東急電鉄 大井町線のホームドア:大井町駅のユニバーサルデザインホームドア
タイプ | 腰高式 |
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メーカー | 東急車輌製造(現:J-TREC) |
開閉方式 | トランスポンダ式連携 |
停止位置許容範囲 | ±590mm(TASCなし) |
開口部幅 | 2,480mm |
非常脱出ドア | なし |
支障物検知センサ | 3Dセンサ |
東急大井町線の大井町駅では、2012年3月3日に同線初となるホームドアが稼働開始されました。東急全体としても2000年の開業当初からホームドアを導入した目黒線以外では初の整備で、都内初となるホームドア整備の助成を適用し、国・東京都・品川区から補助金を受けています。
同駅のホームドアは東急子会社の鉄道車両メーカー「東急車輛製造」による初めての製品で、誰もが使いやすいユニバーサルデザイン技術を取り入れたことから「UDホームドア」と称されています。しかし設置直後の2012年4月、東急車輛は「総合車両製作所」に商号を変更、JR東日本の子会社になったため、これが東急車輛によって製造された最初で最後のホームドアです。
目次
1 ホームドアの仕様
1.1 基本仕様
目黒線のホームドアはトランスポンダを用いた情報伝送によって車両ドアと連携する仕組みで、停止精度を高めるためにTASC(定位置停止支援装置)も導入されています。一方で、2012年当時の大井町線は車両側がTASCやホームドア連携に対応していなかったため、同駅のホームドアはTASCなし・車掌による手動開閉を前提に設計されました。
また、当時は各駅停車が5両編成、急行が6両編成でしたが、2017年に急行が7両化されるのに伴って同駅のホームドアも1両分が追設されました。追設部分は総合車両製作所が製造したものと思われます。
開口幅は目黒線の2,000mmより広い2,480mmとして、停止位置のずれを±590mmまで許容しています[1]目黒線はTASCありで±350mm。。扉部分は大井町線のラインカラーであるオレンジ色に塗装され、広いガラス透過部が設けられました。
他社製品ではあまり見られない丸みを帯びた筐体上面の形状が特徴的で、どことなく近隣の東海道新幹線品川駅ホーム可動柵と似ている気がします。
開口幅を広げたことで戸袋スペースが限られるため、車両ドア間の筐体は左右の扉を互い違いに収める戸袋一体型です。車両連結部の筐体は戸袋分離型で、戸袋スペースがさらに少ないことから左右の扉長さが非対称になっています。
ホーム両端および5両・6両編成の後部となる箇所には乗務員出入り用の開き戸が設けられており、この部分は筐体を斜めに配置することで出入りスペースを確保しています。また、1-2号車連結部には駅係員用操作盤が内蔵されています。
上記以外の3か所の車両連結部には縦型のデジタルサイネージが内蔵されており、プロモーション映像や列車運行情報が表示されています。しかし画面サイズや設置場所、設置数のどの観点からも目立ちにくく、筆者自身も初めて同駅を訪れた時はその存在に気づきませんでした。
目黒線ホームドアの支障物検知センサは2基の光電センサでしたが、大井町駅では3Dセンサを採用したことで空間を立体的に測定できるようになり、安全性がさらに向上しています[2]現在は目黒線も3Dセンサに交換済み。。
1.2 ユニバーサルデザインの適用
前述の通り、同駅のホームドアは「UDホームドア」と称されています。東急車輛が本業の鉄道車両向けに鉄道総合技術研究所(鉄道総研)との共同研究で培ったユニバーサルデザイン技術を取り入れ、乗務員操作性の向上・乗客の視認性・清掃性への配慮を行い、他社製品との差別化が図られました。
(1)乗客の視認性
扉部分は大井町線のラインカラーであるオレンジ色とした一方、両側の筐体端部に黒色の帯を入れて明度差をつけることによって、色弱者にとっても可動部と固定部の境目が見分けやすくなりました。
また、号車・ドア番号などの表記は、黒地に白抜き文字とすることで文字を大きく見せて判読性を向上させています。同時期には目黒線のホームドアもこのフォーマットに更新されたようです。
(2)乗務員の操作性
設置当時は車掌が車両ドア・ホームドアをそれぞれ操作する方式だったため、停止位置が多少ずれていても、また直接視線を向けなくても安全に操作できる開閉操作盤が開発されました。
構造はやや曲面を描いた凸型で、車両側のドアスイッチと同様に下から押し上げるのが「開」、上から押し下げるのが「閉」となっています。手探りで操作盤を見つけやすく、また開と閉の押し間違えもしにくいことから、車掌はホーム上の監視に集中でき、乗客の安全性を確保することを可能としました。
(3)清掃性への配慮
ホームドア筐体を床面から50mm弱の隙間をあけて設置することで、洗浄水や雨水を排水しやすくなっています。またこの隙間は、色弱者がホームドアの立っている位置を判別しやすくすることにも寄与しています。
