相模鉄道・JR東日本のホームドア:羽沢横浜国大駅の両社で異なるホームドア開閉方式

2019年11月30日、相模鉄道西谷駅からJR横浜羽沢駅(貨物駅)までの約2kmを新線で繋ぎ、相鉄線から新宿方面までを乗り換えなしで結ぶ新たなルート「相鉄・JR直通線」が開業しました。この新路線において、相鉄とJR東日本の会社境界となっているのが新駅の羽沢横浜国大駅です。

同駅には開業当初からホームドアが設置済みですが、開閉方式には相鉄側とJR側で異なるシステムが採用されました。その背景には、将来的な東急方面との直通やJR東日本独自の運転取り扱いなどが関係しているのだと思われます。

1 相鉄方面からの到着・相鉄方面への発車

相鉄方面からの到着時および相鉄方面への発車時の開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉:自動(定位置停止検知・両数検知)
  • 閉扉:自動(車両ドア開閉検知)

相鉄側の発着時は、車両側との通信を必要としない「地上完結型連携システム」によってホームドアの開閉連動が行われています。この方式はのちに相鉄線内の既存駅でも採用されました。

定位置センサは編成内1か所の車両連結部を測定
ドア追従センサは編成内3か所の車両ドアを測定

列車到着時は、車両連結部の位置を測定する「定位置停止検知センサ」と複数個所に設けられた「両数検知センサ」の組み合わせによって、編成両数に対応する範囲のホームドアを自動開扉します。出発時は、「車両ドア開閉検知センサ」が車両ドアの動きを読み取り、それに追従してホームドアを自動開閉します。

システムの詳細は別記事で紹介しています。

2 JR方面からの到着・JR方面への発車

一方、JR方面からの到着時およびJR方面への発車時には、総武線快速の新小岩駅で実績のある無線式ホームドア連携システムが使用されています。ホームドア連携方式として長年主流だったトランスポンダ式は、地上側と車上側それぞれに装置を整備するまでに多くの費用や時間を要すのに対して、無線連携式は車両側の改修も含めて低コスト・短期間で整備が可能になったそうです。

システムの詳細は新小岩駅の記事で紹介しています。

乗務員用操作盤の両側にある灰色のBOXが地上側無線アンテナ

新小岩駅からの変更点として、定位置停止検知センサは車両前面を測定する方式から相鉄側と同じ車両連結部を測定する方式となりました。すなわち、定位置センサは相鉄側のシステムと共用されています。地上側無線アンテナは1・10号車の乗務員操作盤左右にある灰色のBOXに収められています。2つ設けられているのは伝搬性能向上のためでしょうか?

相鉄12000系のLF受信部は前頭部側面にあるFRP製フタの内側に設置
UHF送受信部は乗務員室助手席側の前面窓付近
E233系のLF受信部はE217系と同じく左右小窓付近

相鉄・JR直通線開業に向けて製造された相鉄12000系には当初から同駅用の無線連携システムを搭載しており、既存のJR東日本E233系7000番台にも機器が増設されました。

特筆すべきは相鉄12000系の前頭部側面にある小窓のような部分です。車両とホームドアのペアリングを行うためのLF帯無線は伝搬距離が狭いため、車両側と地上側のアンテナは極力近接する場所に置かなければなりません。そこで12000系は前頭部の専用スペースにアンテナを収めています

3 各種機器の配置図

ドア追従センサは冗長性確保のため編成中3か所を測定するように設置されていますが、その場所は駅構造との関係なのかホームによって異なっています。また、JR直通の列車で8両編成が運行される予定は無いため、8両用の乗務員操作盤に地上側無線アンテナはありませんでした。

4 異なる開閉方式を採用した理由は?

4.1 東急とJRでも異なるホームドア開閉方式

東急直通用に製造された相鉄20000系
台車左側にあるのが直通先でのホームドア連携などに使うトランスポンダ車上子

そもそもなぜ羽沢横浜国大駅は両社で異なる開閉方式を採用したのでしょうか。それには2022年度下期開業予定の「相鉄・東急直通線」が大きく関係しているようです。

もうすぐ相鉄と乗り入れを開始する東急東横線・目黒線系統のホームドアはトランスポンダ連携式です。一方、JR東日本は今後整備するホームドアに無線連携式を標準採用する方針を示しており、この両社が共に乗り入れてくる相鉄線内では異なる連携方式の車両が混在することになります。

そこで、相鉄は車両側が搭載する連携システムとは一切関係を持たない地上完結型の連動システムを採用し、どの車両にも対応できる構えとしたのだと思われます。

4.2 JRの「知らせ灯式出発合図」とホームドアの関係

だとすれば、JR東日本が羽沢横浜国大駅だけは無線連携式を導入せず相鉄と同じシステムを使用すれば効率的に思えますが、それにはとある問題があります。

JR東日本の首都圏在来線では列車発車時の車掌によるブザー合図を行っていないため、ホームドア連携システムは戸閉知らせ灯の点灯条件にホームドアの開閉状態も加えることで、車両ドアとホームドアがどちらも閉まらないと運転士が列車を出発できない仕組みとなっています。

よって、相鉄方式のような車両側と連携しない開閉方式で運用するのは安全上課題があり、こうして羽沢横浜国大駅でも無線連携式が採用される次第になったのだと思われます。

5 おわりに

上記は全て推測に過ぎませんが、関係各社の現状や方針など様々な事情が重なったことで、このように開閉方式の混在という手段を生み出したということが伺えます。

ちなみに、羽沢横浜国大駅のように事業者境界駅でそれぞれホームドア開閉方式が異なる例としては、京王電鉄と都営地下鉄新宿線の境界である新線新宿駅[1]京王は車掌手動操作、都営はトランスポンダ連携式。が挙げられます。今後、ホームドアのさらなる普及によって同一事業者内の駅でも同じような事例が出現するかもしれません。

出典・参考文献

  • 可動式ホームドア|日本信号株式会社
  • 特開2011-213334 ホームドア制御システム | j-platpat
  • 髙橋 和幸「MEMSセンサーを用いた「地上完結型」ホームドア連携システム構築」『鉄道と電気技術』Vol.31-No.6、日本鉄道電気技術協会、2020年、p35-39
  • 根本 卓、千葉 正志、布施 毅、横山 啓之、笠井 貴之、山上 正規「総武快速線新小岩駅ホームドア連携システム導入に向けた開発と今後の展開」『鉄道サイバネ・シンポジウム論文集』Vol.56、日本鉄道サイバネティクス協議会、2019年

脚注

References
1 京王は車掌手動操作、都営はトランスポンダ連携式。

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