

2.2 開業後の答え合わせ

新横浜駅・新綱島駅の停止位置設定と地上子配置の関係を表したイメージ図
ホームドア地上子だけでなくTASC距離補正地上子も別々に設けられている

上記の問題を解消する方法として元記事で予想したのが「東横線8両は新横浜線入線不可とする」説です。そして現実はその予想通りとなりました。理屈は以下の通りです。

  1. 目黒線系統は6両または8両、東横線系統は10両のみとする
  2. 新綱島駅・新横浜駅の停止位置を目黒線6/8両と東横線10両で1両分ずらす
  3. それぞれの基準位置で別々の地上子を設ける

目黒線系統と東横線系統で両数をきっちり分けて、車上子を搭載している上り方先頭車が1両分ずれるように停止位置を設定すれば、同じ地上子を共有することはありません。つまり、東横線8両が新横浜線に乗り入れないのは「目黒線系統と両数が被ってしまうため」という理由が最も有力と言えるでしょう。

3 本当に東横線8両は新横浜線に入れないのか

では、大幅なダイヤ乱れなどでやむを得ない場合も、営業運転で新横浜方面に入線することは不可能なのでしょうか。そもそも東横線と目黒線のトランスポンダ装置に互換性があるかどうか素人には分かりかねますが、ひとまず互換性があると仮定したうえで、この問題を力業で乗り越える方法を考えていきます。

(1)あえて停止位置をずらす方法

新横浜駅のホームドア開口部
確かに停止位置が415mmずれても乗降に支障は無さそうだが・・・

まずは「停止位置がずれてしまうのならそれを許容してしまえ」というシンプルな方法を考えてみます。ここで重要になるのが新横浜駅・新綱島駅に設置されたホームドアです。目黒線や東横線の既設ホームドアと新横浜線のホームドアを比較すると、以下のように開口幅がやたらと広く確保されているのが分かります。

  • 目黒線タイプ:2.0m
  • 東横線タイプ:2.48m
  • 新横浜線タイプ:約2.9m

車種によるドア位置の違いを踏まえても広すぎるように思えるため「東横線8両があえて停止位置をずらせるようにしているのではないか」という予想がSNS上でも多く見受けられました。しかし、新横浜駅・新綱島駅ともにあえてずらすための停止位置目標は見当たりません。TASCがあるとはいえ停目は必要ですから、それが無いということはこの説の可能性は低いと考えられます。

(2)10両と同じ停止位置に止める方法

次に「東横線8両は10両編成の停止位置に止めてしまえ」説です。両数ではなく系統によって停止位置を分ければ車上子位置は揃うという考え方で、これもSNS上で多く見受けられました。しかし、同じ8両編成なのに目黒線系統と東横線系統で停止位置が異なるのは乗客にとっても運転士にとっても紛らわしく、現実的に考えてやりたくはない方法でしょう。それに(1)と同じくそれらしき停目がないため可能性は低いと考えられます。

(3)運転士の手動操作に任せる方法

結局はTASCもホームドア連携機能も使わないマンパワー運転が一番現実的だと思います。ただし新横浜線はワンマン運転を行っています。本当にこれをするなら、運転士が運転席を離れてホームドア操作盤を押しに行く必要があるため、ドア開閉に相当なタイムロスが発生するでしょう。

ちなみにですが、ワンマン運転で運転士が直接ホームドアの操作盤を扱う事例はJR九州に存在しています。

4 おわりに

以上のように色々と考えてみましたが、どの方法にしても特殊な取り扱いは必須なので「営業運転では意地でも入線させない」のが最も合理的な方法かもしれません。今月10日には沿線火災により東横線のダイヤが大幅に乱れましたが、今後さらに大規模なトラブルが発生したとしても、やむを得ないときは営業運転を打ち切って回送で入線させるのが無難だと思います。

出典・参考文献

脚注

References
1 東急5050系・横浜高速鉄道Y500系・東京メトロ17000系の3車種。
2 2023年1月8日に5050系5178Fが入線。

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