JR東日本のホームドア:成田空港駅・空港第2ビル駅の昇降式ホーム柵

日本の空の玄関口・成田空港と直結する成田空港駅・空港第2ビル駅にはJR東日本と京成電鉄が乗り入れ、どちらの駅も連日多くの荷物を持った国内外からの利用客で混雑していました。東京オリンピック開催を前に安全確保と利便性向上を図るため、線路・駅などの鉄道施設を保有する成田空港高速鉄道株式会社が事業主体となり、JR線と京成線の両駅ともにホームドアを整備することを決定します。

JR線のホームでは車種ごとのドア位置の違いに対応するため「昇降式ホーム柵」が採用され、2020年3月17日に空港第2ビル駅で、19日に成田空港駅でそれぞれ稼働が開始されました。

1 昇降式ホーム柵が採用された経緯

JRと京成がそれぞれ求めた「多車種に対応するホームドア」は、全く別の形となって向かい合ったホームに並びました。

JR線と京成線にはどちらとも「車両ごとのドア位置の違い」という大きな問題がありました。京成線ホームでは「スカイライナー」などに使用されるAE形とその他の一般型車両でドア位置が大きく異なっていましたが、幸運にも技術の向上により実現した最大開口幅5m超の二重引き戸式ホームドアを駆使すれば対応できることが分かったため、2018年度に空港第2ビル駅で、2020年度に成田空港駅で整備が完了しています。

一方のJR線ホームには、空港と首都圏各地を結ぶ特急「成田エクスプレス」のE259系のほか、総武快速線・横須賀線直通のE217系・E235系1000番台、さらに普通列車として209系も乗り入れており、大開口ホームドアでも対応しきれないほどに車種ごとのドア位置がバラバラとなってしまいます。そのため、JR西日本の主要駅で既に実用化されていた「昇降ロープ式ホーム柵」がJR東日本では初めて採用されました。

2 ホームドアの概要

2.1 基本構造

タイプ 昇降ロープ式(支柱伸縮型)
メーカー 日本信号
開閉方式 開扉(上昇) 無線式連携
閉扉(下降) 車掌手動操作
停止位置 ±750mm(TASCなし)
開口部幅 約3.5m~約9m
寸法 筐体 高さ1,300mm×厚さ250mm
支柱高さ 下降時1,300mm・上昇時2,300mm
ロープ高さ 下降時1,200mm(最上部) ・上昇時2,000mm(最下部)
ロープ素材 カーボンストランドロッド
安全装置 近接検知・支柱引き込み防止 光電センサ
ロープ挟み込み防止 圧力検知センサ
居残り検知 3Dセンサ・光電センサ

両駅に設置された昇降ロープ式ホーム柵は、JR西日本テクシアと日本信号によって開発された「支柱伸縮型」と呼ばれるタイプのもので、列車発着時には支柱とともに5本のロープが上昇・下降することでホームドアとしての機能を有しています。

なお、2015年から拝島駅で試行運用が行われている昇降式ホーム柵は、高見沢サイバネティックスによって開発された3本のバーが上下するタイプであり、見た目は似ていても構造は全く異なります。

Aタイプ筐体
Cタイプ筐体

細かい部分の違いはあるものの、基本構造はJR西日本で導入されている物と同一です。筐体には4つのタイプがあり、左右2つに支柱がありそれぞれを個別に上下できるAタイプ、Aタイプの支柱をどちらか1本だけにしたB・Dタイプ[1]ホーム両端部に設置される。、メインポスト同士の間でロープを保持するCタイプの組み合わせで構成されています。A・B・Dタイプはメインポスト、Cタイプはサブポストとも呼ばれます。

昇降中のロープや支柱への巻き込み防止のため、多数の注意書きが記されているほか、安全対策として光電センサや圧力センサが設けられています。また、ロープと車両の間に取り残された人や物の検知は3Dセンサがメインのようですが、その死角をカバーするためと思われる光電センサも3基設けられていました。

2.2 デザイン・音声案内など

昇降動作時に流れる開閉チャイムにはJR東日本在来線の既設ホームドアと同じ音色が使用されています。また、このタイプのホームドアを知らない利用客も多いことへの配慮として、ホーム上では列車到着後にロープが上昇する旨を注意する4カ国語(日本語→英語→韓国語→中国語)の案内が数分間隔で放送されています。

筐体の帯色はJR成田線のラインカラーである緑色です。その下には車種ごとの号車表示と禁止事項のステッカーが貼られており、右下には「〇号機」というその筐体の番号が記されています。一方、線路側には車内から確認できる位置に駅名標ステッカーがあります。

2.3 1番線曲線部の特殊な配置

興味深かったのが、成田空港駅1番線のホームが曲線に掛かっている範囲は、ホーム柵を曲線に沿って設置しているのではなく、1ヶ所のA筐体(9・10号機)で少し強めの角度がつけられ、そこからはホーム自体よりも緩い曲線を描くように配置されていたことです。よってこの範囲では曲線区間の中心になるにつれて筐体がホーム内側へ寄っており、筐体とホーム縁との間を埋める部材が挿入されていました。

曲線区間のホームではロープの張力で支柱に枕木方向の荷重が掛かってしまいます。それを軽減させるために可能な限り緩い角度で筐体を配置し、代わりに1ヶ所だけ急な角度を担ってもらうことで保守をしやすくしたのではないかと推測しています。

