東急電鉄 大井町線のホームドア:開閉方式にまつわる怪しい動きまとめ

東急大井町線では、2012年3月3日に大井町駅で線内初のホームドアが稼働開始されました。その後は2016年から本格導入が始まり、2020年3月末までに全駅整備が完了しています。

現在のホームドア開閉方式はトランスポンダを用いて車両ドアと連携する仕組みですが、2019年3月以前は駅ごとに方式が異なっていました。しかも短期間でシステムや取り扱いが度々変更されていたことから、裏でさまざまな試行錯誤が行われていたようです。当記事ではそれらの開閉方式にまつわる怪しい動きを時系列でまとめました。

1 大井町駅でホームドア稼働開始(2012年3月)

大井町駅の車体検知センサ
2023年2月時点でも現存している

大井町駅にホームドアが設置された2012年当時、大井町線の車両はホームドア連携に対応していなかったため、開閉は車掌による手動操作で行うことになりました。その代わりに、誤操作・誤動作を防止するためのシステムが地上側に整備されます。

同線では5両編成の各駅停車と6両編成の急行(2017年に7両化)が走行することから、ホームの複数個所に設けられたセンサで車両の有無を検知し、その結果を組み合わせて列車の編成両数を判別していました。

2 溝の口駅でホームドア稼働開始(2016年3月)

溝の口駅大井町線ホームの停止検知センサ
溝の口駅大井町線ホームの編成数検知センサ

2016年に設置された溝の口駅のホームドアも大井町駅と同じく車掌手動操作となりますが、列車検知システムの仕様は変更されました。複数のセンサで編成両数を判別すること自体は変わらないものの、センサ方式が3D距離画像センサになったほか、停止検知用センサは車両前面を斜め上から測定する点が大きな違いです。

しかし、この仕様変更が約2年後に導入された新型車両に対して思わぬ影響を及ぼした…と言われています。その件については3項で紹介します。

2 緑が丘駅からは自動開閉システムを採用するも…(2016年11月~)

2.1 当初は宮前平方式になる予定だった?

2016年からは途中駅においてもホームドア導入が始まります。最初の設置駅となった緑が丘駅では、駅構内のお知らせにて11月27日の稼働開始が告知されましたが、そこには「列車が止まる前にホームドアが開きます」「列車発車後にホームドアが閉まります」という他の路線では見慣れない記載もありました。

これは2015年に設置された田園都市線宮前平駅ホームドアと同じ方式で、列車が停止位置手前のBセンサ・Aセンサ間を通過する速度が基準以下なら自動開扉し、出発後はホーム後方のCセンサが車両を検知しなくなると自動閉扉する仕組みでした。ホームドア開閉に伴うタイムロスが発生しないというメリットがあり、今後も田園都市線や大井町線でこの方式が普及していくのかと思われましたが…

2.2 実際には自動開扉タイミングが変更

しかしいざ稼働開始すると、列車が止まる前ではなく、停止とほぼ同時に開扉する仕様に変更されていたのです。翌月11日稼働開始の尾山台駅においても、やはり駅のお知らせに記載された内容と実際の自動開扉タイミングは異なっていました。

とはいえ、システム自体が抜本的に変更された訳ではありません。宮前平駅では低速度検知後すぐに自動開扉していたのに対して、両駅では低速度検知から自動開扉までに一定秒数の時素が加えられたようで、これにより見かけ上は通常のホームドアと変わらない開扉動作になりました。

2.3 さらなる仕様変更で閉扉が手動化

一方、閉扉は当初の記載通り列車発車後に自動閉扉していましたが、これにもテコ入れが行われます。まずは2017年2月25日、緑が丘駅・尾山台駅の自動閉扉が取りやめになり、車掌が手動操作で閉扉してから出発する方式に変更されました。そして以降の設置駅は、2017年度からホームドア本格導入が始まった田園都市線も含めて「開扉は自動・閉扉は手動」の取り扱いが標準になったのでした。

仕様変更前のCセンサ(大井町線中延駅)
列車出発後すぐ自動閉扉できるように後端付近に設置
仕様変更後のCセンサ(田園都市線つくし野駅)
基本は最後部の2-3番ドア間に設置

なお、仕様変更後に設置された駅にも自動閉検知用のCセンサは設けられていますが[1]Cセンサは列車進入を検知してBセンサ・Aセンサによる自動開扉システムを起動する役目も担っているという。、最後部から少し離れた位置のホームドア筐体に設置されるようになりました。2017年3月稼働開始の中延駅は当初から手動閉扉だったにも関わらずCセンサは自動閉扉を前提とした位置なので、やはりこれも急遽の変更だったことがうかがえます。

