JR東日本 総武線快速のホームドア:新小岩駅の無線式連携システム

2018年度にホームドアが整備されたJR総武快速線の新小岩駅では、JR東日本としては初めて無線通信によるホームドア連携システムが採用されています。JR東日本は2032年度末までに首都圏の主要在来線全駅へホームドアを整備することを決定しており、今後はこの方式がスタンダードな開閉方式になっていく見込みです。

1 無線式ホームドア連携システム導入の経緯

ホームドアと車両ドアの開閉連携方式として長年主流だったトランスポンダによる情報伝送は、線路上と車両の床下にトランスポンダ装置を整備する必要があり、導入までに費用や時間を要します。この問題を解決するために日本信号が開発したのが、簡易的な無線通信で情報伝送を行う「無線式ホームドア開閉方式」です。2011年度から整備が始まった都営地下鉄大江戸線のホームドアで初めて採用されました。

JR東日本もこれまでのホームドア設置路線ではトランスポンダ式連携システムを整備していました。しかし、人身事故が多発していたことを受けてホームドア設置が決定したJR総武線新小岩駅の快速線ホームでは、コスト削減・工期短縮を図るために無線連携システムが採用されました。

また、ホームドア開口幅を山手線などの2,000mmに対して2,800mmに拡大することで停止余裕を確保し、TASC(定位置停止装置)の導入も省略されています。

2 新小岩駅におけるシステムの仕組み

地上側の無線式連携システム機器

このシステムの特徴は、LF帯(長波)UHF帯(極超短波)という2種類の電波を使用している点です。ドア開閉情報など基本情報はUHF帯無線で送受信されますが、ごく狭い範囲のみに伝搬する特性があるLF帯無線により車両とホームドアの関係を確実に結びつけて、隣接するホーム同士で無線が混信してしまうのを防ぎます。

列車進入時における無線連携式の基本動作は以下の通りです。

  1. 車両前面を測定して列車の定位置停止を検知
  2. LF帯無線でホーム別の駅情報を車上へ送信(受信した情報を元にUHFチャンネルを切り替え)
  3. UHF帯無線でドア開閉情報などを送受信する

そしてこの基本仕様に加えて、新小岩駅で運用するために必要となるJR東日本独自の機能が追加されています。

(1)連携モードの自動切り替え

地上側UHFアンテナからはホームドア設置駅であることを知らせる信号が常時発信されており、新小岩駅に近づいた列車がその信号を受信することで、車両側のホームドア連携システムが「分離モード」から「連携モード」へ自動で切り替わります。新小岩駅を出発後は、信号を一定時間受信しなくなると「連携モード」から「分離モード」へ切り替わります。

(2)編成両数の判別

新小岩駅に停車する総武快速線の列車は11両編成と15両編成の2種類が運行されているため、地上側が伝搬距離の狭いLF帯無線で情報を送信した時に、車両側のどの個所のUHF帯アンテナとペアリングしたかを認識することによって編成両数を判別しています。

(3)引き通し線を地上側に整備

従来のトランスポンダはどちらか一方の先頭車のみに搭載されており、反対側の先頭車に情報を伝送するための専用引き通し線を編成全体に通す必要があったため、改造に多くの費用や時間が掛かっていました。そこで新小岩駅では、地上側に引き通し線を設けることで、車両側の改造工数を大幅に削減したそうです。

3 E217系のホームドア対応改造

新小岩駅ホームドア設置に向けて、2017年頃から横須賀・総武線快速のE217系電車にホームドア関連機器を搭載する改造工事が実施されました。E217系は今後数年以内に置き換えが計画されていたため、大掛かりな車両改造を避けたかったことも無線連携式採用の理由かもしれません。

ただし、付属編成は新小岩駅を含む区間を単独で走行することがないため、常に中間車となる増4号車の運転台には各種機器が搭載されませんでした。

UHF送受信部
左側のLF受信部
右側のLF受信部

(1)ホームドアLF受信部

LF帯無線は受信範囲が狭いため、受信アンテナは乗務員室左右の側窓付近に設置されています。

(2)ホームドアUHF送受信部

定位置停止情報やドア開閉情報を送受信するUHF帯の送受信アンテナは、乗務員室のほぼ中央となる非常貫通扉の上部付近に設置されています。

電源部とホームドア分離出発スイッチ
FD表示器の表示内容推移
継電器部と小型化された非常用はしご

(3)FD表示器

運転席の上方にはホームドアの状態等を表示する「FD表示器」が設置されています。新小岩駅に接近・停車するまでの表示推移は上図の通りで、連携方式こそ異なりますが表示内容は山手線等と大きくは変わっていないようです。

(4)継電器部

システムの中核である継電器部は助手席の脇付近に設置され、元々この場所にあった非常用はしごは小型のものに交換されました。

(5)電源部

システムに電源を供給する電源部は助手側に設置され、機器の上部は運転台前方カメラシステムの記録装置と後述する「ホームドア分離出発スイッチ」の設置スペースとして活用されています。

(6)ホームドア分離出発スイッチ

「ホームドア分離出発スイッチ」は、故障等で地上側から「ホームドア全閉」情報が送信されず発車できない場合などに使用するスイッチです。

(7)その他

その他にも、地上側から「ホームドア全開」情報が送信されない場合に車両ドアのみを開扉する「ホームドア分離開扉スイッチ」、システムの動作状況を記録する「記録部」、システムを強制的に分離モードにする「ホームドア連携スイッチ」が乗務員室内の各所に設置されています。

4 その後の展開

この無線式連携システムは、2019年11月30日に開業した相鉄・JR直通線羽沢横浜国大駅のホームドアでも採用されました。ただし、同駅で無線連携式が使用されるのはJR側の発着時のみで、相鉄側の発着時には地上完結型の連動システムが使用されるという特徴があります。

『鉄道サイバネ・シンポジウム論文集』Vol.56の「総武快速線新小岩駅ホームドア連携システム導入に向けた開発と今後の展開」によると、JR東日本は首都圏在来線で今後整備されるホームドアでは低コストな無線連携式を標準としていく方針を示しています。しかし、これら今後の採用駅ではLF帯無線の代わりにRFIDタグを用いて車両とホームドアを紐づける新方式になることが同資料によって明らかとなりました。

また、2020年3月に稼働開始された成田空港駅・空港第2ビル駅の昇降式ホーム柵は、単線区間のため列車が同時に発着しないという環境からLF帯無線もRFIDも使わない方式での運用が可能になっています。

5 おわりに

新小岩駅では無線連携システムの調整に時間を要したためホームドア稼働開始が当初予定より1ヵ月ほど遅れましたが、これからJR東日本の標準となっていく開閉方式の第1号として現在も運用が続けられています。しかし、今後はLF帯無線を使用しない新方式が主流になるにあたって、いずれ新小岩駅のシステムにも変化が訪れるのかどうかが注目されます。

出典・参考文献

脚注

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