東京メトロ 東西線のホームドア:大開口タイプ
タイプ | 腰高式(二重引き戸タイプ) | |
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メーカー | ナブテスコ | |
開閉方式 | 開扉 | 自動(定位置停止検知) |
閉扉 | 自動(ドア開閉検知) | |
停止位置許容範囲 | ±750mm(TASCなし) | |
開口部幅 | 3,320mmまたは3,585mm | |
非常脱出ドア | なし | |
支障物検知センサ | 3Dセンサ |
東京メトロでは、2013年度末の時点で全9路線中4路線にホームドアが完備されており、その他の路線についてもホームドア導入に向けての検討が進められていました。しかし、東西線は「ワイドドア車」をはじめドア位置の異なる車種が混在しているため、従来のホームドアでは対応が困難でした。
そこで、扉を二重引き戸構造として従来より開口幅を広げた「大開口ホームドア」の開発に着手します。2015年3月から同年9月までは妙典駅1番線で、2016年3月から2017年3月までは九段下駅2番線でそれぞれ試作機による実証試験が行われ、2018年2月17日の九段下駅を皮切りに本格導入が開始されました。
目次
1 大開口ホームドア導入の経緯
朝ラッシュ時の混雑が非常に激しい東西線には、乗降時間の短縮を図るためにドア幅を標準より500mm広い1,800mmに拡げた「ワイドドア車」が導入されています。また、その他の自社車両や、直通運転で乗り入れるJR東日本および東葉高速鉄道の車両もそれぞれドアピッチが多少異なるため、ホームドアは全ての車両ドア位置に対応できなければなりません。
さらに、列車の停止精度を向上させるATO(自動列車運転装置)またはTASC(定位置停止装置)を導入するには車両改造に多くの費用・時間を要すため、当面は運転士の手動ブレーキングのままでホームドア整備を始めることになりました。それには停止許容範囲を広げて運転士の負担を軽減することが求められます。
東西線へのホームドア導入に際して課題になったのは主に上記の2点です。これらの条件をクリアするには最大約3.6mの開口幅が必要になり、従来の1枚扉だと戸袋スペースが足りないことから、全ての開口部に二重引き戸構造の扉が採用されました。
上図は東西線の主な車種とホームドアの関係を示しています。全形式の車両ドア位置を考慮し、なおかつ停止許容範囲±750mmを確保した結果、開口幅は3,585mmまたは3,320mmとなりました。これまで東京メトロが他路線に導入したホームドアよりも1mほど広く、設置当初は在来線における全国最大クラスの開口幅でした。
ちなみに、07系はかつて有楽町線で活躍していましたが、変則的なドアピッチがホームドア導入の支障になったことから東西線へ転属してきました。技術の進歩によってそんな車両にも対応できる大開口ホームドアが実現したのです。
2 ホームドアの仕様
2.1 共通仕様
開発主体となったメーカーはナブテスコです。妙典駅1番線に設置された試作機と比較して、扉の透過ガラス部を大幅に広げたことで列車とホームの隙間が確認しやすくなり、黒を基調に東西線のラインカラーであるスカイブルーを取り入れたスタイリッシュな配色となりました。
1ホームにつき4か所または5か所の車両連結部筐体には非常停止ボタンが内蔵されています。ホーム両端の乗務員出入り口を除き、手動で開けられる緊急脱出口は設けられませんでした。
なお、大開口ホームドアもメリットばかりではありません。筐体は二重引き戸を互い違いに収納するためかなり分厚く、1基あたりの重量も従来が約500kgだったのに対して約100kg増加しているそうです。開閉時間がわずかに長くなる点も過密路線としては見過ごせない問題で、後述する開閉システムの導入によって停車時間の抑制が図られています。
2.2 デジタルサイネージの廃止
初期(2017年度~2019年度初頭)に設置された高田馬場駅~竹橋駅の6駅では、各号車2-3番ドア間の筐体に広告やニュースなどを放映するデジタルサイネージが組み込まれています。しかし、2019年度以降の設置駅ではコスト削減のためか廃止されました。
3 ホームドアの開閉方式
前述の通り、東西線では車両改造を見送ってホームドア整備を開始することになったため、車両ドアとホームドアの開閉を同期するためのトランスポンダ装置も導入せずに、地上側設備のみで車両ドアの開閉等を検知してホームドアを自動開閉するシステムが導入されました。
ただし、これはホームドア早期整備を実現するための一時的な対策であり、将来的には東西線もATOによる自動運転およびホームドア開閉連携が行われる見込みです。具体的な開始時期は不明ですが、すでに車両側の改造工事や地上側設備の新設が進んでいます。
現在の自動開閉システムについては別記事で詳しく紹介しています。
4 おわりに
東西線のホームドアは今年度までに12駅で整備されました。残る11駅の整備は少し間が空いて2024年以降に行われる予定で、東京メトロ全体としても2025年度末までに全路線全駅のホームドア整備を目指しています。
そこで注目されるのは将来的なATO導入の予定です。自動運転なら停止許容範囲を狭められるので、現在ほどの広い開口幅は必要なくなります。つまり、ATO導入がホームドア整備完了より先に行われたとしたら、それ以降に設置されるホームドアは開口幅などの仕様が変わるのかもしれません。
実際、2017年に発表されたホームドア全駅設置計画の資料には、東西線のホームドアについて「ドアサイズは通常および大開口」と書かれており、2024年以降設置分を受注したナブテスコのニュースリリースにも「今回受注分は設計中で、外観デザインは変更される予定です。」という注釈があります。一体どんなタイプになるのでしょうか。
出典・参考文献
- 東京メトロ全路線全駅のホームドア設置計画を決定しました|東京メトロ
- 新型ホームドア導入検討の手引き – 国土交通省
- 東京メトロ東西線及び半蔵門線のホームドア・可動ステップを受注 – ナブテスコ株式会社
- 篠木 紀仁「東京メトロのホームドア開発」『Cybernetics : quarterly report』Vol.22-No.4、日本鉄道技術協会、2017年、p16-21
- 酒井 治郷「東京メトロにおけるホームの安全の考え方と施策」『鉄道車両と技術』Vol.23-No.4、レールアンドテック出版、2017年、p9-16