宮前平駅は当時存在したドア位置が異なる「6ドア車」でも乗降できるように車両とホームドアの距離を離していました。しかし大井町線のホームドアは通常の配置なので、列車が動いていながらホームドアを開閉する方式は安全性に懸念が生じたため変更せざるを得なかったのかもしれません[2]その後、2019年2月に宮前平駅も他駅と同じ開閉方式へと変更された。

3 なぜか新型車両6020系のステッカーが増殖(2018年10月)

前面に多数のステッカーを貼っていた頃の6020系(東急2020系電車 – Wikipediaより引用)
著作者:Cfktj1596様 CC 表示-継承 4.0 リンクによる

2018年3月28日にデビューした新型車両6020系は当初、7両編成であることを示す「7CARS」ステッカーを運転台窓下に掲げていました。しかし同年10月、そのステッカーが前面下部の2か所にも増殖し、さらにデビューから半年以上経つのにデビュー記念ヘッドマークを剥がしていないことから[3]2018年12月以降は「Q SEAT」サービス開始記念ヘッドマークに変更。、前面がステッカーだらけの異様な見た目になりました。

「鉄道新聞」編集長の福岡 誠さんが取材したところによると、7CARSステッカーを増やした理由は “ホームドアの関係で視認性を比較するためのテスト” だそうです。これによって、6020系および同一デザインの田園都市線2020系の大きな特徴であるブラックフェイスが、ホームドアのシステム面に何らかの影響を与えたのではないかと推測されました。

田園都市線の2020系

ここで注目すべきは、2020系の前面には何のステッカーも貼られていないことです。前項で述べたように、2018年当時の田園都市線と大井町線(大井町駅・溝の口駅を除く)は同じ自動開扉システムを使用していましたから、これに原因があるなら2020系にもステッカーが必要なはずです。つまり、6020系だけに関係する大井町駅または溝の口駅のホームドアがステッカー増殖の原因だったと考えられます

4 全駅トランスポンダ連携化で6020系のステッカーも撤去(2019年3月)

新設されたトランスポンダ地上子
この地上子と車両側の車上子がピッタリ重なることでホームドア開閉連携が可能になる

6020系のステッカー増殖が話題になっていた頃、足元ではそれ以上に大きな変化が始まっていました。

2018年夏ごろより、東横線・目黒線と同様のホームドア連携用トランスポンダ地上子が大井町線内の各駅にも設置され始め、同じく車両側にもホームドア連携対応の改造工事が順次施工されます。そして2019年3月、大井町線用の全車両がホームドア連携に対応したことで、同月中に線内全駅のホームドア開閉方式がトランスポンダ式連携に変更され、車両ドアとホームドアが同期して開閉するようになりました。

するとその直後、これを待っていたかのように6020系の増殖していた7CARSステッカーおよびヘッドマークが剥がされたのです。これにより、やはりステッカー増殖の原因は大井町線内のホームドアにあったことがほぼ確実となりました。

特に疑いが強いのは溝の口駅です。前述の通り、同駅の停止検知用センサは車両前面を斜め上から測定する方式であり、6020系の特徴的なブラックフェイスがその検知制度に影響を及ぼした可能性が考えられます。あのステッカーはそれを解決する方法として考案された苦肉の策だったのかもしれません。

5 おわりに

こうして現在は一般的なトランスポンダ式連携に落ち着いた大井町線ホームドアですが、もしかするとこれも試行錯誤の上で急遽決まった事だったのではないかと思ってしまいます。

東急は2019年度末までにホームドア・センサー付固定式ホーム柵の整備率100%達成[4]世田谷線・こどもの国線を除くを目指し、特に2017年ごろからは急ピッチで設置工事が進められていました。そのさなかで開閉方式の課題にも立ち向かっていた現場の方々には相当な苦労があったことでしょう。

出典・参考文献

脚注

References
1 Cセンサは列車進入を検知してBセンサ・Aセンサによる自動開扉システムを起動する役目も担っているという。
2 その後、2019年2月に宮前平駅も他駅と同じ開閉方式へと変更された。
3 2018年12月以降は「Q SEAT」サービス開始記念ヘッドマークに変更。
4 世田谷線・こどもの国線を除く

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