JR東日本のホームドア:八高線拝島駅5番線の昇降式ホーム柵(2021年撤去)

タイプ 昇降バー式
メーカー 高見沢サイバネティックス
開閉方式 開扉(上昇) 自動(定位置停止検知)
閉扉(下降) 車掌手動操作
停止位置 ±750mm(TASCなし)
開口部幅 4,170mm(基本)
寸法 支柱高さ 下降時1,700mm・上昇時2,441mm
ロープ高さ 下降時1,285mm(最上部) ・上昇時2,000mm(最下部)
安全装置 近接検知・支障物検知 光電センサ
居残り検知 光電センサ(ラインセンサ)

JR東日本の拝島駅(東京都昭島市)八高線上りホーム5番線では、一般的なホームドアより軽量で低コストな「昇降バー式ホーム柵」の試行導入が2015年3月28日から開始されました。それから6年以上に渡って運用は続けられましたが、2021年10月26日をもって試行期間が終了し、同日終電後に撤去されています。

1 昇降式ホーム柵導入の経緯

JR東日本が2010年度から進めてきた山手線のホームドア整備では、重量のある筐体を支えるためのホーム改良をはじめ、車両ドアとホームドアを開閉連携するシステムや、列車の停止精度を向上するためのTASC(定位置停止装置)など、関連設備を含めて導入には多額の費用が必要でした。

そこで、今後のさらなるホームドア整備拡大を目指すための検証を行うことになり、様々なメーカーが開発を進めている新型ホームドアの中から総合的に勘案された結果、高見沢サイバネティックスの「昇降バー式ホーム柵」が試行導入の対象に選ばれました。

2 ホームドアの仕様

昇降バー式ホーム柵は列車発着時に3本のFRP製バーが上昇・下降することでホームドアとして機能を有しています。一般的なホームドアと比較して軽量なため設置コストを抑えられることと、設計最大約4.5mの広い開口幅でドア位置が異なる車種などにも対応可能であることが大きなメリットです。

なお、当時JR西日本と日本信号が開発を進めていた昇降式ホーム柵はロープが上下するものであり、見た目は似ていても構造は全く異なります。バー式はロープ式ほどの長大な開口幅[1]ロープ式の設計最大開口幅は約13m。を確保することができないため、あくまでも一般的なホームドアの代替としての活用を前提とされています。

各種安全センサ

昇降中のバーや支柱への巻き込み防止のため、本体には多数の安全センサが設けられています。閉状態での本体・支柱高さは人の身長と同等の1,700mmで、乗務員からのホーム視認性にはやや難があるため、本体の設置位置をホーム縁端から約700mmセットバックすることで視認性を向上させています。

なお、メーカーは高さを一般的なホームドアと同等の1,300mmに抑えた「視認性改良型」をのちに開発しており、2020年7月に箱根登山ケーブルカーの早雲山駅で導入されています。

1-2号車連結部の筐体には駅係員用操作盤が内蔵
その他の筐体はドア間・連結部ともに共通

基本の開口幅は4,170mmです。当時の八高線(電化区間)で運用されていた205系と209系[2]ホーム柵稼働後の2018年頃よりE231系が他線区から転入し、205系は2019年7月に引退。はドア位置が若干異なり、さらにTASC(定位置停止装置)等の運転支援装置が未整備なため停止余裕を一定以上確保する必要があるなど、通常より開口幅を広げる必要がある条件下において昇降バー式ホーム柵はとても有効的と言えます。

3 ホームドアの開閉方式

同駅のホームドア開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉:自動(定位置停止検知)
  • 閉扉:車掌手動操作

山手線のホームドアはトランスポンダを用いた通信で車両ドアと開閉連携していますが、今回の試行導入では車両側の改造を必要としないことが条件の一つとされたため、車両ドア開閉と非連動のシステムにより運用されています。

列車停止検知センサ(高麗川方)
列車停止検知センサ(八王子方)
広いスペースが確保された操作盤周辺
乗務員用操作盤を正面から

列車がホームに進入し定位置範囲内に停止すると、ホームの両端に設置されている「列車停止検知センサ」の判定結果に基づきホーム柵が自動で上昇し、車掌はホーム柵上昇を確認してから車両ドアの開扉操作を行います。発車時は車掌がホーム柵→車両ドアの順に閉扉操作を行います。ホーム柵を先に閉めるのは、開状態では支柱により視認性が悪いことや、ホーム柵が開いたまま列車が出発することを防ぐためだと思われます[3]JR東日本の首都圏在来線では列車発車時の車掌によるブザー合図は行っていないため。

4 車両のホームドア対応改造について

八高線・川越線(八王子駅~高麗川駅~川越駅[4]一部列車は南古谷駅まで乗り入れ。)ではワンマン運転実施が計画されているため、2020年度から車両のワンマン運転対応改造が順次行われていますが、これと同時に無線式ホームドア連携システムの機器も新たに搭載されています。無線式連携システムはトランスポンダ式よりも低コストなホームドア連携方式で、JR東日本では総武線快速の新小岩駅などで採用されています。

ワンマン化で車掌が廃止されれば拝島駅ホーム柵の開閉方式変更は必須になるため、無線連携システムにより開閉連携化することが狙いだと思われていました。

この車両改造については別記事で詳しく紹介しています。

5 試行期間終了・撤去

駅構内に掲示されたホーム柵撤去のお知らせ

2021年9月13日、昭島市の交通機関改善対策特別委員会にて、同駅のホーム柵が10月26日終電後に撤去されることが明らかとなりました[5]翌日、林まい子昭島市議議員の公式サイトにて判明。。主な理由として挙げられたのは以下の2点です。

  • センサ等の不具合が多発している。
  • 同じタイプのホーム柵を利用している駅が全国になく部品調達が難しい。

この時点で試行運用開始から6年以上が経過し、車両側の改造もほとんどの編成で完了していることから、このまま運用が継続されると思われていた中での撤去報道には大変驚きました。名目上は試行期間の終了とされていますが、前述した視認性の悪さなどがワンマン運転実施の支障になったのかもしれません。

6 おわりに

ロープ式はJR西日本の主要駅を中心に導入が進み、JR東日本でも成田空港駅にて採用された一方、バー式は残念ながら拝島駅での本格採用には至りませんでした。全国でもバー式の採用例は前述した箱根登山ケーブルカー早雲山駅だけですが、ケーブルカーならではの急斜面ホームにも適応できる構造上の利点が生かされています。いつかはロープ式のように多くの駅で本格導入されることを期待したいです。

出典・参考文献

脚注

References
1 ロープ式の設計最大開口幅は約13m。
2 ホーム柵稼働後の2018年頃よりE231系が他線区から転入し、205系は2019年7月に引退。
3 JR東日本の首都圏在来線では列車発車時の車掌によるブザー合図は行っていないため。
4 一部列車は南古谷駅まで乗り入れ。
5 翌日、林まい子昭島市議議員の公式サイトにて判明。

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