2 ホームドアの開閉方式
2.1 当初の開閉方式
前述の通り、2012年当時の開閉方式は車掌による手動操作でした。その代わりに、異なる編成両数が発着することから、誤動作・誤操作などを防ぐために編成両数を判別するシステムも整備されました。
当時の開閉操作は以下の順序で行われていました。
- 到着時:ホームドア→車両ドアの順に開扉
- 出発時:車両ドア→ホームドアの順に閉扉
しかし、のちに田園都市線・大井町線の各駅に整備されたホームドアには異なる開閉方式・システムが採用されたため、大井町駅は東急線内で唯一の方式となります。
(1)車体検知センサによる在線・編成両数検知
当初は5両編成と6両編成、さらに2017年からは7両編成も発着するため、編成両数に対応した範囲のホームドアを開扉しなければなりません。また、安全のために列車がいない時は開扉できない仕組みも必要です。そこで、1ホームあたり計4か所[3]当初の設置数。7両化後は1基増設されたと思われる。に「車体検知センサ」を設けて、その検知結果の組み合わせによって編成両数を確認していました。
なお、このシステムが正常に機能しない場合などは、操作盤の「強制開SW」を押して数秒以内に「あける」を押すと強制的に開扉できる仕組みだったようです。
(2)乗務員表示灯
目黒線は運転台パネルにホームドア関連の情報も表示されるのに対して、同駅は運転士用・車掌用それぞれに、定位置停止およびホームドア状態を示す表示灯が地上側に設置されました。列車発着時の表示内容の推移は以下の通りです。
- 列車が定位置範囲内に進入→「D」が点灯
- ホームドアが開扉→「●」が消灯
- ホームドアが閉扉→「●」が点灯
- 列車が定位置から離れる→「D」が消灯
(3)ATCとの連動
目黒線などのトランスポンダ方式は、ホームドアが完全に閉まるまで列車の力行回路を構成できない仕組みになっています。大井町駅でもこれと同等の安全を確保するため、ホームドア全閉までは信号保安装置のATC(自動列車制御装置)を停止現示とすることで出発を抑止しています。
2.2 トランスポンダによる車両連携化(2019年3月~)
その後、大井町線のすべての車両にホームドア連携に対応する改造工事が行われたことで、2019年3月に大井町線全駅のホームドアがトランスポンダ式連携に変更されました。よって現在は、車掌が車両側のドア開閉操作を行うとホームドアも同期して開閉します。
連携化後も乗務員表示灯の内容やATCとの連動機能はそのままです。ただし、ATC連動は同駅以外の田園都市線・大井町線ホームドアにはありません。
3 Qシートはアナログな手法で一部締め切り
2018年12月14日から、平日夜の大井町駅発下り急行の一部は、3号車に有料座席指定サービス「Qシート」が設定されています。当初は全停車駅で全ドアを開けていましたが、新型コロナウイルス感染拡大によるサービス休止[4]2020年4月27日から休止、同年10月12日から再開。から再開されると同時に、大井町駅では誤乗防止を図るために改札から一番近いドアを横断幕で塞ぐようになりました。
一方、大井町線内の途中停車駅[5]旗の台駅・大岡山駅・自由が丘駅・二子玉川駅の4駅。では、サービス再開にあわせて車両ドア・ホームドアともに1か所のみが開くように順次改修されました。大井町駅でこの対応が行えないのは、上り列車として到着した時点では全てのドアを開ける必要があるためだと思われます。
4 おわりに
東急車輛が意欲的に開発に取り組んだUDホームドアでしたが、その後ホームドア整備が行われた東横線や田園都市線、大井町線の他駅には別メーカーの製品が採用され、東急以外においても現在に至るまで採用事例はありません。その一方で、判読性を向上させた案内表記は東急標準のフォーマットになり、同駅のものをベースとした乗務員操作盤が他駅に導入されるなど、取り入れたUD技術は活かされています。
ちなみに、同駅の2,480mmという開口幅はずいぶんキリが悪く感じますが、2013年度から整備が始まった東横線ホームドアは、車種ごとのドア位置の違いなどから同駅とまったく同じ開口幅となっています。つまり完全なる推測ですが、UDホームドアは東横線への導入を見据えて設計されていたのかもしれません。
出典・参考文献
- 「ユニバーサルデザインホームドアの開発 − 東急大井町線 大井町駅可動式ホーム柵 −」『総合車両製作所技報』第1号(2013年1月発行)
- 特開2013-075563 可動式ホーム柵の操作盤装置 | j-platpat
- 特開2013-129399 ホームドアシステム | j-platpat
- 大井町線有料座席指定サービス「Qシート」のサービスを再開しました。|東急電鉄
- 木暮 隆雄、高岡 公浩「東急電鉄のホームドア設置計画」『JREA』Vol.58-No.11、日本鉄道技術協会、2015年、p39948-37952