3 車両ドアとの位置関係

成田空港に定期で乗り入れる3形式は、以下のように同じ形式でも車体長の異なる車両が含まれていることで、ドア位置の違いは一層複雑になっています。

  • E259系:先頭車21.0m・中間車20.5m
  • E217系・E235系:普通車20.0m・2階建てグリーン車20.5m
  • 209系:先頭車20.42m・中間車20m

また、TASC(定位置停止装置)などの運転支援装置は未整備のため、最大約9mの広い開口幅で全てのドア位置への対応と停止余裕±750mmを確保しています。

上図は1面1線で上下両方の列車が発着する空港第2ビル駅の筐体配置です。成田空港駅2番線は上図と同じ配置、成田空港駅1番線は上図を左右反転した配置となっています。メインポスト21基・サブポスト14基の計20ユニットで構成されており、開口部は34箇所あります。筐体の配置・順序や開口幅はかなりバラバラで規則性がほとんど見られません。

大きな特徴として、1日3往復のみ乗り入れる209系の8両編成(4両編成を2本連結)が発着する際に、筐体配置と停止位置設定の都合で下り先頭車側の数mが余分に開いてしまうという事象が発生しています。筐体配置は車両ドア位置だけでなく駅構造上の様々な制約も踏まえて決定されるため、やむを得ない事情があったのだと思われます。

4 ホームドアの開閉方式

4.1 開閉方式の概要

両駅のホームドア開閉方式は以下の通りです。

  • 開扉:無線式連携
  • 閉扉:車掌手動操作

両駅のホームドア開閉方式は、長年主流だったトランスポンダ式連携よりも低コスト・短期間で整備することが可能な無線式連携システムが使用されています。JR東日本としては総武快速線新小岩駅と相鉄・JR直通線羽沢横浜国大駅[2]JR側の発着時のみ。で実績のあるシステムですが、両駅では従来よりもさらに車両改造を簡略化することができる、路線・駅の構造的な特徴を活かした新方式となりました。

ただし、連携動作しているのは開扉操作のみで、閉扉は車掌がホーム柵→車両ドアの順に個別で操作するという変わった方式で運用されています。この理由は不明です。

新方式の概要は別記事で紹介しています。

4.2 車両の改造工事

両駅のホームドア整備に伴い、E259系全編成と209系2000番台・2100番台のうち4両編成の一部編成を対象にホームドア対応改造が実施されました。なお、E217系は新小岩駅のホームドア整備にともない改造済み、2020年冬にデビューしたE235系1000番台は新製時より対応済みです。209系の改造内容については別記事にまとめています。

4.3 各種機器の概要

(1)在線検知センサ

空港第2ビル駅のE217系・E235系用センサ
成田空港駅の209系用センサ
居残り検知センサを妨げないように設置されている

車種ごとの停止位置付近にそれぞれ設置されている測域センサ(北陽電機製の2D-LiDAR)が車両前面を測定して列車の定位置停止を検知します。列車が一定速度以下で定位置範囲内に進入すると、自動で「ロープが上がります」という音声が流れる点もJR西日本と同じです。しかし、このセンサだけでは車種の判別ができないため、例えばE217系がE259系の停止位置付近を通過した時にも音声が流れてしまう現象が起きていました[3]JR西日本では入線した車種を事前にIDタグで判別するため、このような現象は起きていません。

(2)編成検知センサ

在線検知センサだけでは車種の判別はできず、さらに編成両数が異なる場合もあるため、編成両数を検知するセンサでそれらを判別します。ホーム3ヶ所の編成検知センサは、センサから見て左右それぞれに車両が存在しているか否かを検知することで、列車がホームのどの範囲に在線中なのかを判定し、それに対応した部分のみのホーム柵を制御します。

なお、JR西日本でも全く同じ方法で編成両数の判別を行っていますが、筐体の居残り検知センサが車両検知を兼任することで編成検知センサを省略している駅もあります。

(3)乗務員用開閉操作盤

前述の通り、閉動作は車両ドア操作と連携していないため、車掌が開閉操作盤の「閉」ボタンを押してロープを下降させます。操作盤にはその位置に該当するユニットのみを上昇させる「1ユニット開」ボタンはあっても、編成全体の開操作を行うボタンは見当たりません。鍵の付いた蓋の内側にあるのでしょうか。

(4)ホームドア状態表示板

JR東日本在来線のホームドア既設駅と同じ状態表示板が設けられています。上部2つのランプは開閉状態および異常の有無を示し、その下の「開連携」「分離」は連携モードの状態を示しています。連携モード表示の一段目は空欄となっているため、完全な「連携」モードは現時点で備わっていないようです。

4.4 各種機器の配置と車種ごとの停止位置

上図は空港第2ビル駅における車種・編成両数ごとの停止位置と各種センサの位置関係を表しています。成田空港駅2番線は上図と同じ配置、成田空港駅1番線は上図を左右反転した配置です。

5 おわりに

ホーム柵そのものや列車検知システムはJR西日本で使われているものを「輸入」した一方、開閉チャイムや無線式連携の採用といった部分はしっかりJR東日本の要素が組み込まれており、様々な面で西と東のハイブリッドなホームドアとなりました。

JR東日本は2032年度末までに首都圏の主要在来線全駅へのホームドア整備を計画していますが、特急列車が運行されている路線では成田空港と同じくどう頑張っても普通のホームドアでは対応しきれない駅がたくさん出てくるはずです。はたして、西日本発祥の昇降式ホーム柵が首都圏の様々な駅にも普及してゆくのでしょうか。

出典・参考文献

脚注

References
1 ホーム両端部に設置される。
2 JR側の発着時のみ。
3 JR西日本では入線した車種を事前にIDタグで判別するため、このような現象は起きていません。

コメントする