Osaka Metro 御堂筋線のホームドア:手動から全自動へ 開閉方式の変遷
Osaka Metro御堂筋線の可動式ホーム柵(以下:ホームドア)は、大阪市交通局時代の2014年度に天王寺駅と心斎橋駅で先行導入され、それから約6年後の2020年度より全駅への本格導入が開始、そして2022年3月のなんば駅を以て全駅整備が完了しています。
最短約2分間隔で運行される大阪の大動脈・御堂筋線において、ホームドア開閉に要するわずかなタイムロスもダイヤに大きく影響します。そのタイムロスを1秒でも抑えるべく、ホームドア開閉方式は当初の完全手動から開扉の自動化、そして閉扉の車両連携化と改良が加えられていきました。
目次
1 当初の手動操作による開閉
大阪市営地下鉄で御堂筋線より以前にホームドア整備が完了していた路線[1]今里筋線・長堀鶴見緑地線・千日前線の3路線。では、「ATO(自動列車運転装置)」の導入とともに車両ドアの開閉操作とホームドア開閉が連携するシステムが採用されています。
一方の御堂筋線では、天王寺駅・心斎橋駅のホームドア先行導入に際して車両側の改修などは実施せず、車掌が車両ドアとホームドアをそれぞれ個別に操作する方式が採用されました。
しかし、ホームドアの操作や安全確認に要するわずかなタイムロスは運行ダイヤにも大きく影響しました。2018年5月の朝日新聞デジタルの記事によると、停車時間の増加によって朝ラッシュ時間帯の最短運転間隔が2分0秒から2分15秒に延び、1時間あたりの運行本数も減少したため混雑率が悪化してしまったそうです。
2 定位置停止センサによる開扉自動化
御堂筋線では2021年度末までにホームドアを全駅に整備する計画でしたが、これ以上輸送力を落とさないためにはホームドア開閉のタイムロスを極力減らさなければなりません。そこでまずは開操作を省略するための手段として、列車の停止位置を判定する「定位置停止センサ」を新設し、停止位置が正常ならホームドアを自動開扉する機能が追加されました。
2020年度からホームドア整備が始まった先行導入駅以外の各駅では当初からこの方式が採用され、時期は不明ですが先行導入駅も同じ方式に改修されました。
先行導入時の乗務員向け表示灯はホームドア開状態で[×]、閉状態で[◎]を示すのみでしたが、開扉自動化に際して表示灯が縦長のものに変更され、列車が定位置範囲内に在線中は下段に緑色の■が点灯するようになりました。
3 トランスポンダによる閉扉連携化
開扉自動化後も閉操作は手動操作のままでしたが、将来的には「TASC(定位置停止装置)」の情報伝送に使われるトランスポンダ装置を活用した車両ドアとホームドアの閉扉連携化が計画されていました。
TASCとは、地上側から車両側へ停止位置までの距離情報を送信して自動的にブレーキ制御を行うもので、高い停止制度を確保できるとともに運転士の負担を軽減します。ホームドア先行導入の時点では未整備でしたが、本格導入の開始に合わせて地上設備の設置および車両のTASC対応改造[2]直通運転を行う北大阪急行の車両も含む。が実施されました。
車両ドアとホームドアの閉扉連携化が実現すれば停車時間のさらなる短縮が可能になります。しかし、2022年3月に全駅のホームドア整備が完了してからもしばらくは従来方式で閉操作が行われていました。
そして2022年8月1日、ついに御堂筋線全駅でホームドア閉扉が連携化され、今までは車両ドア→ホームドアの順に閉扉していたのがほぼ同時に閉扉するようになりました。この約1か月前の7月4日には御堂筋線で40年以上にわたって活躍してきた10A系電車が引退しており、この車両がホームドア連携に非対応だったために時間を要したのではないかと推測されています[3]ただし10A系もTASCには対応していたようなので詳細は不明。。
ただし、トランスポンダによって連携化しているのは閉扉操作のみで、開扉は今まで通り定位置停止センサによる自動開扉のままで運用しているようです。このような運用は全国的にも珍しいですが、開扉は車両連携にするよりも定位置停止ですぐに開いた方がスムーズなのかもしれません。
4 おわりに
ホームドアはただ設置すれば良いものではなく、特に御堂筋線のような過密ダイヤ路線では輸送力に与える影響も大きいため、その対策なしでは設置できないことがよく分かる事例となりました。
Osaka Metroは2025年度までのホームドア全駅設置を計画しています。これから整備が本格化する四つ橋線・谷町線・中央線の3路線ではどのような開閉方式が採用されるのでしょうか。
出典・参考文献
- 御堂筋線・北大阪急行線ダイヤ改正 – 朝ラッシュ・深夜時間帯の利便性向上 | マイナビニュース
- ホームドア全駅設置に難題 大阪メトロ、混雑どうする?:朝日新聞デジタル
- 喜多 玲匡「御堂筋線への可動式ホーム柵導入」『鉄道と電気技術』Vol.32-No.8、日本鉄道電気技術協会、2020年、p19-23