JR東日本 房総地区209系の成田空港乗り入れ用ホームドア対応工事
JRの成田空港アクセス列車といえば特急「成田エクスプレス」と横須賀線・総武線快速からの直通列車が主ですが、1日3往復のみ普通列車として幕張車両センター所属の209系2000番台・2100番台も乗り入れています。JR成田空港駅・空港第2ビル駅では2020年度に昇降式ホーム柵が整備されることから、同形式の一部編成でも2019年5月頃からホームドア対応工事が順次施工されました。
目次
1 無線式ホームドア連携システムについて
JR成田空港駅・空港第2ビル駅の昇降式ホーム柵は無線式ホームドア連携システムにより車両ドアと連携した制御が行われています。従来よりも低コスト・短期間で整備可能なこの方式は、JR東日本としては総武快速線新小岩駅と相鉄・JR直通線羽沢横浜国大駅[1]JR側の発着時のみ。で実績があるものの、成田空港両駅ではLF帯無線を廃止してUHF帯無線だけを使う新方式が導入されました。
詳しくは別記事で紹介しています。
2 改造工事の対象編成
2.1 ホーム柵稼働前の動向
幕張車両センター所属の209系2000番台・2100番台は4両編成と6両編成が在籍していますが、空港乗り入れ列車はいずれも4両を2本繋げた8両編成で運転されるため、4両編成のみが改造工事の対象となりました。ただし、1日3往復のために全編成を改造する必要は無いと判断されたのか、ホーム柵稼働までに改造されたのは全42本のうち半数程度だけでした[2]そのためホーム柵稼働後の空港乗り入れ運用は対応編成の限定運用になっている模様。。
なお、非対応の4両編成についても準備工事は行われており、非常用ドアコックの位置を示す表記および乗務員扉の停止位置確認用表記の追加と、後述の各種機器を取り付ける架台は設置されています。
2.2 その後の動向
ホーム柵稼働後の2020年8月頃から、当初は改造対象外だった6両編成にも改造編成が現れます。そのため6両編成の空港乗り入れ運用が設定されるのかとも思われましたが、これらの編成は2021年3月13日ダイヤ改正で6両編成の運用数が削減されたことを受けて、順次4両編成に組み換えられました。また、準備工事状態だった既存の4両編成にも本設工事が順次実施され、現在はほぼ全ての編成が対応済みになっているようです。
3 乗務員室に新設された機器
乗務員室内には無線連携システムの各種機器が設置されました。TASC(定位置停止装置)は搭載されていないため、床下機器の大きな改造は無かったものと思われます。
(1)UHF送受信部
ドア開閉情報などホームドア連携を行うための情報を地上側と送受信する「ホームドアUHF送受信部」は運転席のほぼ真上に搭載されました。
(2)FD表示器
ホームドアの連携モードや開閉状態、定位置停止などの情報を表示する「FD表示器」は運転台の左側壁面に設けられました。
(3)継電器部
各種装置の中でも特に大きい「継電器部」は乗務員室中央の背面に搭載されました。これに伴い助手席も改良されています。
(4)ホームドア連携スイッチ
強制的に連携モードと分離モードを切り替える「ホームドア連携スイッチ」は運転台ユニット助士側上面に設置されました。
(5)ホームドア分離出発スイッチ
故障等で地上側から「ホームドア全閉」情報が送信されず発車できない場合などに使用する「ホームドア分離出発スイッチ」は運転台右壁面に設置されました。
(6)ホームドア分離開扉スイッチ
地上側から「ホームドア全開」情報が送信されない場合に車両ドアのみ開扉できる「ホームドア分離開扉スイッチ」は3/4開スイッチの左横に設置されました。
(7)定位置表示灯
運転士向けのFD表示器とは別に、車掌向けにもドアが開閉可能である事を知らせる「定位置」表示灯がドアスイッチ上方に設置されています。
(8)その他
その他にも、運転席の背後付近に「電源部」と「分電盤」、助士側乗務員扉の上部にシステムの動作状況を記録する「記録部」が設置されています。
4 おわりに
幕張区209系の運用範囲で今後数年以内にホームドア整備予定の駅は無いため、搭載された機器を使用するのは当面のあいだ成田空港両駅だけのはずです。強いて言えば、千葉駅が2032年度末までの東京圏主要路線ホームドア全駅整備計画に含まれていますが、果たしてその時まで209系は現役で活躍しているでしょうか。
出典・参考文献
- 209系幕張車両センター編成表(最新版) | 4号車の5号車寄り
- 209系2100番台の編成短縮と伊豆急譲渡 | 4号車の5号車寄り
- 根本 卓、千葉 正志、布施 毅、横山 啓之、笠井 貴之、山上 正規「総武快速線新小岩駅ホームドア連携システム導入に向けた開発と今後の展開」『鉄道サイバネ・シンポジウム論文集』Vol.56、日本鉄道サイバネティクス協議会、2019年