JR東日本 京浜東北線のホームドア:標準タイプ

JR東日本の京浜東北線では、2017年3月25日に赤羽駅で同線初のホームドアが稼働開始されました。それから5年が経過した2021年度末時点の設置駅数は全47駅中34駅まで増えています。

2010年度から2016年度まで整備が進められた山手線のホームドアで得られたノウハウから、基本構造の総合的な見直しによってさらにコストダウンやメンテナンス性の向上が図られており、以降はこの新型ホームドアが同社の標準タイプとして京浜東北線に限らず多くの路線で導入されています。

1 ホームドアの仕様

1.1 基本仕様

タイプ 腰高式
メーカー JR東日本メカトロニクス・三菱電機
開閉方式 トランスポンダ式連携
停止位置 ±350mm(TASCあり)
開口部幅 一般部 2,000mm
1号車大開口部 2,900mm
10号車大開口部 2,640mm
寸法(一般部) 筐体 高さ1,300mm×厚さ150mm(センサ部を除く)
高さ1,200mm
非常脱出口 開き戸式(各号車連結部)
安全装置 居残り検知 3Dセンサ

ホームドアのタイプは山手線と同じく高さ1,300mm・基本開口幅2,000mmの腰高式で、設計・製造にはJR東日本のグループ会社であるJR東日本メカトロニクスおよび三菱電機が携わっています。

メンテナンス性を高めるため、筐体内部の重要部品(制御基板・駆動モータなど)はホーム側のパネルを外せば簡単に検査・交換ができる配置となっているほか、車両とホームドアの間に取り残された旅客や荷物を検知する支障物センサについても、戸袋内に小窓を設けることでホーム側からでも交換可能としているそうです。

各号車1・4番ドアは扉長さが左右非対称
ホームドアの線路側
左:支障物検知センサ・非常開ボタン
右:侵入防止柵(改良型に交換後)
先頭車のドアピッチが狭い部分のみ扉を互い違いに収納するため筐体が分厚い

デザイン面で山手線と大きく違うのは、扉部分が京浜東北線のラインカラーであるスカイブルーに塗装されている点です。このタイプのホームドアはのちに他の路線にも導入されますが、扉部分がラインカラーなのは今のところ京浜東北線のみで、特に山手線との並行区間において容易に判断しやすいメリットがあります。

透過ガラス部のサッシがホーム側に露出しているのもメンテナンスのし易さを考慮したためだと思われます。また、各号車1・4番ドアの扉長さが僅かに左右非対称なのは、後述の緊急脱出口(またはホーム両端の乗務員出入り用扉)がある関係で戸袋スペースが限られるためです。

線路側から見た緊急脱出口
緊急脱出口があるため隣接する扉の戸袋スペースが狭い
駅係員用の機器一式が組み込まれた部分
液晶パネルには各開口部の状況が表示される

各号車連結部には開き戸式の緊急脱出口が設けられています。ただし、各ホームにつき1か所の車両連結部には駅係員用の操作盤などが組み込まれているため脱出口はありません。いずれにせよ、ほとんどの戸袋部分に脱出口を設けていた山手線タイプと比較すれば数は大幅に減少しています。

山手線の据え付けベース工事ではPC床板を鋼製プレートで挟み込む構造が採用されていたのに対し、京浜東北線ではPC床板の強度確認を行った上で簡易な据え付けプレートでの施工を実現したことにより工事が大幅に簡略化されたそうです。

1.2 山手線並行区間の仕様

京浜東北線と山手線が並行する田町駅~田端駅間では、トラブル時などに互いの線路を使用して運行する場合があります。そのため、この区間[1]田町駅と田端駅は本来の路線のホームに発着するため、正確には浜松町駅~西日暮里駅。の山手線ホームドアが京浜東北線の発着に対応しているのと同じように、京浜東北線ホームドアも山手線の発着に対応できる構造となっています。

