小田急電鉄のホームドア:新宿駅地上急行ホームのタイプ

タイプ 腰高式
メーカー 三菱電機
開閉方式 開扉 自動(車種判別・定位置停止検知)
閉扉 車掌手動操作
停止位置許容範囲 ±470mm(TASCあり)
開口部幅 1・4番ドア 【推定】3,100mm
2・3番ドア 【推定】2,900mm
非常脱出ドア 戸袋スライド式(全ての筐体)
支障物検知センサ 【推定】2Dセンサ

小田急電鉄の新宿駅では、2012年9月30日に快速急行・急行が発車する地上急行ホーム(4・5番ホーム)で同社初のホームドアが稼働開始されました。なお、同じ線路の反対側にある降車専用ホーム(3・6番ホーム)には今のところ設置されていません。

1 ホームドアの仕様

ホームドアのタイプは一般的な腰高式、メーカーは三菱電機です。終端駅で進入速度が遅いため、当初はTASC(定位置停止支援装置)が整備されていませんでしたが、他駅でのホームドア本格導入開始に伴って現在は同駅にも整備されています。

小田急には乗降時間短縮を目的としてドア幅を通常の1,300mmから1,600mmに広げた「ワイドドア車」が存在するため、各号車2・3番ドアは推定2,900mm、1・4番ドアは推定3,100mmという当時としてはかなり広めの開口幅を有しています。1・4番ドアの開口幅が広いのは、通常ドア車とワイドドア車でドア位置自体も少しずれるためです。ただし、1000形ワイドドア車[1]2022年に引退。は他の車種よりドア位置のずれが大きいことからホームドアに対応できず[2]先頭車および先頭車から中間車へ改造された車両の一部ドア位置が特殊だったため。、地上ホームには入線できなくなりました。

3番ホーム側で乗車扱い中のロマンスカーMSE
当然ながら4番ホーム側のドアは開けられない

また、ドア位置が一般型車両と大きく異なるロマンスカー各形式には対応していません。4番ホーム反対側の3番ホームは特急列車の発着にも使用されるため、その際にはドア位置の違いが一目瞭然となります。ちなみに、ロマンスカーと一般型車両の両方に対応できるホームドアは約10年後の2023年に初めて実現しました。

戸袋スペース確保のため扉は互い違いに収納される
車両ドア間の筐体
車両連結部の筐体

デザイン面では、扉の大部分が透過ガラスとなった開放的な造りが特徴です。扉と筐体ホーム側のふちには小田急のコーポレートカラーである青色のラインが、筐体線路側の淵には警戒色として黄色のラインが施されており、これらのアクセントによって後に他駅へ設置されたホームドアよりも明るい印象を受けます。

脱出扉のハンドルが収納されたカバー
非常開ボタンと支障物検知センサ
最前部・最後部には車掌用の表示灯も内蔵

当時としては画期的だったのが、ほぼすべての筐体戸袋部に脱出扉が設けられている点です。非常時に列車が停止位置からずれた状態で車外へ脱出する際は、筐体線路側のカバー内にあるハンドルを握って横方向に動かすと、本体カバーがスライドするような形で脱出用の通路が構成されます。

各開口には支障物検知センサと非常開ボタンが1か所ずつ設けられています。支障物センサの外観は翌2013年に東急東横線中目黒駅に設置された同メーカー製ホームドアと酷似していることから、2Dセンサを縦に数基並べた仕様だと推測されます。

乗務員出入り用の引き戸
駅係員用操作盤

ホーム両端は乗務員出入り用スペースを確保するため筐体がホーム内側にセットバックされており、引き戸式の乗務員出入り用扉も設けられています。また、その付近には駅係員用の操作盤類が内蔵されています。なお、原則として快速急行・急行は10両編成で運行されるため、8両編成の入線には対応していません

2 ホームドアの開閉方式

現在のホームドア開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉:自動(車種判別・定位置停止検知)
  • 閉扉:車掌手動操作

車両側にホームドアとの開閉連携を行うための装置が搭載されていないため、地上側のセンサで列車の定位置停止を検知しています。当初は開閉ともに車掌による手動操作でしたが、2018年ごろから開扉のみ自動化されました。

5番ホーム反対側の6番ホーム床面に大きく描かれた停止許容範囲
運転士向けLED表示灯(入線時用)と距離センサ
距離センサを拡大
車掌は先に降車ホーム側のドアを開けるため、車掌向けLED表示灯は降車ホーム床面にも設置されている
運転士向けLED表示灯(出発時用)
開扉時は「×」、閉扉時は「〇」が表示される

ホーム終端部の車止め付近に距離センサが設けられており、列車の車両前面に赤外線レーザを照射することで停止位置までの残り距離を測定しています。列車が停止位置20m手前まで接近するとLED表示灯に赤×が、停止許容範囲±470mm以内に停止すると緑○が表示されて、運転士・車掌に停止位置の可否を通知します。

このシステムを成り立たせるために重要な要素が「車種による先頭車長の違い」です。小田急の車両長さは1両20mが標準ですが、先頭車は車種ごとに長さが若干異なっています。そこで、列車入線時に車両側に取り付けられているRFIDタグから車種情報を読み取り、それを元に距離センサの測定基準を変更しているそうです。

なお、ダイヤ乱れ時に新宿駅へ入線することがある東京メトロ16000系・JR東日本E233系はRFIDによる判別に対応していないためか、定位置に停止しても自動開扉しないようです。3番ホーム側のロマンスカー入線時も同じく自動開扉しませんが、この判別はRFIDによるものなのか別の方法なのかは不明です。

乗務員用操作盤は10両編成の前部・後部のみに設置

前述の通り、通常このホームに10両編成以外は発着しないため、8両編成を判別するためのセンサ類や8両用の操作盤は設置されていませんでした。そのため、かつてダイヤ乱れで8両編成が急行運用に充当した際には、ホームドアのない2番ホーム(特急ホーム)や地下各停ホームを使用していたそうです。

3 おわりに

2010年代前半は首都圏のさまざまな鉄道事業者でホームドア導入が始まった時期でもありますが、小田急ではワイドドア車に対応できる大開口・スライド式脱出扉といった当時としては先進的な技術が取り入れられた一方、システム面の都合で8両編成や他社車両は制約を受ける形となりました。

新宿駅地上ホームでの整備から約6年後の2018年度からは、代々木八幡駅を皮切りに本格的なホームドア整備が始まりました。しかし、ホームドア本体のメーカーやデザイン、列車検知システムの仕組みは異なっています。

出典・参考文献

脚柱

References
1 2022年に引退。
2 先頭車および先頭車から中間車へ改造された車両の一部ドア位置が特殊だったため。

コメントする