都営地下鉄 浅草線のホームドア:QRコードを用いた制御システム

都営5500形のドアに貼付されている「tQR」。スマホなどの一般的なデバイスでは読み取れない

都営地下鉄浅草線のホームドア整備は2019年度から始まり、2023年度末までの全駅整備が予定されています。しかし浅草線は4社の鉄道会社と相互直通運転を行っており、編成両数やドア数が異なる様々な車両が乗り入れることがあるため、それらを判別してホームドアを制御しなければならないことが重要な課題でした。

簡単・低コストにこの課題を解決する方法として都交通局がデンソーウェーブと共同で開発したのがQRコードを用いたホームドア制御システムです。なお、このシステムは直通運転を行う京浜急行電鉄でも採用されましたが、当記事では浅草線の仕様について紹介します。

1 QRコード式制御システムの仕組み

1.1 概要

このシステムの基本は、光の反射などに影響されにくい新型QRコード「tQR」を車両ドアのガラス部分に貼り付け、それをホーム側のカメラが読み取ることでホームドア開閉を制御するものです。

(1)定位置停止検知・ドア開閉検知

左右の車両ドアに貼付されている2枚のQRコードは、列車自体が移動している時は同じ方向に移動し、ドアが開閉している時は別々の方向に移動します。このようなQRコードの横方向の動きをカメラが読み取ることで、列車が定位置範囲内に停止したこと、ドアを開閉したことなどを検知し、その判定結果をもとにホームドアを自動開閉することができます。

列車の乗務員は車両側ドアの開閉操作だけに専念できるため、ヒューマンエラーの防止や余計な停車時間の増加を抑えることも可能になりました。

(2)車種判別

QRコードに格納されている車種情報を読み取ることで、ドア数や編成両数の異なる列車に対しても、必要な箇所のみのホームドアを自動で開きます。浅草線内を走行するのは通常8両編成3ドア車のみですが、臨時列車などで異なる車両が入線しても特別な操作は必要ありません。

1.2 QRコードの貼付位置

都営の所有車両および相互直通運転を行う京急電鉄・京成電鉄・北総鉄道の車両も含めてQRコードが貼付されています。ただし京成車のうち直通運転に使われない6・4両編成などの車両は対象外となりました。

QRコードの貼付箇所は全てのドアではなく、編成両数ごとに決まった号車の3番ドア(成田空港方)です。

1.3 QRコード読み取りカメラユニット

浅草線内では3か所にQRコード読み取りカメラが設置されており、多数決で判定を行う

車両ドアのQRコードを読み取るカメラは3基で1ユニットとなっており、そのユニットが1ホームにつき3箇所設置されています。前述の通り、QRコードは1編成あたり何両かの号車に貼付されており、読み取りカメラも複数個所でそれを検知して多数決で判定を行うため、一定以上の冗長性が確保されています。

1.4 定位置停止検知センサ

定位置停止検知センサも冗長性のため2系統用意されている

前述の通り、QRコードの移動方向のみで列車の到着→ドア開閉→出発を全て検知することは出来るそうですが、万が一の誤検知などで意図せぬホームドアの開扉が起きないように、列車が確実に停止していることを検知する3Dセンサを併用しています。設置個所は1ホームにつき1か所の車両連結部正面で、設置個所は原則として1ホームにつき1か所の車両連結部正面で、連結部の位置により定位置停止を検知します。

1.5 各種機器の配置とQRコード貼付位置の関係

一例として、新橋駅におけるQRコード読み取りカメラ・定位置停止検知センサの配置は上図の通りです。

ホームドア設置に伴い6両編成の停止位置が後部寄りに変更され、各種機器は8両・6両のどちらでも読み取りが可能な位置に設置されています。

2 浅草線と京急で異なる開閉動作

QRコード式制御システムは直通する京浜急行電鉄でも採用されていますが、ホームドアの開閉動作は両者で以下のように異なっています。

  • 浅草線:ホームドアが車両ドアより先に開く
  • 京急:ホームドアが車両ドアより遅れて開く

すなわち、浅草線の仕様は列車の定位置停止と車種情報が認識できた時点でホームドアを開けるのに対し、京急の仕様はQRコードの動きで車両ドアが開き始めたことを検知してからホームドアを開けるという大きな違いがあります。なお、泉岳寺駅については全ホームが浅草線の仕様です。

ホームドアは旅客のスムーズな乗降のために車両ドアより先に開くのが通例で、他方式の制御システムでも列車の定位置停止を検知すればすぐに自動開扉するのが一般的です。なぜ京急は車両ドア開扉を検知してからホームドアを開扉する仕様なのか、これについては別記事で考察しています。

3 ホームドア表示灯・停止位置表示灯

表示内容の推移
ホームドア閉扉で再び②になり、列車が定位置を離れると①に戻る
車掌側の「停止位置表示灯」はホームドアの操作盤付近に設けられているため一体になっていない

運転士用と車掌用それぞれに、列車の出発時機や閉扉合図を伝達する「出発表示器」と一体となったホームドア関連の表示灯が設けられています。「停止位置表示灯」は列車が定位置範囲内に在線中点灯し、「ホームドア表示灯」は定位置範囲内に在線中なおかつホームドアが閉扉状態の際に点灯します。

泉岳寺駅1番線の京急仕様ホームドア表示器

なお、京急線と接続する泉岳寺駅1・4番線には、京急の乗務員向けとして京急線内仕様のホームドア表示器も併設されています。

4 C-ATSとの連動

ホームドアが開扉している間は、運転保安装置C-ATSが「A0」信号を出力することで車両の力行回路がカットされ、列車が出発できないようにしています。なお、京急線内における「NC」信号と名称こそ異なりますが基本的には同じもので、本来「A0」および「NC」信号は停止信号手前で停止した際に出される信号です。

5 おわりに

前述の通り、このシステムは直通運転を行う京急電鉄でも採用されました。京急線内は日常的に編成両数やドア数の異なる車両が入り乱れているため、浅草線以上にこのシステムのメリットが発揮されています。

その一方で、同じく直通先の京成電鉄はQRコード式ではないホームドア制御システムを採用しました。浅草線と京成線が接続する押上駅も2023年度中のホームドア設置が予定されており、整備は駅を管轄する京成が担当するため、どちらのシステムが導入されるのか注目です。

出典・参考文献

脚柱

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