(1)設置時期によるE231系対応・非対応の違い

京浜東北線E233系と山手線E231系の先頭車ドア位置の違い
E231系引退前に設置された駅の1号車1番ドア

京浜東北線ホームドア整備が始まった当時、山手線はE231系500番台とE235系の2形式が使用されており、E233系を含めた3形式の中ではE231系のみ先頭車乗務員室直近のドア位置が異なります。そのため、1号車1番ドアのみ幅2,900mmの大開口としてドア位置の違いに対応していました。

2020年1月にE231系が山手線から引退したことで大開口は不要になり、それ以降に設置された駅[2]2022年9月時点では東京駅が該当。からは通常の開口幅に変更されています。

(2)10号車の特殊開口部

京浜東北線E233系先頭車と山手線中間車のドア位置の違い
線路側から見た10号車4番ドア。奥に見える山手線ホームドアも同じ開口幅

山手線は京浜東北線より1両長い11両編成のため、10号車4番ドアは幅2,640mmの大開口として先頭車と中間車のドア位置の違いに対応しています。こちらはE231系引退にかかわらず必要な設備なので、それ以降の設置駅でも同じです。前述の1号車1番ドアもそうですが、長いほうの扉はなぜか線路側がスカイブルーに塗装されていません。

なお、山手線10号車はE233系先頭車のドア位置に極力近づけた変則的な構造をしていますが[3]6ドア車の置き換えにあわせて特殊構造の4ドア車が組み込まれた。、山手線ホームドア導入当時の技術だとこれ以上広い開口幅を設けるのが難しかったためです。

(3)11号車の可動式固定柵

実際のところ、山手線と京浜東北線の線路共用はよほどのことがない限り行われません。それなのに京浜東北線ホームにも11両分のホームドアを設置するのは費用対効果が見合わないためか、11号車部分にはホームドアの代わりに手動で開閉可能な固定柵が設置されました。

固定柵が設置された京浜東北線ホーム11号車部分
観音開き構造の1~3番ドア
4番ドアの引き戸が奥側に収納されている
※設置工事中のため開放中の鶯谷駅で撮影

1~3番ドアの扉は観音開き構造で、ホームドアと同等の開口幅が確保されています。4番ドアだけは収納スペースの関係で片開き式の引き戸構造となっており、こちらは乗務員出入り口を兼ねているためかE231系引退後の設置駅でも開口幅が広めです。

使用する場合はあらかじめ駅係員が4か所すべての柵を開放するのだと思われますが、京浜東北線のホームドア整備が始まった2017年以降、実際に山手線が京浜東北線の線路で営業運転を行ったことは一度もないようです。

2 ホームドアの開閉方式

通常は使われない車掌用開閉操作盤。青色のマーカーが停止許容範囲±350mmを示す
ホームドア地上子(P0地上子)
車上子と地上子が重なった様子
※写真は他路線で撮影

ホームドアの開閉方式も山手線と同じく、トランスポンダ装置を用いた送受信により車両ドア側の開閉操作と連携するシステムです。高い停止精度を確保するためにTASC(定位置停止装置)も整備されました。列車がTASCの停止許容範囲内±350mmに停止すると、1号車(大船方先頭車)に搭載された「ホームドア車上子」と線路側に設けられた「ホームドア地上子」がピッタリ重なって情報の送受信が可能になります。

京浜東北線E233系のホームドア・TASC対応改造は赤羽駅ホームドア設置の約2年前から順次実施され、山手線と互いの線路を走行できるように、地上子・車上子の位置関係は当然ながら山手線と合わせられています。

3 おわりに

冒頭で述べた通り、京浜東北線仕様として開発されたこの新型ホームドアが、現在は同社の標準タイプとして他路線にも導入されています。それと並行して、軽量で工期短縮が可能な「スマートホームドア」も蕨駅での本格導入を皮切りに採用駅が増えています。

また、横浜線の8両編成が乗り入れる東神奈川駅以南および根岸線内には、標準タイプの発展形として先頭車ドア位置の違いに対応できる多段式大開口ホームドアが導入されました。

出典・参考文献

脚注

References
1 田町駅と田端駅は本来の路線のホームに発着するため、正確には浜松町駅~西日暮里駅。
2 2022年9月時点では東京駅が該当。
3 6ドア車の置き換えにあわせて特殊構造の4ドア車が組み込まれた。

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