JR東日本 山手線のホームドア:先行導入タイプ(恵比寿駅・目黒駅)
タイプ | 腰高式 | |
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メーカー | 東日本トランスポーテック・ナブテスコ | |
開閉方式 | トランスポンダ式連携 | |
停止位置許容範囲 | ±350mm(TASCあり) | |
開口部幅 | 一般部 | 2,000mm |
拡幅開口部 | 2,900mm | |
非常脱出ドア | 戸袋開き戸式(観音開き) | |
支障物検知センサ | 3Dセンサ |
JR東日本の恵比寿駅・目黒駅は、将来的な山手線全駅へのホームドア設置に向けた検証のための「先行導入駅」に選ばれ、恵比寿駅は2010年6月26日に、目黒駅は同年8月28日にホームドアが稼働開始されました。恵比寿駅はJRグループの在来線としても史上初のホームドア設置駅となりました[1]2003年度にホームドアが整備されたJR九州筑肥線の姪浜駅は、駅を管轄する福岡市交通局による事業のため除外。。
この2駅が先行導入駅に選ばれた主な理由には以下の3点が挙げられています。
- ホームの大部分が桁式構造のため、盛土式に比べてホームドア設置が比較的容易。
- 他の駅より比較的ホーム幅が広いため、ホームドア設置後も旅客の通行にあまり影響を与えない。
- 当面の間、大規模駅改良工事の計画が無い。
山手線は日本を代表する鉄道路線であり利用客数も多いことから、他社でこれまでに導入実績のあるホームドアよりもさらに高い安全性・信頼性を目指した機能を多数備えています。
目次
1 ホームドアの仕様
1.1 基本構造
ホームドアのタイプは、旅客の安全性と車掌からの視認性を両立するために高さ1,300mmの腰高式が採用されました。設計・開発はJR東日本とグループ会社である東日本トランスポーテック[2]東日本トランスポーテックの機械設備部門は2012年にJR東日本メカトロニクスへ吸収。が共同で行いましたが、製造自体は既に国内外で多くのホームドア納入実績を持っていたナブテスコによるOEM(受託製造)だったと推測されます。
ホームドア設置にともない高い停止精度を確保するためにTASC(定位置停止装置)が導入されました。よって開口幅は車両ドア幅1,300mmにTASCの停止精度±350mmを加えた2,000mmとなっています。乗客が足元の段差や隙間を確認できるように扉部分の大半がガラス製で、この扉構造は以降のナブテスコ製ホームドアのスタンダードとなりました。
筐体には山手線のラインカラーであるウグイス色の帯が施されていますが、内回りホームは太線1本、外回りホームは細線2本と異なっています。これは内回りホームと外回りホームの見分けを付けやすくするための工夫だそうで、ネットニュースなどで取り上げられたことによって有名になりました。
大きな特徴の一つが筐体の戸袋部分に緊急脱出口を備えている点です。これはトラブルや災害などで列車が所定停止位置から外れて停車した場合を想定したもので、2枚のパネルを観音開きで開けられる構造となっています。これまで車両連結部などに脱出口を設けた事例[3]東京メトロ副都心線のホームドアなど。はありますが、1両あたり複数個所に設けることでより迅速な脱出が可能になりました。
閉扉時に車両とホームドアの間に取り残された旅客や荷物を検知するため、各開口には3次元で赤外線レーザーを照射する方式の支障物センサが設けられています。従来のホームドアは光電管センサを複数配置する方式が主でしたが、利用客数が多く編成両数も11両と長い山手線で安全性を確保するには3Dセンサの導入が必須となり、なかでも雨や光などの外乱に影響されにくい3次元赤外線レーザー方式が採用に至ったそうです。
ホームドアは補強用鋼板(ベースプレート)を介してホーム上に固定されています。このベースプレートはPC床板に固定された最下層に加えて、高さ方向の調整プレート、線路方向の調整プレートを備えた3層構造となっており、ホームドア本体設置後に位置を微調整することを可能としました。
1.2 先頭車の拡幅開口・特殊ドアピッチ部分
基本の開口幅は2,000mmですが、両先頭車の乗務員室直近に限っては幅2,900mmの拡幅開口となっています。これは2010年当時の山手線で使用されていたE231系500番台に対して、E233系などの次世代型車両は前頭部に衝撃吸収構造を取り入れた関係で乗務員室が広くなり、E231系と比較して乗務員室直近のドア位置に880mmの差異が生じているためです。
田町駅~田端駅間ではトラブル時などに並行する京浜東北線(E233系)が山手線の線路を使用する場合があることや、将来的にE231系の後継として山手線へ導入される車両(実際に2015年からE235系が導入)を考慮して、このようなドア位置の違いを吸収できる大開口ホームドアが採用されました。
1-2番目ドア間はドア同士の間隔が狭いため、筐体は左右の扉を互い違いで収めるオフセット型となっており、通常の筐体より厚みが大きく緊急脱出口も設けられていません。このような特殊構造になった関係か、強度上の理由で扉のガラス透過部は設けることができなかったようです。
1.3 旧6ドア車位置への増設
ホームドア設置以前の山手線E231系には、1両あたりのドア数を片側6か所に増やした「6ドア車」が7号車と10号車に組み込まれていました。しかし、ホームドア導入にあたっては京浜東北線と山手線の線路共用を考慮して全車4ドア車の京浜東北線E233系とドア位置を揃える必要がありました。
さらに、京浜東北線は山手線より1両短い10両編成のため、通常の中間車とE233系先頭車ではドア位置のずれが大きすぎて、当時の技術ではそのどちらにも対応できるホームドアの開発が難しいという状況でした。
そこで、山手線E231系全編成の6ドア車を新造する4ドア車に置き換えて、そのうち10号車に組み込む新造車両(サハE231形4600番台)を中間車としては変則的な構造とすることで、E233系先頭車とのドア位置の差を640mmに抑えました。
6ドア車から新造4ドア車への車両組み換えは2010年2月頃より開始され、約1年半後の2011年8月末に全52編成が組み換えを完了しました。その後、E231系はE235系の導入開始によって中央・総武線各駅停車へ転用されましたが、サハE231形4600番台だけはE235系に改造・編入されて引き続き山手線を走っています[4]52両中48両はE235系に編入され、残り4両は廃車。。
なお、先行導入2駅にホームドアが設置された時にはまだ6ドア車と4ドア車が混在していたため、7号車と10号車部分のホームドアは6ドア車置き換えが完了してから増設されました[5]2駅とも2011年10月29日に稼働開始。。ただし、この2駅は京浜東北線との並行区間ではないため10号車4番ドアの開口幅も通常と同じ2,000mmです。
2 ホームドアの開閉方式
ホームドアの開閉方式には、トランスポンダ装置を用いた送受信により車両ドア側の開閉操作と連携するシステムが採用されました。トランスポンダ式の連携制御は当時最も主流だった方式です。
ホームドア導入を前に、山手線E231系にはホームドア車上装置とTASC装置を搭載する改造が施工されました。列車が±350mmの許容範囲内に停止すると、1号車(外回り方先頭車)に搭載された「ホームドア車上子」と線路側に設けられた「ホームドア地上子」がピッタリ重なって情報の送受信が可能になります。
また、運転台の戸閉知らせ灯の点灯条件にホームドアの開閉状態も加えることで、車両ドアとホームドアの両方が完全に閉まるまでは力行回路が構成されず列車を起動できない仕組みとなっています。
最後部には車掌用開閉操作盤が設けられていますが、通常は使用されないため蓋が取り付けられいます。その上にある横長いバー上の灯具は、稼働後の検証で新たに追加された車掌用定位置表示灯です。列車が定位置範囲内に停止したかどうかを車掌が判断しやすくなったことで、停止位置修正が必要な場合のタイムロス抑制に繋がったそうです。
車掌や駅係員に対してホームドアの開閉状態や故障状態などを表示する状態表示板がホーム上方に設けられています。「連携」「ラッシュ」「分離」という3つのランプは現在の運転モードを示しており、通常は「連携」が点灯しています。「ラッシュ」は閉扉のみ非連携扱いになるモードで、車両に収まりきらない乗客を押し込む(いわゆる「押し屋」)作業を終えてから、駅係員がホーム中央付近の筐体に内蔵されている駅係員用操作盤からホームドアを閉めます。
3 おわりに
先行導入駅では約2年間にわたって技術的な課題や列車運行に与える影響などが検証されました。その結果を反映して2012年度に大崎駅から設置が始まった本格導入タイプのホームドアは、軽量化・施工性の向上や安全性のさらなる強化などのために構造が一部見直されています。
出典・参考文献
- 山手線への可動式ホーム柵の導入について-恵比寿駅・目黒駅へ先行導入します-:JR東日本
- 山手線恵比寿駅、目黒駅のホームドア使用開始日について:JR東日本
- 第4回ホームドアの整備促進等に関する検討会の結果について – 国土交通省
- 斎藤 修、小山田 美和「ホームドア3次元安全センサーの開発」『JR EAST Technical Review』No.33、2010年、p39-42
- 島津 優、岩崎 幸太、浜走 幸育「山手線ホームドア整備の現状」『JREA』Vol.55-No.4、日本鉄道技術協会、2012年、p36757-36760
- 石川 雅一、廣瀬 寛、加藤 幸夫「山手線E231系500番台 ホームドア導入に伴う車両改造概要」『R&M : Rolling stock & machinery』2010.9、日本鉄道車両機械技術協会、p11-13